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第五十九話 国王陛下の涙

 わたしのことを国王陛下が評価していたというのは驚きのことだった。


 ただ、そのまま評価し続けてもらえればよかったのだけれど、周囲の意見に影響されて、婚約した時のわたしに対する認識が後退してしまったことは残念だ。


 それだけこの王室でもわたしの悪評が立っていたのだろう。


 仕方のないことだと思う。


「今ではそなたとグラスジュールが結婚まで進み、幸せになることを願うようになっていたのだよ。でももうこの状態だ」


 国王陛下はそう言うと、涙をこらえつつ、


「これもそなたには話をしておこう。グラスジュールは親のわたしが言うのもなんだが、優秀な人物だ。そして、信じられないかもしれないが、本来は心のやさしい人物だ。グラスジュールがわがままで傲慢な態度を取るように変わってしまったのは、グラスジュールの実の母親がこの世を去り、今の王妃がわたしの妃として迎えられてからだった。わたしがもう少しグラスジュールに寄り添ってあげられれば、グラスジュールが変わることもなかったのでは、と思うと後悔しきりだ。しかし、わたしは今でも心のやさしさを失っていないと思っている。このまま王位につけば、心のやさしさを取り戻して、きっと名君になってくれると思っているのだ。ただ、その考えや行動を理解できない人物は多い。それがグラスジュールを傲慢な態度に走らせている理由のような気がする。始まりは、『周囲が自分のことを理解ぜず、嫌われているので、傲慢な態度を取り屈服させようとする』ということだったと思うのだが、それが、『屈服させようとするので、周囲の反発をさらに受ける』『反発を抑えるべくさらに傲慢な態度を取る』というようにエスカレートしてしまってきているのだ。ただ。これはもしかすると、グラスジュールの作戦ではないかと思うようになってきた」


「作戦ですか?」


「そうだ。ただ、グラスジュールがどういう方向で進もうとしているのか? それがわたしには理解ができないのだ。グラスジュールのことだから、きと一番いい作戦だと思って動いているのだとは思うのだが……。そこでわたしは、そなたにグラスジュールへの協力をお願いしたい。グラスジュールは今、とても厳しい状況にいる。しかし、わたしはまだ回復をあきらめたわけではない。これからグラスジュールの為、一晩中祈るつもりだ、今わたしは、グラスジュールが回復したことのことを考えて、あなたに話をしている。突拍子のないことを言っているかもしれないが、こうした先のことを話すことが、グラスジュールの回復につながるかもしれないと言う意味を込めて話をさせてもらっている」


 国王陛下の表情は真剣そのものだ。


 その思いに応えたい。


 わたしは、


「わたしにどれだけの力があるかはわかりませんが、グラスジュール殿下に協力させていただきます」


 と言った。


「ありがとう」


 国王陛下はそう言った後、涙を流し始めた。


 わたしも胸が熱くなってくる。


 しばらくの間、国王陛下は涙を流し続けた後、


「そなたにはこうした姿を見せて申し訳ないと思っている」


 と言った。


 わたしはその言葉を黙って受け止める。


 そして、国王陛下は涙を拭くと、


「わたしはグラスジュールが回復して、次期国王になってくれることを誰よりも祈っている。先程も申した通り、王位につけば名君になるのは間違いないだろう。グラスジュール以外の人物が国王になることは、今は考えることはできない。グラスジュールの病気のことを内密にしているのも、グラスジュール以外の人物を、今は後継者として考えたくはないからだ。そして、今、病気のことをを発表してしまったら、後継者のことで収拾のできない混乱が発生してしまうことを危惧しているということもある。混乱が発生してしまえば、この王国の国民に迷惑をかけてしまう。わたしとしてはそれを避けたいのだ」


 と言って、一回言葉を切った。


 涙をまた流している。


 わたしはどう国王陛下に言葉をかけるかということを考えていた。


 やがて、国王陛下は再び涙を拭いた。


「面白い」


「続きが気になる。続きを読みたい」


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