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第五十七話 危篤

 グラスジュール殿下がわたしの見舞いを断っている以上、ここで無理やり見舞いに行くと、グラスジュール殿下に嫌われる可能性がある。


 今のところ、嫌われてはいないので、そういうところは維持しておきたい。


 ただ、ここで行っておいた方がいいのでは、という気持ちがどうしてもある。


 グラスジュール殿下は自分の病気はは重いものではないと言っている。


 しかし、ここから急激に悪化する可能性がないとは言えない。


 自分でもなぜそう思うのかはわからないところはある。


 使者の様子からしても、急激に悪化すると思うのは、普通であればわたしの思い過ごしと言うべきものだからだ。


 でもその思いはそうして抑えつけようととしても湧き上がってくる。


 グラスジュール殿下の病状が悪化しないかどうか、心配になってくる。


 グラスジュール殿下のお見舞いに行きたい。


 わたしが行ってグラスジュール殿下を励ませば、その可能性はゼロに近づいていくのでは?


 わたしはもう一度使者に、


「申し訳ありませんが、もう一度言わせください。わたしはお見舞いに行きたいと思っております。これは絶対に無理なことでしょうか?」


 と言った。


 しかし、それに対して使者は。


「絶対とは申しません。しかし、グラスジュール殿下は明確にお見舞いを断っておりました。わたしとしては、グラスジュール殿下のご意志に従うしかありませんのdえ、その点はご理解ください」


 と応えた。


 今回は無理のようね……。


 グラスジュール殿下のところにお見舞いに行くことは、断念せざるをえなかった。


 わたしは、後数日すれば、グラスジュール殿下の病状は良くなる方向にだろうと思っていた。


 思っていたのだけれど……。


 ただ一方では、病状が悪化する方向に向かうという懸念がどうしても心の中から抜けないままだった。




 そして、その数日後……。


 使者がまたわたしのところにやってきた。


 今度は前回と違い、顔色が良くない。


 グラスジュール殿下の病状が悪化したのでは?


 わたしはそう思ったものの。生命に関わることだとは思いたくなかった。


 しかし、それは、


「リランドティーヌ様、グラスジュール殿下が今、危篤になっております、申し訳ありませんが、すぐにお出かけの準備をしていただき、わたしと一緒に王宮へ向かってください」


 という使者の言葉で粉々に打ち砕かれた。


 わたしは一瞬、言葉を失ってしまう。


 しかし、グラスジュール殿下の危篤というとても大きな危機を前にして、ただ心に大きな打撃を受けているだけではどうにもならない。


 わたしはすぐに心を立て直し始め、


「わかりました。すぐに準備をいたします」


 と言うと、使者はより真剣な表情になり、


「リランドティーヌ様、現時点でグラスジュール殿下が危篤だということを知っておりますのは。国王陛下と侍医とグラスジュール殿下の執事、そして、リランドティーヌ様のみでございます。他の方々には病気とのみお伝えしております。この王国の将来に関わることですので、国王陛下は、この限られた人たち以外にはくれぐれも内密にしてほしいと申されております。リランドティーヌ様も十分お気をつけてくださいませ」


 と言った。


「わかりました」


 わたしは使者の言葉にうなずくと、出かける準備を行い、使者と一緒に馬車でグラスジュール殿下のもとに向かう。


 使者に内密にと言われたので、父、継母、コルヴィテーヌには出かけることは伝えなかった。


 もっともここ数年、出かける時は、この三人に行先を伝えることは全くなくなっていたので、いずれにしても最初から行先を伝える気は全くなかった。


 わたしは馬車の中で、やはり数日前、グラスジュール殿下のお見舞いに行くべきだったのでは、と思っていた。


 心の中でそういう気持ちが湧き出していたのは、グラスジュール殿下の病状が悪化することを予測していたという面が強かったのかもしれない。


 その予測に従って、お見舞いをしていれば、病状の悪化を食い止められたのでは、と思わざるをえない。


 しかし、今はそれで落胆しているわけにはいかない。


 グラスジュール殿下には良くなってもらいたい。


 その為には、わたしの持っている治癒魔法の力を使うべきだ。


 自信がないからといって、使うのをあきらめてはいけない。


 グラスジュール殿下の為に、ここはその力を尽くしていくべきだ。


 一生懸命努力すれば、きっとグラスジュール殿下を治療できるはず。


 わたしはそう思っていくのだった。


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