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第五十六話 急病

 そして、三回目になると、もう心に余裕がでてきていた。


 一回目の時からグラスジュール殿下の前では常に微笑んでいようと思っていたわたし。


 それは困難なことではあった。


 しかし、二回目になると多少無理曖をしたところはあったものの、微笑みが続けられるようになり、三回目ともなると自然に微笑み続けることができるようになっていた。


 グラスジュール殿下の態度も、三回目になると変化してきていた。


 二回目までは、執務机から少し離れたところで席に座り、足を投げ出していた。


 傲慢そののものと言う態度だ。


 しかし、三回目になると、執務机に普通に座るようになっていた。


 わたしがそのことを言うと、


「ただの気まぐれだ」


 と言って微笑むことこそなかった。


 とはいうものの、傲慢なところが少し弱くなり、なんとなくやさしさが感じられるようになってきた。


 話をしている時も、ぶっきらぼうなものの言い方は同じではあったものの、二回目までと比較すると、わたしに対して少し配慮をし始めていることは感じられた。


 そして、わたしが帰る時の対応にも変化があった。


 二回目までは、


「もうここに来なくていいぞ!」


 と突き放す言い方をしていた。


 ところが、三回目の時は今までとは違い、


「お前との話はつまらないものではないな。また、お前の微笑みもそれなりのものであるということは評価してもいいだろう。そして、思っていたよりも根性があるとは言えるな。少しはお前のことを見直した。お前がわたしとの仲を深めたいと思っていることは理解してあげてもいいだろう。でもそれが長続きするかどうかはわからない。これが一年も二年も続けばたいしたものだがな。お前には少しも期待はしていないから安心していいぞ。まあ、わたしの方も当分の間は、『もうここに来なくていいぞ!』とは言わないようにする。そのことは約束しよう」


 と言ったのだった。


 もちろん全体的には、わたしのことを受け入れようとする言葉ではないように思える。


 また、わたしのグラスジュール殿下に対して仲を深めたいと思う気持ちが、長く続くとは思っていないようだ。


 それでもその気持ち自体を理解し始めていることは、大きな一歩だと思っている。


 また、


「もうここに来なくていいぞ!」


 と言わないようにすると言ってくれたのも、いい傾向だろう。


 ここまでは、わたしに対する「好意」をきちんと現した言葉までは、グラスジュール殿下から発せられてはいない。


 でも、四回目となる次回は、少し期待できるかもしれない。


 いや、期待をするだけではいけない。


 グラスジュール殿下のことを、わたしがやさしさで包むことができるぐらいになっていく必要があると思っている。


 残念ながら今のわたしは、まだそこまでの境地には達していない。


 次回はそこのところを念頭においてグラスジュール殿下と接していこう!


 そう思っていたのだけれど……。


 わたしが四回目となるグラスジュール殿下のところを訪れる当日の朝。


 王宮から使者があり、


「グラスジュール殿下は急病で今日は会えなくなりました」


 と伝えられた、


 わたしは驚いた。


 健康に何の問題も今までなかったグラスジュール殿下が急病……。


 容態が気になる。


 そこで、わたしは、


「ご容態はいかかがでしょうか? お見舞いに今から行きたいと思います」


 と使者に言った。


 治癒魔法はまだ使う自信はないので、今回使うのは無理そうだ。


 それでも何か役に立てそうなことがあるのでは?


 そう思い、今から王宮のグラスジュール殿下の病床へ行こうと思ったのだ。


 しかし、使者は、


「グラスジュール殿下は、『それほど重い病気ではないので、リランドティーヌは来る必要はない。今日わたしに会う予定だったので、病気になって会えなくなったことだけを伝えておけばいい』と申されておりました」


 と言う。


「グラスジュール殿下はそうおっしゃったのですね」


「そうでございます」


 使者はそう応えた。


「面白い」


「続きが気になる。続きを読みたい」


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