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第五十五話 二人だけでお話をしたい

 わたしはグラスジュール殿下と婚約してから三回、グラスジュール殿下ののもとを訪れた。


 グラスジュール殿下に話をしたように、一週間に一回の割合だった。


 ただ、わたしは一週間に一回「訪問」したいと申し出ていたのだけれど、「訪問」という形式にはならなかった。


 王室の意向により正式には、


「謁見を受ける」


 という形になっていたのだ。


「謁見」という形になる為、グラスジュール殿下だけではなく、国王陛下と王妃殿下と、謁見の間で儀式的なやり取りをしなければならない。


 主な家臣が出席する中での謁見だ。


 それほど長い時間ではないものの、緊張する。


 そして、王妃殿下を始めとして、グラスジュール殿下やわたしのことをよく思っていない人たちがここには多くいる。


 わたしたちに対する表情は厳しいものがあるので、気分はいいものではない。


 グラスジュール殿下は、わたしに対して、


「お前の方から婚約破棄を切り出してほしい」


 と言っていたのだけれど、その最終目的は別として、国王陛下以外の人たちは、わたしにそうした申し出をさせたいようだ。


 誰がその手に乗るものか!


 わたしは強くそう思う。


 わたしとしては、こういう形式的で気分を害してしまうようなことは省略したい。


 その後のグラスジュール殿下との語らいがあればそれで十分だ。


 とはいうものの、王室としては必要なことではあるので、仕方がないのだとは思っている。わたし自身にとっても、これを避けるとができないのであれば、前向きに検討していくしかない。


 圧力にめげることなく、微笑みで対応していけば、王室内の地位の向上につながる可能性があるので、その可能性にかけたいところだ。


 しかし、謁見を受けても、二人だけで話す機会がなければ、王宮に足を運んだ意味はほぼなくなる。


「謁見」の後、グラスジュール殿下と二人だけで会うということについては、最初の内は設定されていなかった。


「謁見」というものはそういうものだと王室内のしきたりではなっていたようだけれど、それは規則で決まっていたわけではないので、グラスジュール殿下の意思でそれは変更な可能なはずものだった。


 グラスジュール殿下自身に、わたしと二人だけで話をする気がないように思えた。


 そこでわたしは、グラスジュール殿下に対し、


「わたしがただ謁見を受けるだけでありますならば、王宮にお伺いする意味はないものと思っております、せっかく婚約者どうしになったのだから、二人だけでお話をしたいと思っております」


 という手紙を書いた。


 読んでくれない可能性もあった。


 しかし、その時はその時で仕方がない。


 その場合は、謁見の時、わずかな時間でもいいので、グラスジュール殿下になんとかお願いをしようと思っていた。


 すると、グラスジュール殿下は、わたしの要望を受け入れてくれた。


「謁見」を受けた後、グラスジュール殿下は自分の執務室で、それほど長い時間は取れないものの、わたしと「私的な話」をしてくれることになったのだ。


 多分、渋々ながら受け入れてくれていたのだと思う。


 時間は限られている。


 それでもわたしにとっては貴重な時間であり、救いだった。


 こうして三回、わたしはグラスジュール殿下と会い、「私的な話」をすることができた。


 グラスジュール殿下は会うと、


「まだ婚約破棄を決めないのか? おまえもなかなか強情だな」


 と毎回言ってくる。


 一回目の訪問では、そう言われて腹が立つこともあった。


 しかし、二回目になると、言われるのに慣れてきたせいか、その言葉は、いつもの儀式だと思うようになってきた。


 そして、わたしは一つ違和感を持っていることがあった。


 それはグラスジュール殿下が、


「わたしのことを嫌い」


 と言うことが全くないことだ。


 もしかしたらわたしに好意を寄せてきているのでは?


 そうした突拍子もないことまで思ってしまう。


 さすがにそれは夢想しずぎだとは思うのだけれど、わたしのことを全面的に嫌だと思っているわけでもないような気がしてきた。


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