第五十三話 婚約を破棄する意志はないわたし
「グラスジュール殿下は、素敵な方」
わたしはリランドティーヌ様とブリュマドロンさんが言っていたその言葉を信じたい。
そう思っていくと、わたしは、一つの仮説が心に浮かんできた。
継母である王妃殿下は、グラスジュール殿下の代わりに自分の子であるウスタードール殿下を王太子の地位をつけようとしていて、その勢力は増大してきていた。
このままでは王太子の地位が危ないところまできているので、周囲の人たちが誰も信じられなくなっているのだと思う。
人を信じられなければ、心はどんどん荒れていくようになる。
それが傲慢な態度に拍車をかけていくのだと思う。
そうなると当然、婚約しようとしているわたしのことなど、信じる対象にはなりえないということになる。
わたしのことを最初から受け入れようとしないのも、そういうところからきているのだと思われる。
ではどうすればいいのか?
グラスジュール殿下は、信頼できる人が欲しいのだと思う。
そういう人が一人でもいれば、グラスジュール殿下の心の荒れは抑制の方向に向かう可能性がある。
しかし、そうした人物がグラスジュール殿下の周囲には誰もいない。
側近でさえも、グラスジュール殿下を見限り始めていると聞いている。
今の時点で、グラスジュール殿下に信頼される存在になれる可能性があるのは、わたししかいないと思われる。
グラスジュール殿下がわたしに対する傲慢な態度を取らず、協力を要請してくれればいいのに、と思う。
でもそれは無理な話だろう。
わたしを怒らせる方向に向いてしまっているからだ。
わたしはそれに乗ってしまい、危うく婚約破棄を決意しそうになってしまった。
怒り自体はおさまってはいない。
それでも、
「わたしからの婚約破棄」
という選択肢は、わたしの中からはなくなった。
ただ、わたしが婚約破棄を申し出た場合、これからグラスジュール殿下はとのように生きていこうと思っていたのだろうか?
ますます孤立を深めるだけになり、グラスジュール殿下を王太子にしたい勢力を勢いづけるだけのことになった可能性が強い。
わたしにはよくわからない。
また、このままわたしと結婚した場合、「白い結婚」になるとも言っていた。
これについても、意図がよくわからないところだ。
ただ、婚約破棄をわたしの方からはしないと決めた以上、わたしはグラスジュール殿下との関係を改善していきたいと思っている。
時間はかかるだろう。
グラスジュール殿下も自分で言っているように、会う度に暴言を浴びせられる可能性は強そうだ。
わたしの方も我慢の限界を迎え、反撃をするところまで心が沸騰してしまうかもしれない。
ただ、そうなるとグラスジュール殿下の思うつぼになってしまう。
反撃した後は、こちらから婚約の破棄を切り出さなければならなくなるだろう。
それは絶対に避けたい。
わたしはグラスジュール殿下に暴言を浴びせられても我慢をしなければならない。
いや、我慢ということではなく、その暴言を受け流せるようにならないといけない。
先程も思ったことだけれど、グラスジュール殿下は自分が信頼したい人物を求めているのだと思う。
自分で言うのは少し恥ずかしい。
でもその人物に一番近い位置にいるのは、わたしのような気がする。
わたしが思っているだけだという可能性はないとは言えないのだけれど、もしこの暴言の嵐を乗り越えることができたのなら、グラスジュール殿下はわたしに対して心を開いてくれるかもしれない。
わたしがそう思っていると、
「リランドティーヌよ、今日は婚約破棄を切り出すことはないようだね」
とグラスジュール殿下が声をかけてくる。
それに対してわたしは、
「わたしはグラスジュール殿下とは先程も申しました通り、今日画締めて話をさせていただいたのです。まだグラスジュール殿下のことを良く知らないのに、婚約破棄のような大きな決断などできるわけがないではありませんか?」
と応えた。
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