第五十二話 待っているのは「白い結婚」
わたしは。
「ご機嫌を悪くしたら申し訳ないと思います。しかし、グラスジュール殿下はわたしとの婚約、結婚を決して望んでいるわけではないと思いました。そうであるならば、グラスジュール殿下から破棄を申し出ていただいた方がよろしいかと思います」
と言った。
それに対し、グラスジュール殿下は、
「わたしの方から婚約の破棄はしないよ」
と応える。
「なぜでしょうか?」
「これはわたしの愛情だよ。わたしから婚約を破棄されたら、お前の心は多分大きく傷つくと思う、でも、お前の方から婚約を破棄すれば、お互いにそのこころの傷は小さくてすむと思っている」
わたしはここでグラスジュール殿下に、
「わたしはお前に少し好意を持っている。だから、わたしから婚約を破棄することはない」
と言われることをほんの少し期待していた。
でもそれは買いかぶりだったようだ。
「まあ、とにかく、わたしはお前と仲良くなる気はない。わたしは自分でも思うのだが、わがままで傲慢な態度を取る人間だと思っている。お前の心が傷つくのは間違いない。お前が『悪役令嬢』だとしても、心の強さはわたしの足許にも及ばないだろうからな。お前の心が傷ついてしまったら、わたしは迷惑することになる。心が傷つく前に、わたしの前から去った方がいいぞ」
そう言ってわたしをあざ笑うグラスジュール殿下。
そして、さらに、
「もしお前がわたしの仕打ちに耐えて結婚したとしても、待っているのは『白い結婚』ということになる。つまり、わたしはお前のことを愛するようになることは一生ないと言うことだ。まあ、結婚をして後悔したとしても三年我慢すれば、お前は自由になれるから、それはそれでいいのかも。でもわたしはお前が三年も愛のない生活に耐えられるほどの心の強さを持っているとは思えないのだがな」
とわたしをあざ笑いながら言ってくる。
わたしはだんだん腹が立ってきた。
「どうやら怒っているようだね。わたしはこういう人間なのだ。これからもわたしと会う度に、怒ることになるだろう。今日。ここでお前の方から婚約を破棄してもらうと、お前にとってはメリットがおおいにあると思う。どうだ、ここで決める気はないか?」
グラスジュール殿下は、今度は猫なで声で言ってくる。
わたしは、
「そんなに言うのでしたら、こちらから婚約を破棄させていただきます!」
と言いたい気持ちが沸き上がってきた。
わたしのことを人扱いしないような暴言の数々。
ソフィディーヌ様とブリュマドロンさんは、グラスジュール殿下のことを素敵な方だと言っていたし、わたし自身も見かけが悪いだけで、本当は素敵な人ではないかという期待を持っていた。
でも、今日のこのやり取りで、グラスジュール殿下はただの見掛け倒しの人ではないかと思うようになってきた。
このような人と結婚するわけにはいかない。
対立をしている父と継母とコルヴィテーヌの三人と一緒に暮らすのは嫌だ。
それでもこのような人と結婚して、毎日苦しい思いをするよりはましだ。
そう強く思い始めていたのだけれど……。
一方で、グラスジュール殿下は、わたしに対して厳しい言葉を浴びせすぎている気がしていた。
グラスジュール殿下とは、今日会うまで、あいさつ程度しかしたことがない。
わたしのことは、「悪役令嬢」としての知識はあるだろう。
それで最初から、わたしを嫌っているというのは理解できなくもない。
しかし、グラスジュール殿下ほどの優秀な方であれば、少なくともわたしが実際にどういう人物であるかということについて、把握はしようとするだろう。
それなのに、そういう様子が全くない。
わたしを怒らせて、わたしの方から婚約を破棄させることが目的では?
そういうことが心の中に浮かんでくる。
とすれば、ここでわたしが怒るのは、グラスジュール殿下の思い通りになるだけだと思う。
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