第五十話 婚約式
グラスジュール殿下とわたしの婚約式は、滞りなく行われた。
始まる前のわたしはさすがに緊張していた。
自分のこれからの人生がこれで決まってくると言ってもいいからだ。
ただ、わたしは、この婚約式がきちんと成立しないのではないか、という心配を少しではあるもののしていた。
わたしたちの婚約に反対している人たちが王室内にして、その人たちが妨害する可能性はないとは言えなかったからだ。
その人たちは、
「お二人のどちらも悪評が多く立っているので、婚約し、そして結婚をしてもうまくいくはずがない」
という主張していたと聞いている。
わたしは、もっともな意見だとは思った。
とはいうものの、その人たちにこの婚約を妨害されるのは嫌だった。
せっかくフィリシャール公爵家を出るチャンスが来ているのに、それをつぶされかねないからだ。
しかし、その心配は杞憂に終わった。
反対していた人たちが、この婚約式の妨害をすることはなかった。
わたしたちの婚約は、
「ここにわたしグラスジュールとリランドティーヌの婚約の成立を宣言する」
というグラスジュール殿下の宣誓により成立した。
今回の婚約式では、王室。貴族の出席者は限られていた。
国王陛下と王妃殿下とグラスジュール殿下。
父と継母とコルヴィテーヌ。
有力貴族数人。
婚約の宣誓後に一応拍手があったものの、いずれも硬い表情をしていた。
ここに出席している人たちは、少なくとも婚約に表面上は反対をしていない。
しかし、国王陛下以外の人たちは、内心、悪評が立っているわたしたちのことを祝う気持ちはないのだろう。
それどころか、父、継母、コルヴィテーヌは、憮然とした表情だった。
心からわたしの婚約を歓迎していないのだと思った。
そういうことであれば、ここにこなければいいのに、と思ってしまう。
わたしたちの婚約のお披露目は、舞踏会で行われることになっているので、その時は、今よりもお祝いされることを願いたいところだ。
それには、わたしたちの評判を上げる努力を一生懸命しなければならない。
ただ、今日のところは、婚約は成立しただけでもよしとしなければならないだろう。
この婚約をまとめる為、フィリシャール公爵家の実務担当者は、ボランマクシドル王室とフィリシャール公爵家の間の調整を苦労して行ってくれていたので、感謝をしたいと思う。
婚約式でわたしが心配していたことはもう一つあった。
グラスジュール殿下のことだ。
婚約式の前はあいさつぐらいしかする時間がなかった。
そのあいさつも無視をされた。
そして、以前から聞いていたように、髪型は整っていないし、服装も礼服を着てはいるものの、この場には似つかわしくないラフな着こなしをしている。
朝と夜の二回、お風呂に入り、清潔さを保つ努力をしていると聞いていた。
髪もその時きちんと洗っていると聞いている。
でもその顎、髪を整えるということを一切しないそうだ。
どうにも理解できないことではある。
そのグラスジュール殿下を注意する人は誰もいないようだ。
以前はしていたのだろう。
しかし、言っても聞くようなタイプではないので、国王陛下や王妃殿下であえも、さじを投げてしまったのだと思われる。
わたしは、噂では聞いてけれども、今日実際にグラスジュール殿下を見て、そのあまりの酷さに婚約をするのが嫌になるのでは、と思ったのだ。
しかし、グラスジュール殿下の身なりについては、なんとか想定の範囲内でおさまっていた。
あいさつを無視されたのは少し腹が立ったものの、全体的には、婚約が嫌になるほどのことではなかった。
その点ではホッとした。
とはいうものの、それは想定内でおさまっただけであって、グラスジュール殿下に対して決していい印象を持ったわけではない。
こういう場ぐらいは、もう少しきちんとできなかったのか?
という気持ちはどうしても湧いてくる。
婚約が成立したら、身なりをきちんと整えてほしいとわたしは思った。
しかし、これはまだ始まりにすぎなかった。
この時点でのわたしには、それを想像することはできなかった。
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