第四十九話 婚約式へ
十月下旬のある日。
この地もすっかり秋が深まってきている頃。
秋晴れのいい天気の中、わたしはグラスジュール殿下との婚約式をする為、王宮に馬車で向かっていた。
フィリシャール公爵家からの出席者は、父と継母とコルヴィテーヌ。
馬車は三人と別。
とはいっても王宮ではこの三人といなければならないので、気が重い。
継母とコルヴィテーヌは別にいなくても、婚約は成立する。
「来なくていいのに」
ということはどうしても思ってしまう。
でもそういうことは言えない。
継母は、コルヴィテーヌをグラスジュール殿下の弟であるウスタードール殿下の婚約者にする為、この機会に王室の人たちとより一層、親しくなりたいと思っているようだ。
こういう思いを持っている以上、王宮へ行くのを止めることはできないと思う。
せめて父だけならばまだよかった。
本音としては、父とも一緒にはいたくない。
しかし、フィリシャール公爵家の当主である父がいなければ、婚約は成立しないので仕方がない。
三人のことはとにかく我慢するしかない。
それよりもはるかに大切なのは、グラスジュール殿下とわたしがこれからうまくやっていけるかどうかということだ。
グラスジュール殿下の婚約を断るという選択肢は初めからなかった。
わたしは、前世の記憶を思い出す以前から、この三人から離れて暮らしたいという気持ちを持っていた。
そして。前世の記憶を思い出してから、その思いはさらに強くなっていた。
わたしとってグラスジュール殿下の婚約は、三人から離れる大きな一歩になる。
したがって、グラスジュール殿下の婚約を受けることしか選択肢は存在していなかったのだ。
今までのグラスジュール殿下の噂は、グラスジュール殿下が普通の人ではないことを伺わせるものが多い。
いや、悪評がほとんどと言えるだろう。
その悪評を聞いて、グラスジュール殿下との婚約を断ろうと思ったことはないわけではない。
悪評の通りの人であれば、結婚まで進んでも幸せになれるとは到底思えないからだ。
しかし、わたしの生きる道は、グラスジュール殿下としかないとその度に思い直してきた。
どんな人であれ、このままフィリシャール公爵家にいるよりはましだと思ったからだ。
わたしはグラスジュール殿下とうまくやっていきたいと思っている。
何よりも、わたしはグラスジュール殿下のことを好きになっていきたい。
そして、相思相愛になっていきたい。
今日は、今世で一番と言えるほど気合を入れてお化粧をした。
この一か月の間、自分を磨く努力も一生懸命努力をした。
わたしが持っている中で、一番素敵だと思っているドレスも着用してきた。
グラスジュール殿下が普通のお方であれば、少なくともわたしのことを嫌いになることはないだろうと思っている。
思っているのだけれど……。
わたしの方も、今までは「悪役令嬢」として、悪評ばかり立てられてきた。
それが少し改善されたくらいで、そういう方がわたしのことを好きになるのだろうか?
わたしはどんなことがあってもグラスジュール殿下と結婚まで進もうという決意をしている。
でもグラスジュール殿下がわたしのことを嫌いになるのであれば、結婚に進むことはできない。
そういうことはどうしても思ってしまう。
しかし、間もなく馬車は王宮に到着する。
今、ここで悩んでいても仕方がない。
それに、グラスジュール殿下のことを素敵な方と言っている人たちもいる。
ソフィディーヌ様とブリュマドロンさんだ。
そういう方であれば、やがてわたしたちは相思相愛になれるはず。
わたしとしても、グラスジュール殿下が素敵な方であることを信じたい。
そして、馬車は王宮に到着した。
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