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第四十四話 意外な言葉

 わたしがグラスジュール殿下と会った時に、グラスジュール殿下がこれから暴君になりうる人物だと認識すれば、そこでわたしは致命的打撃を受ける可能性がある。


 そして、その可能性は強いのでは?


 もちろん、わたしの好みの人物の可能性もないとは言えない。


 その場合は、グラスジュール殿下のことを、


「好き」


 になることができるようになると思う。


 そして、


「愛」


 というところまで到達することができると思う。


 わたしとしてはそれが理想だ。


 ただ、今の時点では、そのことがきちんと言えないところが悲しい。


 わたしは、


「わたしはグラスジュール殿下とはまだほとんど会ったことがありません。あいさつ程度しかしたことがありませんが、これからグラスジュール殿下との婚約が成立した後は、自然に『好き』になり、『愛』していきたいと思っています」


 と応えた。


「なかなか無難な返答をするわね。まあ、今の状況だとそれしか返答のしようがないと思うけどね」


 ブリュマドロンさんはそう言った後、高笑いではなく普通に笑った。


 そして、


「あなたもグラスジュール殿下の悪評は散々聞かされているのよね? このままだと暴君になってしまうということとか?」


 と言ってくる。


「聞かないわけではありませんが……」


 何とも返答しにくいことを次々に言ってくるブリュマドロンさん。


 そこでわたしは、


「ブリュマドロンさんはグラスジュール殿下のことをどういう方だと思っていますの?」


 と聞いてみた。


 するとブリュマドロンさんは、


「いいことを聞きますわね、リランドティーヌさん。グラスジュール殿下は最近、悪評ばかり立つようになってしまっているのはあなたもご存じの通り。しかし、噂で流れているような酷い方ではでは絶対にありませんわ。幼い頃はよく話をしましたけど、その当時は心やさしい方だと思っておりました。今はたまにしか話す機会はなくなっていましたけど、その時もそれほど変わっているようには思えませんでした」


 とわたしにとっては意外なことを言った。


「それではグラスジュール殿下は、幼い頃持っていた心のやさしさを今でもお持ちとか?」


「わたしはそう思いますの。ただそれは多分、グラスジュール殿下が心を許した人だけだと思いますわ。まあ、この世界にどれだけの人々がいても、そういう方はわたしぐらいかもしれませんわね」


 ブリュマドロンさんはそう言うとまた笑った。


 そして、


「ああ、悔しいわ。グラスジュール殿下は素敵な方なのに、あなたのような人が婚約者の座につこうとしている。悔しくてたまらないわ!」


 と叫んだ後、


「でももう仕方がないとは思っている。あなたは、とにかくいい気にならないこと。お願いするわね!」


 と強い調子で言った。


 わたしはブリュマドロンさんに対し、すぐには言葉を返すことはできなかった。


 今までのブリュマドロンさんとの話を整理する必要があった。


 まず何と言っても、根本的な認識のずれがある。


 わたしはブリュマドロンさんに服従をしたつもりはない。


 そして、グラスジュール殿下と婚約することがほぼ決まったからと言って、いい気になるつもりもない。


 それどころか、グラスジュール殿下とうまくやっていけるかどうかという心配の方が強い。


 ただ、わたしはブリュマドロンさんの話を聞いて、理解をしたことがあった。


 グラスジュール殿下は、周囲が思っているような酷い方ではないとブリュマドロンさんは言っている。


 ブリュマドロンさんは、グラスジュール殿下に対して幼い頃から好意を持っているようだ。


 しかし、好意は持っているものの、恋愛というところまでは行っていないように思える。


 わたし以外の人が婚約者になった場合は、一応祝福すると言っていたからだ。


 婚約者候補がわたし以外だったら、グラスジュール殿下に恋する心までは持っていないブリュマドロンさんにとっては、許容範囲だったのだろう。


「面白い」


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