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第四十二話 わたしのライバル

「あら、リランドティーヌさん、ごきげんよう。今日も一緒に楽しく遊んであげるわね」


 わたしが教室に入った途端、一番聞きたくない声を聞いてしまった。


 ブリュマドロンさん。


 ボードセルテール公爵家令嬢で、わたしのクラスメイトでライバル。


 彼女の対応の仕方については、後で考えようと思っていたのに、いきなり話しかけられてしまった。


 残念ながら、家格はブリュマドロンさんの方が上だ。


 昔、このボードセルテール公爵家の人物の中に、ボランマクシドル王国の危機を救った英雄が出ている。


 それ以来、ボードセルテール公爵家は、ボランマクシドル王国随一の名門として扱われている。


 同じ公爵家ではあっても、家格にはかなり差が生じてしまっていた。


 その為、その家格を自慢して、いつも勝ち誇った態度でわたしに向かってくる。


 普通であれば、家柄の差で、わたしがブリュマドロンさんに服従しなければばらないのかもしれない。


 この学校の生徒は、貴族や平民の中から選抜された優秀な人たち。


 この学校では、身分や家格が違っていても、お互いを尊重する教育が行われている。


 身分差や家格差といったことで差別をすることは校則で禁止されていた。


 それでも、実際は、身分の高いものが身分の低いものに対してイジメを行ったり、そこまでいかなくても嫌味を言ったりすることは多かった。


 わたしがブリュマドロンさんに嫌味を言われるのも、仕方のないことではあった。


 しかし、今まで、わたしは決してブリュマドロンさんに屈することはなかった。


 わたしには、フィリシャール公爵家の令嬢としての意地がある。


 祖先が大きな功績を上げていようとも、この学校での今の立場は対等だ。


 もちろんこの学校以外の場所では、遠慮しなければならないことも出てくるのだけれど、学校の中であれば、校則を楯に反撃することができる。


 今までのわたしであれば、


「あら、リランドティーヌさん。相変わらずお美しいこと。でもわたしの方が何倍も美しいのですわよ」


 と高笑いをするところだ。


 しかし、わたしは、もうブリュマドロンさんとの言い合いはしない。


 前世の学校でも同じような状況で、家格が上のクラスメイトとわたしは毎日言い争いをしていた。


 学校内では問題にならなかったものの、このことはグラスジュール殿下に伝わることになり、


「リランドティーヌは、家格のことを考慮しない、思い上がった行動をする」


 という認識をグラスジュール殿下にさせてしまうことになった。


 このことは、わたしが婚約を破棄される主な理由にこそならなかったものの、影響を与えたことは間違いないだろう。


 この点も改善をしていかなくてはならない。


 わたしは、


「ごきげんよう、ブリュマドロンさん」


 と微笑みながら応えた。


 ブリュマドロンさんは驚いている。


 そして、


「リランドティーヌさん、あなた、言うことはそれだけですの?」


 とわたしに聞いてきた。


「そうですけど?」


「あなた、今日はちょっと変ですわ。もちろんいつもわたしに歯向かってくるという点では変な人ではあるのですけど、違った意味で変ですわね」


「自分では変だと思わっていませんけど。普通の対応をしているつもりですわ」


「いや、変ですわ。いつもでしたら、あなたはそこで高笑いをするでしょう。でも今日は、ただ微笑んでいるだけではないですか? これが変でないとすれば、何だと言うのです?」


 ブリュマドロンさんはそう言った後、ポンと手をたたく。


「わかりましたわ、リランドティーヌさん。あなたは、わたしに屈服することを選んだということなのね。それでいつものような反発をしないということね。うん、うん、それでいいのよ。あなたの家はわたしの家より家格が低いのだけれど、やっとそのことを認める気になったことね。うれしいことだわ。それとともに、わたしの方が人間として優れているということを認める気になったのね。まあ、この学校に入学してからの五年間、ずっとあなたには苦しめられてきて、あなたには恨みも持っているけど、今回、あなたがわたしに服従するということで、それは許してあげるわ。ありがたく思うことね」


 ブリュマドロンさんはそう言った後、高笑いをした。


 わたしは怒りそうになる。


 わたしはブリュマドロンさんに服従する気など全くない!


 そう叫びたかった。


 でもそんなことをしたら、また今までのような言い合いをする間柄に戻ってしまう。


 それで状況が悪化してしまうのは、わたしの方なのだ。


 ここはとにかく我慢するしかない。


「面白い」


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