第三十九話 怒りを我慢するわたし
継母との対決を避けることは、使用人たちのわたしに対する評判を良くすることにつながっていく。
しかし、一方では、悔しい気持ちも強い。
言い合いでは、継母に対して負けることはなかったのだけれど、勝ったことがあるとも言えない状態がずっと続いている。
継母に勝つまでは言い合いを続けたいという気持ちも強い。
でももうその気持ちは捨てなければならない。
悔しいが、このまま対決を続けてしまっては、わたしが生命を失うところまで行ってしまうだろう。
ここは我慢をするしかない。
わたしは、
「わたしは今まで、お父様には冷たくしてしまいました。そのことを反省しております。決して一時の気まぐれではありません。今日は、お父様の誕生日を心からお祝いするとともに、健康とこれからのご活躍を心から願っているのですわ」
と微笑みながら言った。
いや、微笑んではいるのだけれど、どうしても顔がこわばってしまう。
「心にもないことをよく言えたものね」
継母はそうしたわたしのことをあざ笑う。
わたしは怒りが沸き上がってきた。
でもここで怒っては、今日の我慢がすべて無駄になってしまう。
わたしはただ微笑むだけで継母には応えなかった。
すると父は、
「まあ、今日だけかもしれないし、本心ではないと思うが、一応気持ちは受け取っておこう」
と言った。
わたしと心を通わせる気持ちがないと思わせる言葉だ。
そして、なんだか残念そうな表情をしている。
父は継母とわたしの嫌味の言い合いを、いつも楽しんでいるような気がする。
その言い合いが始まらないので、そういう表情をしているのだろう。
どうしてもあきれてしまうところがある。
普通、こうした席での言い争いは、父のような立場の人が止めるものだ。
ただ止めるだけではなく、お互いの言い分を聞いて、おさめていくものだと思う。
しかし、父がそうした行動に出たことは一度もない。
言い合い自体を楽しみ、お互いが疲れたところで、
「リランドティーヌよ、なぜいつもお母さんに逆らうのだ。お母さんは尊敬する対象なのだから、言い合いなどもっての他だ」
とわたしに対して厳しく言うのがいつものパターンだ。
つまり、どんな時でもわたしの肩を持つということはないということになる。
これでは父のことをお祝いしようなどという気持ちになるわけがない。
わたしがその父をお祝いしようとしている意味を理解してもらいたいものだ。
まあ、
「一応気持ちを受け取っておこう」
と言っているので、今までに比べればましだと思うしかない。
それにしても、父はどうしてここまでわたしのことを嫌うのだろうか?
改めてそう思わざるをえない。
継母とは今でもラブラブで、その子供であるコルヴィテーヌのことはこの上なくかわいがっている。
先妻の子であるわたしのことを、継母やコルヴィテーヌが嫌うということを理解したいとは思わない。
とはいうもの、現実はそうなので、嫌々ながらも理解はせざるをえない。
しかし、実の父までわたしを嫌うとは信じられないことだ。
それだけ継母とコルヴィテーヌに心を奪われてしまっているのだけれど。
わたしだって父の娘だというのに。
このまま父とわかり合えないままではいたくない。
でも状況は厳しいと言わざるをえないわね……。
とはいうものの、それで落ち込んでいるわけにもいかない。
その後も、父や継母、そして、コルヴィテーヌが加わって、わたしをいつもの通り怒らせようとした。
わたしを怒らせて、ますますフィリシャール公爵家内での評判を下げていこうとしていたのだ。
しかし、わたしその手にはもう乗らない。
三人に対して決して媚びることはなく、終始微笑み続け、三人の攻勢をかわし続けていく。
もちろん怒りがこみあげてきたこともある。
今日、生まれ変わろうと決意したばかりなのだから、仕方のないことだと思っている。
しかし、顔がこわばりながらも、微笑みを何とか維持することができた。
これにより、この三人や使用人たちのわたしに対する印象は、変わり始めた気がしていた。
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