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第三十七話 父の誕生日を祝うわたし

 わたしは継母に対しては、いつも一歩も譲らない。


 こういうやり取りが続くのが今までの誕生日会だった。


 しかし……。


 前世の記憶が戻ってくると、このようなやり取りを今後もするのは危険だと思うようにだんだんなってきた。


 前世でも継母と対立していたわたし。


 今思い出していたようなやり取りを前世でもしていた。


 継母との言い争いではわたしの方が優勢だったので、わたしは継母よりも上だと思うようになっていた。


 そのことを内心喜んでいたわたしだったのだけれど……。


 継母の方が一枚上手だったことに、わたしは気がつかなかった。


 継母は言い争いでわたしに対して劣勢だったのを、


「リランドティーヌにイジメられている」


 という形にして反撃したのだ。


 そのことは、グラスジュール殿下の耳にも入っていき、婚約破棄の大きな理由の一つになっていく。


 これはわたしにとっては予想外のことだった。


 このことが前世だけで終わっていればまだいい。


 住んでいる国、周囲の人たちの名前は違うし、細かいところの状況は前世と違うところもあると思う。


 しかし、大局的なところでは、今世でも既に前世同じような道を歩みつつあると言っていい。


 このままでは、今度はグラスジュール殿下によって婚約を破棄されてしまいそうだ。


 ではどうすればいいのか?


 媚を売ることはしたくない。


 とはいうものの、わたしはこれから生まれ変わり、評判を高めていこうと思っている。


 その為には、少なくとも今までの反抗的な態度は捨てるしかなさそうだ。


 屈辱的な思いをしてしまうところだけれど、仕方がない。


 そう思ったわたしは、


「お父様、お誕生日おめでとうございます。これからも健康でご活躍されることを、心の底から願っております」


 と言った。


 わたしとしては、父に対して一番いいたくない言葉ではあった。


 今だってできればいいたくはない。


 しかし、何とか言い切ることができた。


 わたしの言葉があまりにも意外だったのだろう。


 三人ともしばらくの間、言葉が出てこない。


 やがて、父は、


「お前もお祝いの言葉をしゃべることができるのだな。意外だ」


 と言った。


 わたしはその言葉を聞いて、怒るというよりもガッカリした。


 心ある親であれば、


「お前もわたしのことを祝う気持ちが湧いてくるようになったのだね。うれしいよ」


 ち言ってくれるだろう。


 しょせんはわたしのことなど、どうでもいいと思っている人でしかないのだ。


 そう思っていると、今度は継母が、


「急にお祝いの言葉を言うなんて、どういった風の吹きまわし? 心にも思っていないことを言っても、ここにいる三人はだまされませんからね。まあ、そうした媚を売る態度にでたのは、何かあなたにほしいものがあり、それを獲得したいという野望でもあるからなのでしょうね。その野望はどうせ低俗なものなのでしょう。でもこの母がいる限りその野望は打ち砕いて差し上げますわ」


 と言って、高らかに笑った。


 今までのわたしよりも継母の方が、よほど「悪役令嬢」的だと思う。


 異母妹も、


「お姉様、もしお母様がおっしゃるように、低俗な野望をお持ちでしたら、今すぐに捨てた方が身の為ですわ。わたしはお姉様の身の上を案じております」


 と続けて言った。


 継母がそう言ってくるのは想定内なので、怒りは沸き上がってくるものの、まだ耐えられる。


 しかし、異母妹の言葉に対して怒りを抑えることは、なかなか難しいものがある。


 こういう場合、


「お姉様、一緒にお父様のこれからの健康と活躍を願っていきましょう」


 と言ってくれるのが、妹のあるべき姿だと思う。


 異母妹であるコルヴィテーヌは、幼い頃はわたしに対しては従順な方だったのだけれど、最近はそうではなくなった。


 継母の影響が強いと思う。


 ただ継母と違い、直接的な言葉ではない。


「面白い」


「続きが気になる。続きを読みたい」


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