第三十六話 父の誕生日
今、わたしは夕食会に出席している。
父、継母、異母妹とわたしの四人。
テーブルには料理が運び込まれている。
フィリシャール公爵家には、優秀な専属の料理人がいて、わたし以外の料理はおいしそうなものだと思うのだけれど……。
この三人はわたしの敵。
その敵と一緒に食べなければばらない上に、料理自体もわたしだけは粗末なもの。
いや、もし三人と同じ料理が食べられたとして、その料理がおいしかったとしても、そのおいしさは半減してしまうだろう。
しかし、今日はそういうことを言っている場合ではなかった。
わたしが生まれ変わろうとしていることを三人に認識してもらわなければならないのだ。
とはいうものの、仲良くなろうとは思っていないし、三人に対して媚を売ろうとしているわけでもない。
わたしの「悪役令嬢」的イメージを少しでも変えることさえできればいいと思っている。
夕食会が始まった。
父が、
「今日はわたしの誕生日。みんなわたしの為に集まってくれてありがとう」
とあいさつをすると、継母は、
「お誕生日、おめでとうございます。これからも健康で活躍してくださいね」
と微笑みながら言った。
異母妹も、
「お父様、お誕生日、おめでとうございます。お父様がこれからますます健康でありますことを願っております。そして、活躍されることを願っております」
と微笑みながら言った。
二人に対し、満面の笑みで応える父。
さて、次はわたしの番。
物心がついてから今までというもの、わたしのことをかわいがってくれない父に対しては、こうした記念日の時に、父のことを祝おうという気は全くなかった。
今までの誕生日では、一応言葉を発するものの、
「誕生日を迎えられましたね」
と冷たい言葉を言うだけだった。
こういう場合の典型的な物言いである、
「お誕生日、おめでとうございます」
「これからも健康でいてほしいと思います」
「これからも活躍してほしいと思います」
という言葉は一切使ったことがない。
父が渋い表情をするのを見て、わたしはいつも内心では、
「誰が継母や異母妹に肩入れする人のことを祝うもんですか!」
「わたしに祝われなくて渋い表情をしていますが、あたり前のことです」
「日頃わたしはここにいる人たちによって嫌な思いをしているし、苦しんでいるのだから、父だって少しは嫌な思いをすればいいのよ!」
「父の渋い表情を見ていると喜びが湧き上がってきます」
「わたしにお祝いしてほしければ、もっとわたしのことをかわいがればいいのよ!」
と思っていた。
ただ、こういう態度を取るのは、当然のことながら、継母の怒りを招いてしまう。
その度に、
「あなたはこういうお祝いの席で、なぜ自分の父上のお祝いをしようとしないの? 無礼としかいいようがないわ。わたしたちがお祝いをしているのだから、あなたもお祝いをしなきゃだめじゃないの!」
という怒りの言葉を発してくる。
こう言われても、服従するようなわたしではない。
「わたしは父に、『誕生日を迎えられましたね』と言いました。わたしの父の言う言葉は、これだけで十分だと思います」
「十分なわけはないでしょう!」
「父に対するお祝いは、あなたたちが十分すぎるほどしています。ですからわたしは、必要最小限の言葉で抑えているのです。別によろしいではありませんか」
「リランドティーヌ、あなたは母であるわたしやリランドティーヌに対して、いつも『あなたたち』と言っていますが、それは無礼ではありませんか? 特にわたしに対しては、『お母様』と言うべきです」
「あなたのことは、公爵夫人であることもわたしは認めたくありません。公爵夫人と言えるのは、わたしの実の母だけです。しかし、あなたが公爵夫人であうことは認めてあげます。これはわたしの譲歩です。ありがたく思ってください。でも『お母様』ということは絶対にありません。わたしにとってもお母様は、実の母親だけなのです!」
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