第三十三話 執事と侍女に謝るわたし
モイシャルドさんとリディレリアさんはわたしの発言を待っている。
わたしは心を整えた後、
「モイシャルドさん、そして、リディレリアさん、わたしはこれから生まれ変わろうと思っています。あなたたちに対して、今まで嫌味を言い、イジメをしてきたことを心から謝りたいと思います」
と言い、そして頭を下げた。
二人からの返事はない。
二人に対して謝ったことなど一度もないわたしが謝っているので、驚きのあまり言葉がでてこないようだ。
少し時間が経ってから、わたしは頭を上げた。
しかし、その後もしばらくの間、沈黙が続いた。
日頃冷静なモイシャルドさんも、さすがに少し困惑した表情をしている。
リディレリアさんの方は、困惑しきりで、言葉がでてこないようだ。
やがて、リディレリアさんは、席から立ち上がり、
「リランドティーヌ様、申し訳ありません」
と深々と頭を下げる。
今度はわたしの方が驚く番だった。
「どうしたのです?」
「リランドティーヌ様が謝るということは、今までないことでしたし、これからもないことだと思っておりました。そのリランドティーヌ様がわざわざ謝るということは、わたしの失敗を怒る為の前触れではないかと思ったのです」
「それで、先に謝ったということですか?」
「わたしがどういう失敗をしたのかはわかりません。しかし、リランドティーヌ様に迷惑をかけたのは事実なのでしょうから、謝らなくてはなりません。そこで、改めて謝らせていただきます。リランドティーヌ様、申し訳ありません」
リディレリアさんは土下座もしそうな勢いで、頭を下げて謝ってくる。
リディレリアさんがこのような行動をとるのは初めてではない。
一年ほど前から、わたしの機嫌が悪い時は、こうして先に謝ってくる。
そうすると、わたしの怒りのエネルギーは多少なりとも弱まってくる。
リディレリアさんはそれを経験上学んでいたのだった。
わたしは苦笑いをせざるをえない。
本来であれば、このフィリシャール公爵家では心が許せる方の存在であるはずの侍女に、わたしはおそれられ、心を通わせることができないでいる。
今までのわたしであればそうしたことは気にならなかった。
リディレリアさんが卑屈な態度を取ることを、むしろ喜んでいた。
でもこれからは違う。
「リディレリアさん、頭を上げてください」
リディレリアさんがわたしの言葉を受けて頭を上げた後、わたしは、
「モイシャルドさん、リディレリアさん、先程の言葉は冗談で言ったのではありません。また、二人に対して、怒ろうとする前触れでもありません。わたしの本心から言っているのです。わたしは生まれ変わろうとしています。心の底から今まであなたたちを傷つけてきたことを反省し、謝っています。これからは、あなたたちのことを大切にしたいと思っています。もちろん今すぐには無理かもしれません。しかし、わたしはあなたたちと良好な関係を築いていきたいのです」
と言い、頭を下げた。
再び沈黙がこの場を支配していく。
もちろんそう言ったからと言って、二人のわたしに対する印象がすぐに良くなるとは思っていない。
それだけ過去のわたしは、この二人を苦しめてきたのだ。
今日ここで、こういう話ができただけでも大きな前進だと思う。
そう思っていると、モイシャルドさんは、
「リランドティーヌ様、わたしはあなたにお仕えする身でございます。リランドティーヌ様がどのような方であっても、わたしは自分の任務を果たすのみでございます。ただ、リランドティーヌ様が生まれ変わろうとしていることは理解いたしました。それは良いことだと思いますので、応援させていただきます」
と表情を変えることなく言った。
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