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第二十四話 前世での状況

 わたしは前世でも、


「人も心を癒し、病気やケガの治療をすることのできる魔法」


 を持っていた。


 しかし、今世のこのボランマクシドル王国と違い、前世のルラボルト王国では「大聖女様」と同等の力を持った人どころか、軽い病気やケガぐらいしか治療できる人がおらず、心を癒すこともほとんどできない人しかいなかったので、聖女に認定される女性が現れることはなかった。


 伝説があれば、まだ救いがあると思うのだけれど、それさえもこの王国にはなかった。


 この魔法を使える人自体は存在していたのだけれど、その正式な記録は五百年前に途絶えていた。


 その為、一般の人々のその魔法に対する関心はもともと少ない。


 それどころか、その魔法が存在しないと思っている人たちも多かった。


 ただ、この魔法は伝承されていたので、王室や貴族の人たちにおいては、この魔法が存在することを信じている人たちがそれなりにいた。


 しかし、そうした人たちでも、この魔法に意味があると思っている人はほとんどいないと言ってよかった。


 ただ、意味がないと思っているだけならばまだいい方で、魔法というものを論じること自体、


「世の中をまどわすもの・乱すもの」


 と思っている王室や貴族の人たちは、多くはないものの一定数はいた。


 こうした勢力が台頭したのは、医療を推進する勢力と魔法を推進する勢力が対決した後のことだ。


 ]五百年ほど前のことだった。


 ボランマクシドル王国とボランマクシドル王国では、この頃、医療が急速に発展し始めていた。


 この二つの王国どうしは遠く離れているので、往来をするのは困難が伴い、一般的な交流は限られたものだった。


 その制約の中でも、医療の分野では一定の交流があったのだと思われる。


 そのことが作用したかどうかはわからない。


 しかし、結果的に、ボランマクシドル王国と同じような現象がこのボランマクシドル王国でも発生していた。


 それは、医療を推進する勢力と魔法を推進する勢力の争いだ。


 医療の急速な発展により、今までも勢力の小さかった魔法を推進する人たちは、


「自分たちの存在意義がこれで全くなくなってしまうのでは」


 という危機感を抱き、医療を推進する人たちを攻撃しだしたのだ。


 これを機に、勢力を拡大しようという思惑もあったようだ。


 魔法を推進する勢力の力は、ボランマクシドル王国よりもルラボルト王国のが小さい。


 それが逆に危機感を強くし、攻撃と言う面ではルラボルト王国のその勢力の方が激しかった。


 しかし、医療を推進する勢力の方も、


「ここで決着をつけたい」


 という気持ちが強く、こちらの反撃の方も激しいものがあった。


 数で劣る魔法を推進する人たちはその勢いに圧倒されてしまう。


 その結果、今でも続く医療の優位が確立されたのだ。


 魔法を推進する人たちの勢力はなくなることはなかったものの、さらに小さいものになってしまった。


 一般の人たちの多くは、もともと魔法の存在を知らないので、この対決については、ほとんどの人たちは蚊帳の外だった。


 しかし、王室・貴族たちの間には混乱をもたらす結果になった。


 魔法を推す人々は、こうした人たちをただ混乱させただけになってしまったのだ。


 このような歴史があるので、魔法を、


「世の中をまどわすもの・乱すもの」


 と思っている人たちの中には、


「魔法のことを口にすることは禁止すべき」


 という強硬な主張をするものたちもいた。


 さすがにそれは行き過ぎだと批判されていて、今まではこの主張が通ることはなかった。


 この王国内では、もともと魔法が存在していないと思う人たちが多い。


 魔法があると思っている人たちも、魔法に意味がないと思っている人たちがほとんどではあるものの、そうした人たちは、決して魔法自体を嫌っているというわけではない。


 その為、そうした行き過ぎていると思われる主張をする人たちは少数勢力でしかないからである。


 しかし、歴代の王室はこの主張を支持していたようだ。


 前世のこの時の国王陛下も、このことを王国法で定める気こそなかったようなのだけれど、この主張自体については支持をしていると聞いている。


 その為、魔法の肩身はどうしても狭いものになる。


 国王陛下の意志次第では、魔法のことすら口にできなくなってしまうほどの状態だ。


 こうした状況になっているのも、この魔法の力が弱かったのがその理由だ。


 わたしの前世では、この魔法を少しでも使える人たちがいるという情報はわたしの耳に入ってはいたものの、そうした人たちと会ったことはなかった。


 しかし、一般の人々の多くがその魔法を存在しないものだと思っている状況で、この魔法の存在を信じていて、魔法をのことを嫌っていない王室や貴族たちにも、


「そんな軽い病気やケガを治せるぐらいで得意になっているなんて、人間として小さいですわね。そして、その程度ならお医者を頼んだ方が確実に治すことができますわよ。お笑いものですわ」


 と高らかに笑われてしまうことが、十分予想された。


 もともと五百年ほど前でその魔法の正式な記録が途絶えてしまったのは、この魔法の力が弱い為、医療を推す勢力に敗れてしまったことで、魔法自体は禁止されることはなかったものの、重要視されることはなくなり、魔法を使う人たちを嘲笑するようになったからだ。


 王室・貴族たちは、重い病気やケガを治せる魔法を求めていたのに、それに応えることができなかった。


 医療がその役割を担うことになった。


 その魔法に対する失望が嘲笑というところに変化したということなのだと思う。


 そういう背景があったので、わたしは、この魔法を使える人たちとの連携をしようと思ったことはなかっただけでなく、使えること自体を他の人に話すことはなかった。


 話をしたところで、大多数の人たちの嘲笑の対象になるだけだと思ったからだ。


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