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第二十話 王太子の座

 今まで思ってきたことは、グラスジュール殿下個人のことだとは言えるのだけれど、さらに問題だと思われるのは、


「グラスジュール殿下は、贅沢が好きだと言っていて、王位についたら贅沢三昧の生活をしたいと言っている。国民は自分が贅沢をする為の道具だという話もしている。このままではこの王国で最悪の暴君になる可能性がある」


「グラスジュール殿下は、政治に興味はなく、自分が贅沢をすることができれば、国民が重い税で苦しんでもかまわないと言っている。為政者として必要な心のやさしさがない。王太子たるもの、国民のことをやさしい気持ちで、大切にするべきである」


 という批判の声だ。


 政治には興味がなく、贅沢はしたいとなれば、それこそ失政の道を進むことになる。


 懸念されているように、この王国で最悪の暴君になる可能性があり、その時の国民の苦しみは、想像を絶するものになるだろう。


 わたしは前世で、政治にはある程度興味はあり、その教育も受けてきた。


 しかし、贅沢三昧をしてしまったので、結局は失政をすることになり、処断をされることになってしまった。


 グラスジュール殿下もこのままだとそうした道を歩みかねない。


 家臣の中でもこういった態度に対して苦言を呈する人はいた。


 父国王も度々苦言を呈するようになっていた。


 しかし、グラスジュール殿下は全く聞く耳を持たない。


 そして、その批判の声は大きくなってきており、それは、


「グラスジュール殿下は王太子としてふさわしくない」


 という声に変化しつつあった。


 学業が優秀であることや、武術・馬術・剣術が優秀であるので、本来であれば王太子にふさわしい人物だったはずなのに、そうしたことが考慮されなくなるほど、今や悪評だらけになったと言っていいグラスジュール殿下。


 そして、


「ウスタードール殿下を後継者に!」


 という声も次第に高まってきていた。


 ウスタードール殿下は、グラスジュール殿下とは反対に、マナーをわきまえている品行方正な方だ。


 心のやさしさもグラスジュール殿下と違い、持っている。


 学業成績もいつも一位。


 体はそこまで丈夫ではないので、武術。馬術、剣術はグラスジュール殿下には及ばないものの、高いレベルは持っている。


 政治にも興味を持ち、国民のこともよく考えていると評判だ。


 人望はグラスジュール殿下よりもはるかに高くなっている。


 王位につけば、名君になるだろう、と多くの人々から期待をされ始めていた。


 ただ、優柔不断で気の弱いところがあり、実際、自分の母である王妃殿下には、全く頭が上がらないようだ。


 また、側近のいうことにも左右されがちだという話も聞く。


 ウスタードール殿下は国王の座についた場合、そうした周辺の人たちの意見に振り回されてしまう可能性がある。


 ただ異母兄のグラスジュール殿下には遠慮しているところがあって、自分がグラスジュール殿下を押しのけて、王太子になりたいということは、全く思っていない、という話を聞いている。


 とはいうものの、ウスタードール殿下の方を擁立する動きは少しずつ高まっている。


 もし、この勢力が優勢になり、ウスタードール殿下を正式に擁立した場合は、断ることができないだろうと思っていた。


 わたしの父も継母も、ウスタードール殿下を王太子に擁立する動きに近づき始めているようだ。


 二人とも、ウスタードール殿下のことはよく褒めているが、グラスジュール殿下については話をすることすら少ない。


 最近は、


「リランドティーヌはグラスジュール殿下と婚約するのだから、コルヴィテーヌはウスタードール殿下と婚約させたい」


 とわたしの前で言うようになってきていた。


 これ自体は、ウスタードール殿下を王太子にする動きとは直接は関係ない。


 しかし、ウスタードール殿下を擁立する動きがある中で、こういう話を王室に働きかけているのだから、その動きとは無縁でいられるわけがない。


 コルヴィテーヌは二人にとって大切な娘。


 その娘が王太子妃、そして、王妃になってほしいと思うのは当然なことかもしれない。


 しかし、わたしにとっては、厳しい話だ。


 二人は、わたしを憎んでいるし、どうでもいいと思っている。


 グラスジュール殿下との婚約を進めてきたのも、グラスジュール殿下が王太子の座を去ることを見込んでのことだと思う。


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