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【コミカライズ化】捨てられ聖女のもふもふ保護活動 ~天才魔法使いと幻獣たちに愛されて幸せになります~  作者: 村沢黒音
日常編2

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狐とお風呂


 私は気付いた。

 燐太郎のふわふわ尻尾が、汚れている……。


 こないだは、あちこち駆けまわったからね。

 その時、地面をこすって汚れちゃったのだろう。


「りんくん。ちゃんとお風呂に入ってる?」

「風呂!?」


 びゃー、と毛を逆立てて、燐太郎は飛び上がる。


「あんな怖い……じゃなかった、オレは、必要ないことはしないんだ」

「でも、お風呂にはちゃんと入らないとだめだよ」

「必要ないって言ってるだろ! 毛づくろいならしてる」

「それってどうやるの?」


 猫とかがやるみたいに、舌でぺろぺろ?


 私が疑問に思っていると、燐太郎はその場に座りこんだ。両足を前に投げ出す座り方だ。そして、尻尾を自分の前へと持ってくる。


「こうして……」


 次に燐太郎は、くしをとり出した。


「こう!」


 尻尾をくしくし……。

 とかし始める。


 か、可愛い……!


 尻尾を抱きかかえるような姿勢も、自分でくしを通しているのも、毛が絡まっているところがあるのか、時折、くしが引っかかっちゃってるのも、毛の一部がびろーんと飛び出しちゃってるのも……全部、可愛いんだけど!!


「……毛づくろいって、尻尾だけ?」

「そうだけど」

「なるほど」


 私はにっこりと笑って、燐太郎の首根っこを捕まえる。


「よし。お風呂行こっか」

「やっ……やだ~~~!」




 施設の2階にはお風呂場がある。


 この施設は共同生活を送ることを想定して、作られているみたいなんだよね。だから、お風呂場も広い。

 魔導でお湯が出るシャワーは3つあるし、バスタブは丸い形で、5人くらいなら浸かれる広さがある。


 燐太郎は子狐の姿に戻って、往生際悪く手足をばたつかせている。

 子狐サイズだと、風呂桶の中に入れられるな。私はそこにお湯をためた。

 温度は熱すぎないように……。これでよし!


「ほら、気持ちいいよ。入ってみて」

「うぐ~~~…………」


 燐太郎は不満そうにうめいている。狐の体を抱っこして、風呂桶に入れる。

 燐太郎の毛は黄金色で、足の先だけが黒い。その足を曲げて、お湯から出した。そして、ちゃぷんとまた入れる。


 ちゃぷちゃぷ……足踏みしてる。


「…………ん?」


 燐太郎が何かに気付いた声を出す。

 ゆっくりと腰を下ろした。足を折って、くつろぐポーズだ。顎が風呂桶の縁に乗っている。


 そして、燐太郎は気持ちよさそうに目をつぶった。


「それじゃあ、洗っていくよ」


 私は風呂桶の中を泡立てる。それで燐太郎の毛を包んだ。


 すると、風呂場の外から涼やかな声が響いた。


「失礼する。りんの姿が見当たらないのだけど」

「あ、楓弥さん! りんくんならここだよ。今、洗ってあげてたんだ」

「そうなんだね。開けても大丈夫かい?」

「はい、どうぞ!」


 楓弥が扉を開けて、こちらを覗きこむ。泡だらけになっている燐太郎を見て、目を丸くした。


「珍しい。りんは水に濡れるのが嫌いだったのに。エリンさんによほど懐いているようだ」

「別に……そんなんじゃないけど」


 燐太郎は照れたように、ぷいっとそっぽを向いた。

 その様子に私も楓弥も、ふふっと笑う。


 楓弥は私のそばまでやって来て、風呂桶のそばにしゃがみこんだ。首を傾げて私の顔を覗きこむ。白銀色の髪がきらめいて、さらりと揺れた。


「とても気持ちがよさそうだね。……羨ましい。エリンさん。私のことも洗ってくれないか?」

「え?」

「しっぽが9本あるのだけど、人間の姿でも、この姿でも、自分では手の届かないところがあってね」

「あ、なるほど」

「しっぽだけでも洗ってくれたら、助かるよ」

「それなら、もちろん!」


 楓弥は、うっすらとほほ笑む。

 次の瞬間、狐の姿へと変わっていた。


 おお、楓弥の狐バージョン……!

 いつ見ても神々しくて、美しい!


 楓弥がおすわりすると、立派な9本のしっぽがゆらゆらと揺れた。


 そのしっぽに私はおずおずと手を伸ばす。綺麗すぎて、おいそれと触れていいのかわかんないよ。でも、本人が「いい」って言ってるもんね。


「わ……楓弥さんのしっぽ、すごく綺麗……。手触りもいいなあ」

「ふふ……」


 私はそのしっぽに泡を絡ませた。

 あわあわ、もこもこ!


「エリンさんの手、とても心地いいよ」

「え? あ、……えっと……ありがとう」


 うん、あれ?


 私、狐を洗っているだけのはずなのに?

 楓弥の声が低くて、何だかちょっと怪しげだから、照れる……!


 こうして、泡だらけになった狐の兄弟。

 次はシャワーをかけていく。


 燐太郎はびしょ濡れだ。……ちょっと細くなった?


「うー……毛が重い……」


 燐太郎は不満げに言って、ぶるぶる!

 わー、水が飛び散った! 私も少し濡れちゃった。


 楓弥は全身が濡れていても神々しい! 毛が水を含んで余計にきらめいているように見えるからだろう。


 それにしても、びしょびしょだなあ。

 これ……乾かすのどうしようか。自然乾燥だと時間がかかるよね。


「あ、そうだ」


 魔法がある!


 魔法では、火や風を起こせるのだ。

 クラトスを呼んで、魔法で乾かしてもらえばいいんだ。


 すると、小鳥(バロープ)のシルクが、ふわふわと飛んで来た。興味深そうにこちらを覗きこんでいた。


「シルク! いいところに! 私、燐太郎と楓弥さんとお風呂場にいるの。毛を乾かしてほしいから来て。って、クラトスに伝えてくれる?」

「シルク! シルク! いいところに!」


 シルクは私の言葉をくり返す。ふわふわと脱衣所を出て行った。

 ……うまく伝わるといいんだけど。


「私、楓弥さんとお風呂!」


 って、ちがーう!!

 シルク、その伝言ゲームは間違ってるよ!?


「ちょっと、待って、シルク~! ああ……行っちゃった……」


 何だか、ものすごく変な意味になってません……? いや、でもクラトスはいつも理性的だから、きっと伝言がねじ曲がっていることに気付く……よね?

 後ろから楓弥が声をかけてくる。


「エリンさん、気遣いありがとう。でも、大丈夫だよ。私の得意魔法は氷属性だけど、少しなら風も操れるんだ」


 そうだったんだ。

 それなら、クラトスを呼びに行かなくもよかったね。


 振り返ると、さっそく楓弥が自分と燐太郎を風で乾かしていた。おお、さらさらの白銀色の毛並み! そして、燐太郎のふわふわ毛が、風になびいている。


 その直後。


 どかーん!!!!


 すごい音が遠くから響いた。


 何の音!? 敵襲!?

 脱衣所の扉が勢いよく開かれる。


「エリンが楓弥とお風呂!?」


 慌ててやって来たのは、クラトスだった。


 いや、何でそこ信じちゃってるの!!?


「待って、クラトス! これはあのね、シルクの伝言が……」


 クラトスの視線が私の後ろに向けられる。

 すると、その目に殺気が宿った。


 え? 後ろにいるのは、狐の2人だよね?


 そう思って、私も振り返る。

 そこにはなぜか、人化した楓弥だけ(ちゃんと服は着ていた……よかった)。


 いつの間に、人の姿に戻ったの!?

 燐太郎は……あ、そうか。楓弥のしっぽが9本もあるせいで、燐太郎が隠れて見えないんだ。


「……うん?」


 楓弥はにっこりと笑って、首を傾げている。

 いや、笑ってないで誤解を解いてよ!?


「……………………」


 クラトスの目が極寒に変わった。

 全身から殺気を発しながら、手に魔法を集めている。

 だから、ちょっと待って~!?


「クラトス! これは誤解なの! 攻撃魔法は撃たないで!」

「エリン……止めても無駄だよ。その狐に、いろいろと聞きたいことがある」

「待って待って、私から説明するから!」

「エリンは今すぐその変態狐から離れて」


 ひ、ひええ……っ、どうしよう。

 目が! いつもクールなクラトスの目が据わりきっていて、怖いです。


 その時、ディルベルが怒鳴りながらやって来た。


「おい、クラトスてめー! 施設の壁を破壊すんじゃねえ! って、ああ?」


 ディルベルは中の様子を見て、目を見開く。


「なんだ、この状況」

「さあ……修羅場だろうか?」


 楓弥はまるで他人事みたいに笑っている。

 すると、彼の後ろから燐太郎がひょっこりと顔を出した。


「兄ちゃん……意地が悪いぞ……」


 そうこうしている間に、クラトスが今にも攻撃魔法を放とうとしている!

 私は楓弥を守るように立った。


「あのね、クラトス! だから、ちがうってば! りんくんも一緒だったし、2人とも狐の姿……っ」

「問答無用、エリンどいて」

「わああ、ディルベル、止めて~!」


 ディルベルが面倒くさそうに顔をしかめるが、すぐに動いてくれた。

 クラトスの背後から攻撃魔法をくり出す。


「やめろ、このアホ!」


 クラトスは振り返ることもせず、それを防御魔法で防ぐ。手の中の攻撃魔法はそのままだ。

 相変わらず、魔法センスがすごい……難なく、2つの魔法を同時起動しているよ。


「ディル……」


 クラトスは底冷えする声で言って、ディルベルの方を向いた。


「僕は今、最高に機嫌が悪いんだ」

「はっ、知るかよ!! 勝手に憤死でも何でもしてな!」


 クラトスはためらいなく、手に展開させていた魔法を放った。雷だ。それをディルベルは魔法障壁のようなもので防ぐ。

 ちょっとちょっと、お2人さん!? 風呂場で魔法バトルはやめてくれない!?


 私が慌てふためいていると、背後からこんな声が聞こえてきた。


「ふふ……風呂上りは、やはり氷菓子に限るね。りんも食べるかい?」

「兄ちゃん……楽しんでやってるだろ?」


 何で楓弥は1人で、かき氷とか作って食べてるんだろうね……?


 それに気付いたらしく、クラトスとディルベルの殺気がそちらにも向かった。


「楓弥……ずいぶんと余裕そうだね」

「おい、そこの元凶らしきクソ狐~! てめえだけ、他人事みたいな顔してんじゃねえ!!」


 2人が撃ち出した魔法を、楓弥は涼しい顔で防いでいた。





 ……楓弥ってもしかして、なかなかにいい性格をしている……?





コミカライズ1巻が発売となりました!

表紙が最高に可愛いので、見てください↓


エリン+クラトス+レオルドで、3人デートする話もやります。

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コミカライズ1巻が発売されました!

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