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【コミカライズ化】捨てられ聖女のもふもふ保護活動 ~天才魔法使いと幻獣たちに愛されて幸せになります~  作者: 村沢黒音
日常編1

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殿下の作戦会議編


「今日、君たちに集まってもらったのは、他でもない」


 その日、レオルドはディルベルとミュリエルを王城に呼び出していた。

 城の会議室。

 レオルドは奥の席でひじをついて、指を絡ませている。


 その眼差しは鋭く、真剣そのものだ。

 その一方で、ディルベルとミュリエルは退屈そうだった。ディルベルはガラ悪く着席し、大あくびをしている。ミュリエルは自分の髪をくるくると指でいじっていた。


「最近、エリンとクラトスの仲が深まっているように思えてな。早急に対策を立てなければならない。そこで、私は2人のことをよく知る、君たちの意見を聞きたいと考えている」


 すると、ミュリエルが髪をいじりながら口を開いた。


「ねえ、レオルド~。人間の言葉ってたまに難しいから、教えてほしんだけど」

「ああ、構わないよ」


 柔和な微笑みで、レオルドは頷く。

 見た者を誰でも虜にしそうなほどの笑みだったが……。


「噛ませ犬ってどういう意味?」

「…………」


 その笑みが、ぴしっと引きつった。

 代わりに、ディルベルがずばっと言った。


「こいつのことだ!」

「じゃあ、当て馬」

「こいつのことだな!」

「控えの選手」

「こいつだな!!」


 新しいおもちゃを見つけたとばかりに、にやにやと笑うディルベル。

 彼らの前でレオルドは撃沈していた。


「き、君たち……! もう言わないでくれ」

「でも、レオルドって、人間の中ではかなりいい男よね?」

「おう。そこは間違いない」

「顔がいいし」

「ああ。性格もな。人間の中でも上位クラスにまっとうで、いい奴だと俺は思うぞ」

「君たち! もっと言ってくれ!!」


 レオルドは一瞬で復活した。

 単純な男である。

 そこで、ミュリエルが不思議そうに首を傾げる。


「じゃあさ、クラトスとレオルド。雄として優れてるのはどっち?」

「そりゃ、レオルドじゃね?」

「そうなのか!? 私はクラトスに勝っているというのか?」

「だって、クラトスはなあ。あいつ、割とダメなところ多いぞ。社交性ゼロだし、興味ないものは記憶しねえし、寝不足だとアホになるし。権力も金も持ってねえ」

「なるほど。つまり私は、クラトスが持っていない部分をアピールすればいいわけだな。権力とか金とか」

「そこをアピールしてくる王子は、嫌すぎるだろ……!?」

「では、どうすればいいのだ? 私も金がないふりをすればいいか?」

「……真面目に、言ってるんだよな……?」


 ディルベルはさすがに呆れた顔をする。

 すると、ミュリエルが思いついたように指を立てた。


「ねえ。クラトスがダメダメだって言うけど……エリンからしたら、そこがいい! ってことなんじゃない?」

「おお……! ダメなところが逆にいいってやつか。一理あるかもな」

「待ってくれ。メモする」


 明らかに不要な情報しか話されていないのに、レオルドは律儀にメモりだした。


「つまり、人からすればダメとしか思えない箇所でも、それが共感や親近感を持たせ、なおかつ、それを支えてあげたいと思うことにより、保護欲を刺激されるというわけだな」


 考察がうますぎて、ディルベルは舌を巻いた。


「あんた……実はすげえ頭いいだろ……!?」

「ふふ、私の異名を知っているかい? 『馬鹿じゃない方の王子』だよ」

「そんなもん、異名に使うな!!」

「私に足りないのは、『ダメな箇所』だったというわけか。とても参考になる意見をありがとう」

「これ参考になってるの?」

「これが『参考になる』という感想につながるところが、もうすでにダメじゃね!?」


 竜のありがたい意見を、レオルドはさらっと聞き流していた。


(待っていてくれ、エリン)


 彼は決意を固めていた。


(私は君のために……ダメになる!!)


 彼は大真面目である。

 真面目で優秀な、馬鹿だった。




 数日後。

 保護施設にやって来たレオルドは、沈みきっていた。


「ミュリエル、ディルベル! 聞いてくれ。私には才能がないんだ……!」


 中庭のテーブルに突っ伏して、レオルドは嘆いていた。


「私は努力した。自分なりに分析し、勉強し……頑張って、ダメになろうとしたんだ」

「すでにその発言が破綻してるわ」

「努力できる時点で、優秀だもんな……」

「そして、悟った。私にはダメになる才能がなかったんだ……! うわああっ」

「これ、真剣に言ってるのよね?」

「これを真剣に言ってること自体が、すごくダメだということになぜ気付かねえ?」


 レオルドが言うには、彼はまず職務放棄から始めたらしい。

 仕事を投げ出す男は、ダメなやつに間違いない! ということで。

 城を出て、街中をぷらぷらしていると、住人に声をかけられた。そこで街の困りごとの相談に乗り、その意見をまとめ、城へと持ち帰った。

 その後、しかるべき機関に相談。問題解決に奔走した……ところで、彼は気付いたらしい。

 めちゃくちゃ働いてしまっていることに……!


「いや、気付くの遅くね?」


 ディルベルのツッコミを無視して、レオルドはへこみ続ける。


「他にもいろいろとやってみようとしたんだ。でも、私が街を歩くと、なぜか多くの国民に声をかけられ……。城でくつろいでいれば、城の者が多く声をかけてきて……」

「人望がすげえな!?」

「すごい! クラトスにはない人望力よ!」

「そう! 人望があるせいで、私はダメにはなれなかった……」

「これ、いったい何の相談だよ!?」


 レオルドはいたって真面目である。真面目に、自分の優秀さを嘆いていた。


 その時、


「あ、レオルド様! 来てたんですね!」


 エリンが笑顔でやって来る。

 すると、レオルドの情けない態度は、一瞬で消滅。姿勢よく、優雅な体勢をとる。そして、甘い笑みをエリンに向けた。

 ……やはり、10代男子たるもの、好きな人の前ではカッコつけたいらしい。


「やあ、エリン。こんにちは」

「こんにちは! そういえば、昨日、王都に行ったんですけど、レオルド様ってすごいですよね。教会の人たちがみんな褒めてましたよ」

「え……?」

「レオルド様はいつも親身になってくれる、優しい人だって」

「ほ、ほんとに?」


 レオルドは、ぱああ、と顔を輝かせた。その背後で、犬のようにしっぽを振っている光景を、ディルベルは幻視していた。


「……エリンも、そういう男を好ましく思うのだろうか?」

「え? はい、もちろん!」


 レオルドはエリンを見つめて、固まった。おそらく、嬉しすぎて思考が止まったのだろう。

 その間にエリンはミュリエルに「クラトス見なかった?」と聞く。ミュリエルが「あっち」と答えると、そちらへと立ち去った。


(おい〜〜ッ! あまりにも不憫……!?)


 ディルベルは内心で愕然とする。

 だが、エリンがクラトスを探していることは、幸運にも、レオルドは聞きそびれたらしい。


 止まっていた時間が戻ったらしく、レオルドは嬉しそうに頷いた。

 自信満々な様子で、


「どうやら、私はこのままでも問題ないようだ。クラトスのような、ダメになる才能がないからな」


 失礼千万なことを言っている。


「そして、そんな自分のことを誇りに思おう」


 もう勝手にやってろよ!! とディルベルは思った。





 数日後。

 レオルドは会う度に、ディルベルたちに礼を言った。更には先日のお礼として、大量の肉を贈ってくれた。


 律儀なものだ。


 ――そして、それこそがレオルドのいいところなのだと、ミュリエルとディルベルの2人は確信するのだった。


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