聖女印の魔導具販売1
「そういえば、この施設の生計は、どうやって立てているんだ?」
あれからというもの、レオルド様は頻繁に遊びに来るようになった。
……レオルド様って、暇なのかなあ。とは、口が裂けても言ってはいけない(こないだクラトスがずばっと言ってたけど)。
今日もみんなとティータイムを過ごしていた時のこと。
レオルド様が施設の生計について聞いてきた。
あ、それは私も知りたい。幻獣を保護して、お世話したり、ご飯を食べさせたり……そういうのにもお金はかかるんだ。
クラトスがクールに答える。
「僕が作った魔導具を売ってる」
「だが、君は魔法士ギルドには未登録なのだろう? 正規ルートでは販売できないはずだ」
「そういうのも扱ってくれる裏の店で」
「違法だぞ!?」
「……割と買い叩かれる」
「そうだろうな……! ちゃんと登録証を作って販売した方がいい。君が登録できないなら、代理の者を立てるのはどうだ」
「それも考えたけど、幻獣たちには任せられないし……ん?」
そこでクラトスは私を見た。
「……あ」
ちょっと!
何、気付いたような顔をしてるんですか!?
「そうか。エリンがギルドに登録してくれればいいんだ」
「ええ!? 私!?」
「エリン、君もギルドには未登録だったのか」
「あ、ごめんなさい、レオルド様! その……」
「まあ、エリンのことだから何か事情があったのだろう! 仕方ない!」
……何か即行で許された。
それはともかく、
「私がギルドに登録するなんて、自信ないよ! 知識も技術もないし……」
「魔法士として登録するだけなら簡単だぞ。その場で販売登録証も発行してもらえる」
その話を聞いて、クラトスはその気になったみたいだ。
さっそく席を立って、
「じゃあ、ギルドに行こう」
「待て。クラトス、君は魔法士ギルドには行かない方がいい。君は目立つ容姿をしているし、先日、王都でも魔法を使っていただろう。それを見ていた人もいる。ギルドに行ったらまず捕まるぞ。それで魔法士の資格を持っているか確認される。未登録であることがバレたら、その場で強制加入だ。そして、これまでの分の違反金も払わなければならないだろうな」
「違反金ですか!?」
「当然だろう。魔法技術は、魔法士ギルドが特許を独占している」
いや、その特許の大元~!
自分が作った技術にお金を払わせられるとか、何か可哀想なことになってない? クラトス……。
そもそも、魔法士ギルドが集めているお金って、本来はクラトスの懐に入るべきものなんじゃないの?
そのうち、機会があればクラトスには、起源の主張をしながらギルドに乗りこんでもらいたい。
あ、何かクラトスも嫌そうな顔をしてるし。
「エリンを1人では行かせられない」
「もちろんだ。私がエリンに付き添おう」
「……は?」
「さあ、行こうか。エリン。私と2人で! あ、ギルドの登録が終わったら、一緒にカフェにでも行かないか? いいお店を知っているんだ」
「…………は?」
クラトスの目が途端に暗くなった。
「何でエリンが君と2人で出かけるんだよ」
「ギルドに登録するためだろう? そもそも、君が違法行為をしていることが問題なのだぞ。エリン、君がギルドに登録すれば、ここの資金繰りも楽になるぞ。行くだろう?」
「ええっと……」
そうだよね。
その方がクラトスも助かるんだし。それなら、迷うことはない。
「はい。私、ギルドに行きます」
「……2人きりで……?」
クラトスはショックを受けたような顔をしている。
「せめて、ディルベルかミュリエルを連れて行くのは……」
「必要ないぞ! それに、幻獣を連れていくのは、やめておいた方がいいだろう」
毅然と突っぱねて、レオルド様は私に優しくほほ笑みかけた。
「さあ、行こうか。エリン。お手をどうぞ」
「え? あの……レオルド様」
何ですか、その手は。
握ったりしないですよ!?
だって、ギルドに登録に行くだけだし。そんなデートみたいなことをするつもりは……。
だから、クラトスもそんなにむっとした顔をしないでほしいな……。
嫌そうな顔をしたのは一瞬だけで、クラトスはいつもの無表情に戻る。そして、ふらりと浮かび上がって、どこかに行ってしまった。
すぐにでも私を連れ出そうとするレオルド様に、「支度してきます」と断って、私は建物の中に入った。
クラトスは書庫にいた。
空中に座りこんでいる。
あ、集中している時の顔になっている。彼の手には光が浮かんでいる。輝く文字や複雑な紋様が流れていた。
「何してるの?」
私が尋ねると、彼は静かに答えた。
「新しい魔法式の考案をしている」
クールな眼差しからは感情が読みとれない。
いつも通りの様子にも見えるけど……。
私の胸はそわそわ、ドキドキする。
「あのね……私、ギルドには1人で行ってくるよ」
「王子は魔法士ギルドにも精通してるから、付き添ってもらった方がいい」
「うん……そうだね。えっと……」
こういう時、何て言ったらいいか、わからないよ……。
「……行ってきます」





