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【コミカライズ化】捨てられ聖女のもふもふ保護活動 ~天才魔法使いと幻獣たちに愛されて幸せになります~  作者: 村沢黒音
日常編1

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寝不足の時のエヴァ博士


 

「エリンー!」


 鈴の音を鳴らすような可愛い声が、施設内に響く。

 空を飛んでやって来たのは、1人の女の子だった。

 その姿を見て、私は手を振った。


「あ、ミュリエル!」

「やっほ~! 遊びに来ちゃった!」

「いらっしゃいー!」


 私たちは中庭で手を合わせて、飛び跳ねる。


 ミュリエルは火竜【フロガルド】だ。先日の事件で大変な目にあったけれど、今ではすっかり回復した。


 彼女の人化は、私と同い年くらいの女の子だ。

 長い赤髪をポニーテールにしている。気の強そうな顔立ちをしているけど、表情は豊かだ。特に私に懐いてくれていて、私と顔を合わせるとパッと笑顔になってくれる。

 角と黒い翼が生えていて、一目で人外だとわかる。


 あれからミュリエルは、王都に足繁く通って、街の復興のお手伝いをしていた。

 街を壊したのはマルセルであって、ミュリエルは何も悪くないのに……責任感のある、いい子だ。


 私はお茶をいれて、中庭のテーブルでミュリエルとお喋りを始めた。

 すると、施設の他の人たちも顔を覗かせる。


「ねえ、聞いて、エリン! あたし、王都にしばらく住むことに決めたの。レオルドも許可してくれたし。というか、むしろ食い気味に『ぜひ滞在してくれぇ!!』って頼まれたわ。あたしのために家も建ててくれるって」

「レオルド様が?」


 そんなにミュリエルのことが気に入ったのかな? と思ったけど、ディルベルが呆れたように告げる。


「……そりゃ、ミュリエルがいれば空間転移ができるから、エリンに会いやすくなるからじゃねえ?」

「え?!」


 いや、そんな理由で? 今だって週1で私は王都に通っているから、頻繁に会っているはずなんだけどなあ。


「それで、ここの展望台にあるような転移ゲートが、王都にもあれば、行き来か楽になるんだけど……あのゲートって、どこで手に入るものなの?」

「あれは僕が作った」


 涼しい顔でクラトスが言う。

 おお……自作だったのね。でも、この人の正体ってエヴァ博士なわけだから、魔導具製作もお手の物なのだろう。もしかして、この施設にある魔導具って全部、クラトス製なのかな?


「同じものが欲しいなら作るよ。3日かかる」

「本当!? ぜひお願いするわ!」

「うん。じゃあ、さっそく作ってくる」


 クラトスは空を飛んで、自室に向かう。

 すると、ディルベルがやれやれという顔をして、


「エリン。たまにメシをあいつに届けてやってくれ」

「え?」

「あいつ、一度集中すると他のことが目に入らなくなるだろ? それで寝食忘れて、引きこもりになっちまうぜ」


 いやいや、さすがに。

 3日間、飲まず食わずで、眠りもしないなんてこと、ないよね?




 …………クラトスだよ?


 やっぱり、ありえそう……!!





「それって、前はどうしてたの?」

「いや、何も。放っておくしかなかったぜ。クラトスは、集中してる時はどんなに声かけても気付かねえし。エリンくらいだからな、反応してもらえるの。たまに限界迎えて、そのへんでぶっ倒れてるってこともあったぜ」


 私は「ええー……」と思った。

 やっぱり、天才ってどこか変わってるのかなあ……?




 まあ、ご飯はちゃんと食べた方がいいよね。

 というわけで、私はサンドイッチを作って、クラトスの部屋までやって来た。


 ドアをノックして、声をかける。


「クラトス、ご飯持ってきたよー」

「……エリン? 入っていいよ」


 ちゃんと返事があった。


 お邪魔しまーす……あ、そういえば、クラトスの部屋、初めて入る。

 室内は本棚と本がいっぱい置いてあった。

 すご、書庫に置いてあるのだけじゃなかったんだ……。


 クラトスは空中で座りこんで、宙に浮いた石と向かい合っている。

 魔法石だ。

 クラトスは手をかざしていて、そこに複雑な紋様やら文字(私には読めない)が浮かび上がり、次々と流れていく。

 淡く光を発していて、神秘的な光景だ。


 そういえば魔導具って、魔法石に魔法陣を刻んで、作るんだっけ。


「お疲れ様、サンドイッチ作ってきたんだけど……」

「エリンの手作り……たべる……」


 返事はあるけど、こっちは見てくれない。

 持っていたトレイからサンドイッチが浮かび上がって、クラトスはそれをつかんだ。

 食べながら作業を続けている。


 すごく真剣な様子だし、邪魔しちゃ悪いよね。

 そう思ったけど、私はなかなか部屋を去ることができなかった。


 だってさ、そのー……。

 私はちらっとクラトスの横顔を見て、顔を赤くする。


 ……集中してる時のクラトス、いいなあ……。


 冴えた感じとか、真剣な目付きとか。

 しばらく見つめていてもクラトスは気付かなかったので、存分に堪能できた。




 クラトスが自室から出てきたのは、それから3日後のことだった。


「……できたよ」


 空中から中庭に降りてくる。

 彼のそばには扉も浮かんでいて、それが地面に置かれた。


 ああ、クラトスの目付きが悪くなってる……! 寝不足みたいだ。


 扉を見て、ミュリエルは嬉しそうに顔を輝かせた。


「さっそく使ってみてもいい!?」

「……ん」


 ミュリエルが手をかざすと、扉に赤い光が灯る。ディルベルが使う時は闇色なのに、ミュリエルの時は緋色に輝くんだね。

 ミュリエルは楽しそうにゲートの中を行ったり来たりしていた。

 ちゃんと使えるみたいだ。


「すごいじゃない、クラトス! これが王都にもあれば便利だわ!」


 ミュリエルは飛び跳ねて喜ぶ。背中の翼も一緒にパタパタとしてて可愛い。


 それにしても、3日でこんな大がかりな魔導具ができるなんてすごい。


「クラトス、お疲れ様」

「………………ん、……」


 私が声をかけると、クラトスはハッとした。

 ……今、立ったまま寝てた?

 何だかつらそうに顔を押さえてるし。


「じゃあ、僕は寝てくる……」


 クラトスは浮かび上がって、自室へと向かおうとした。しかし、飛行がふらついている。

 その結果、


 ごーん! べしゃっ!


 壁に激突して、落下した。

 寝不足のクラトスって、途端にドジになるよね!?


「大丈夫!?」

「い……いたい……」


 ……本当に大丈夫?

 いつもより口調も、ゆるゆるになってるんですけど。


「額が赤くなってるよ!? 治すからこっち向いて」

「……うん」


 素直にこっちを向いたクラトスに手をかざした。

 これくらいの怪我ならすぐ治せるからね。見える光景もきっと大したものじゃない。

 そう思っていたのに……。


『今日もエリンが可愛い』

『エリン……好き』


 いや、そのちょっとの量が、特大感情~!


 ぐうう……!

 すごいものが見えた!


 胸を押さえてうずくまりたい衝動にかられる。

 その上、クラトスは歩き出しながら、ぼそりと言った。


「ねむい……エリンの膝枕でねたい…………」

「っ…………!?」


 ちょちょ、ちょっとおおお!

 今、この人、ものすっごく変なこと言わなかった!?

 ディルベルが呆れたように告げる。


「眠気のせいで頭がやられてやがる……! おい、エリン。試しに『膝枕? してあげよっか?』って言ってみてくれ。今のアイツがどんな反応するのか見たい」

「言わないよ!? やりません!!」


 ミュリエルは顔を赤くして、私のことを見た。


「え? そういう……? 2人って、そういう関係だったの?」

「ちがうよ!」

「でも、膝枕って恋人同士じゃないと普通はしないわよね?」

「あれは不可抗力! たまたまそうなっちゃっただけなの!」

「やっぱり、してあげたことあるのね?」


 う、うわあああ、墓穴を掘った!

 ミュリエルは顔を赤くしたまま言う。


「……してあげたら?」


 だから、しませんってば!!



このあと、殿下が押しかけてきます。

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コミカライズ1巻が発売されました!

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― 新着の感想 ―
[一言] わぁ! 続きが読めて嬉しいです。 ますます、甘くなっていく2人にニマニマしちゃいますね。 やはり、素敵なお話です。 お身体に差し障りのないように更新していただけたら嬉しいです。
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