加護と守護
お読みくださいまして、ありがとうございます!
誤字報告、助かっております。
今回は、ソフィーリア視点です。
◇◇◇ソフィーリア◇◇◇
クローガ様の離宮に引き取られた形となった私は、久しぶりにゆっくりと過ごしていた。
祖父母の邸での暮らしぶりと、どこか似ている。
「何か、欲しいものがあれば、何なりとお申し付けください」
アネムスさんは何度もそう言うが、雨漏りしないお部屋で寝ることができて、毎日食事が運ばれてくる。それだけで私は十分だ。
姉の身代わりでもいい。
このまま、ずっとここにいられたら、と思う。
だが、間もなくこの国には寒い季節がやって来る。
特に今年は数年ぶりに、「白の魔王」と呼ばれる大氷雪が王都から辺境までを覆うと言われている。大氷雪の時期は、誰もが屋敷にこもり、じっと魔王が過ぎ去るのを待つ。
寒い季節が来る前の準備で、離宮の皆さんは忙しそうだ。
ある日の午後のこと。
一階の広間から、ガチャガチャと金属の音が聞えてくる。
そっと覗いてみると、離宮の騎士団の方々が輪になって、防具と武器の手入れをしていた。
クローガ様も、ご自分の武器の手入れに余念がない。
戦でも、あるのだろうか。
歓談しつつの手入れであっても、騎士の皆様はどこかピリピリしている。
クローガ様は手入れが終わった長剣を、天にかざす。
剣には青い炎が走る。
美しい炎である。
クローガ様の隣にいる騎士が笑いながらクローガ様に言う。
「この炎をもってすれば、第二王子の雷など、跳ね返せますね」
雷?
第二王子の加護は、「雷」なのか。
我が国の貴族王族は、ほとんどの者が「加護」を持つ。
クローガ様は「炎」の加護だ。
第二王子は「雷」の加護を宿しているのだろう。
そっと覗いていたのだが、ふと、クローガ様と目があってしまった。
「どうした。何か用か?」
「あの、私にも何かお手伝いできること、ないでしょうか」
恐る恐る私は尋ねた。
クローガ様は目を少し細めて、私を見た。
「剣や鎧の手入れだから、これは俺たち、騎士の仕事だ」
「いえ、その、剣や鎧に、私の守護を捧げたいのです」
加護を持つ者がその力を自分以外に使うことを「守護」という。
一瞬、騎士団の皆様は静かになった。
アネムスさんが驚いた顔をしている。
「ソフィーリア様、あなた様、剣や鎧に力を与えるような、加護をお持ちなのですか!」
私は頷いた。
「それほど強力ではないです。ですが先ほど、第二王子様の加護は『雷』と聞こえました。申し訳ないです、立ち聞きしてしまって。
されど、剣も鎧も銅で出来ているようなので、雷の技に、狙われやすいのではないでしょうか」
騎士の皆さんはざわめく。
クローガ様は私に尋ねた。
「ソフィーリア。では、君は、どうやって雷を防ぐつもりなのだ?」
「私の加護の一つは『大地』です。大地の守護力を皆様の武器に付与いたします」
私が答えると、室内に「おおっ!」という声が上がった。
「王室には、『大地』の加護を持つ者はいないですね」
アネムスさんがクローガ様に訊く。
「ああ。大地の加護の持ち主は、稀少だ。ソフィーリア、守護を与えてくれるのは有り難いのだが、大丈夫なのか?」
クローガ様の声は、お優しい。
私はその期待にどうしても応えたい。
大地の守護の中でも最大の防御力がある、ミスリル鉱の守護を付与することにした。
私は日没までの時間を使って、五十本の剣と、五十体の鎧すべてに、ミスリルの守護を付けさせてもらった。
その間、クローガ様はずっと、私を見守っていた。
「あっ」
終わりました、と言おうとしたら、目の前が暗くなる。
私はそのまま、意識を失った。
夢を見ていた。
白い小さなお花が一面に咲いている。
幼い頃過ごした、祖父母の庭だ。
「これはソフィーの花。お前の花だよ」
祖父が花を摘んで、私に差し出す。
「ソフィーのお花は、小さくて目立たないけど、すごい花だよ。実は……」
はっとして目を覚ますと、私は自分の部屋のベッドに寝ていた。
「気がついたか」
クローガ様の声がする。
クローガ様はベッドの脇の椅子に座っていた。
「あれ、私、一体……」
「守護の付与で、能力を使い果たしたようだ。今はもう深夜。しばらく君は眠っていた。そんなに無理せずとも良かったのに」
「ご、ごめんなさい! クローガ様にご迷惑を!」
クローガ様は微笑む。
「いや、皆喜んでいた。ミスリルの守護を貰えるとは、思ってもいなかったからな」
クローガ様はベッドに腰を下ろし、私の髪を撫でた。
「心配した」
クローガ様の声が、じんわり胸に響いた。
私はクローガ様に体を預けた。
クローガ様の心臓の音が聞える。
「無理はしないで欲しい」
「はい」
その時、「失礼します」の声とともに、アネムスさんがやって来た。
私はクローガ様から体を離す。顔が熱い。
「あれ、お邪魔でしたか?」
クローガ様は咳払いを一つ。
「ソフィーリア様。夕飯、食べられそうですか?」
「はい」
アネムスさんは、いつもの質問をしてくる。
「あと、何か必要なもの、ありませんか?」
私はふと閃いて、アネムスさんにお願いをした。
「お花を。お花の苗が欲しいのです。白い花。ソフィーリアのお花を」
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