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居酒屋領主館【書籍化&コミカライズ進行中!!】  作者: ヤマザキゴウ


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211/293

211.動物のお医者さん

 ラルフが領主館の二階に向かって、伸びやかな声で呼びかけた。


「おーい! ヴィヴィアーン!」


 すると、ドタドタと足音が響き、階段を転げ落ちるようにヴィヴィアンと、なぜかエリカも一緒に降りてきた。二人は目を真ん丸に見開き、ラルフに迫る。


「べ、べ、別に! そんなに儲けてはいないぞ! そんなには!」


「そ、そ、そうよ! 万馬券と言えど、別にそれほどは……」


 お揃いのように、二人の右耳の上には鉛筆が乗っている。どうやら競馬場帰りらしい。そして、珍しく、勝ったようだ。しかも「万馬券」という、聞き捨てならない言葉が耳に突き刺さる。ラルフは冷静に問いかけた。


「……ふーん……。いくら勝ったの?」


「いや、いやいやいやいや! 今までの負け分があるから、それほど儲けたってわけじゃないし!」


「そうよ! そうよ! べ、べ、別に、大した大勝ちってわけじゃないし……」


 二人は、しどろもどろに謎の弁明を繰り返すばかりだ。その様子に、ラルフは残酷な事実を告げる。


「競馬の払戻金って、一時所得として、課税対象だよ?」


 その言葉に、二人は絶句した。


「えっ?」


「えっ……」


 課税、つまり、税金が取られる……。その事実が、二人の頭の中で反芻される。


「そりゃあそうだよ。知らなかった?」


 二人は、ぼんやりと、そんな気がしていたことを思い出す。しかし、まさか本当にそうなるとは。


「いや、いやいやいやいや。そんなバカ正直に申告する人なんて、いないだろう!」


「そ、そ、そ、そうよ! そんな律儀にやってる人なんて、いないわよ!」


 ラルフは、その主張をあっさりと打ち砕く。


「このロートシュタインの税務を担っているのは、領主である、僕なんだけど……」


 その言葉に、ヴィヴィアンとエリカは、顔面蒼白となる。


「あ……」


「あっ……」


 すっかり忘れていた。目の前にいるこの男は、腐っても領主様なのだ。二人の額に、ダラダラと冷や汗が流れる。


「ちゃんと申告しろよ……」


 色々と諦めた二人は、ラルフの言われるがままに庭に出る。すると、そこには信じられない光景が広がっていた。


「グッグッグッグッ!」


 威厳に満ちた唸り声を上げるレッドフォード。その前に、耳をペタンと伏せ、尻尾をクルンと下げて平伏す、一匹のフォレスト・ウルフの姿。


「なに? またペットを拾ってきたの?」


 エリカが呆れた声で言う。


「フォレスト・ウルフですか! 確かに、テイマーの従魔としては人気ですね」


 ヴィヴィアンは興味深そうに目を細めた。狼の周りには、メイドのアンナや、ミンネとハル。そして、ヴィヴィアンの従魔のヤマネコ、シャギーも興味深そうにその光景を見守っている。


「旦那様、またペットを増やすんですか?」


 アンナが呆れたように白い目を向けてくる。


「いや、そんなつもりはないけど……勝手についてきちゃったんだよ」


 ミンネとハルは、巨大な狼に臆することなく近づき、その艶やかな毛並みを撫でている。狼の魔獣は、「グムゥッ!」と噛みついてやろうかと思ったが、巨大なワイバーンが「グググググググっ(彼女たちに危害を加えたら、殺すぞ!)」と、魔獣同士にしかわからない言葉で脅しつけた。仕方なく、狼は大人しく、小さな子供たちに撫でられるままになった。


「これは、間違いなく、モフモフ案件ですよね。クレア王妃を呼ばなければ」


 ヴィヴィアンは、クレア王妃を巻き込むことを提案した。モフモフを愛する王妃を仲間外れにすれば、後で何をしでかすか分からない。

 その時、予想外の人物が庭に現れた。


「あああ! ワンちゃん!」


 嬉しそうに駆け寄ってくるのは、ダンジョン・マスターのスズだ。タッタッタっと軽快な足取りで狼の前にしゃがみ込み、その青い瞳に問いかけた。


「撫でていい?」


 狼の魔獣は、その小さな存在が放つ、底知れない強大なオーラを感じ取る。


(こいつもヤバい……、バケモノだ……)


 と、野生の勘が警告する。スズの戦闘力は、この王国でもトップクラスなのだ。狼は仕方なく「ワッフゥ……」と答える。彼女が長い指で耳の後ろを掻いてくれる。その気持ちよさに、狼は思わず目を細めた。


「この子の名前は、何にするの?」


 スズはラルフに尋ねる。


「いや、うちで飼うって、まだ決まったわけじゃ……」


 ラルフが言いかけるが、スズは満面の笑みで提案してきた。


「チョビ!」


「あー。あの、有名漫画のな? 確かに、ハスキー犬っぽいか?」


 ラルフは合点がいった。


「私、動物の、お医者さんになるの、ちょっと夢だった」


 と、スズは前世の夢を控えめに呟いた。

 ラルフは、


「わかる……。"あれ"読んだら、北海道に憧れるんだよな……」


  と、前世の記憶から、謎の感情に浸る。


 ヴィヴィアンは、魔獣のプロフェッショナルとして、狼の身体をあちこち触診している。狼はもう諦めて、なされるがままだ。


「むっ? ラルフ・ドーソン、この子はメスのようだ……。そして……」


 ヴィヴィアンが意味深な言い方をする。


「何? どうしたの?」


 ラルフは面倒くさそうに問い返した。


「この子、妊娠している……」


 ヴィヴィアンは、その日一番の衝撃的な事実をもたらした。

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― 新着の感想 ―
フォレスト・ウルフ「認知してよぉ!」
更新お疲れ様です。 ありゃ、妊娠してたんか…それでやたら気が立ってたんですね。ラルフさんについて来たのは敗北感だけでなく、この人の近くなら外敵に襲われず出産できるって考えたのかな? それでは今日は…
もう少し隠すのかと思ったらwww
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