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居酒屋領主館【書籍化&コミカライズ進行中!!】  作者: ヤマザキゴウ


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163/293

163.石造りの迷宮

 第一階層の幻想的な白亜の回廊とは打って変わって、第二階層はラルフの抱く「ダンジョン」のイメージそのものだった。陽の光は一切届かず、魔法の灯りのみが頼りとなる漆黒の闇。複雑に入り組んだ石造りの通路は、まるで巨大なパズルが複雑に絡み合った迷宮だ。ラルフは宙に魔法の灯りを浮かべ、一行は決してはぐれないよう、まずはマッピングを優先させた。


 しかし、この広大で複雑な迷宮を全て把握するには、かなりの時間を要すると思われた。

 ある袋小路に差し掛かったところで、ヒューズから休憩の提案があった。袋小路での休憩は、魔獣に追い詰められる危険性を孕むように思われるが、これほどの少数精鋭のパーティーであれば、挟み撃ちや分断されるリスクを冒すよりも、一方向からの奇襲に備えた方が遥かに効率的だ。ヒューズの冒険者としての優れた判断力が窺える提案だった。


 ラルフは、慣れた手つきでマジックバッグから簡易的な屋台を取り出した。そして、迷うことなく料理を始める。その光景を目にした一行は、「なんか……そこまでするか……」という呆れと、「ラルフらしいな」という納得がないまぜになったような表情を浮かべた。いずれにせよ、このような過酷な状況下でも、美味い食事にありつけるらしい。そう考えると、呆れを通り越して、素直に喜ぶべきだろう、と彼らは結論づけた。


「ミラは、塩ラーメンと餃子、あとはなんか欲しい?」


 ラルフが問いかけると、ミラの瞳が輝いた。


「ホイコーローって、できますか? さすがに、このような場所では無理ですかね?」


「あるよ」


 ラルフは涼しい顔で、マジックバッグから鮮やかな野菜を取り出す。そして、手際よく調理を始めた。


「ラルフさまぁ! なんか、魚とかありませんか? 魚と米が食べたいなぁ、なんて……」


 シャーク・ハンターズの砲撃手、フィセが遠慮がちに尋ねた。するとラルフは、


「あるよ。サバの味噌煮とかどう?」


 フィセは嬉しそうに首をブンブンと縦に振った。ラルフは片手鍋を魔導コンロにかけた。


「ああ。私も何か手伝おう」


 宮廷料理人のサルヴァドルが立ち上がり、助太刀を申し出る。

 その様子を見ていたヒューズは、


(こんなに楽なダンジョン攻略はないな!)


 と、思い、料理ができるまでその場で寝転ぶことにした。

 通常、冒険者が何日もダンジョンに潜る場合、干し肉などの最低限の栄養食を忍ばせ、あとは現地調達で凌ぐのが常識だ。しかし、このパーティーには大魔道士にして美食の伝道師という破天荒なラルフ・ドーソンがいる。さらに宮廷料理人までいるとなれば、もはやこれはダンジョン攻略中の栄養補給ではない。まるで高級ディナーではないか。

 やがて、食欲をそそる芳醇な香りが迷宮内に漂い始めた時、ヒューズはおかしな気配を感じた。彼はすぐさま大剣を手に取り、体を起こす。


「おい! なんか、おいでなすったみたいだぜ!」


 全員が暗い通路の奥を凝視する。確かに、何やらわめき声のようなものが、狭い通路に反響しながら聞こえてきた。ゴブリンか? オークか? はたまた、未知の魔獣か? しかし、その音が大きくなるにつれて、全員が手にしていた武器をゆっくりと下ろした。そして、暗闇から姿を現したのは──


「いぇー! やっぱりそうだ! 匂いでわかったよねぇ!」


「だな! 絶対そうだと思った!」


 そこには、見慣れた顔ぶれ、居酒屋領主館の常連客である冒険者たちがいた。


「いや、勝手に第二階層に下りるなよな……」


 ヒューズが思わず呟いた。


「こんないい匂いさせといて! 来るなってのは殺生ですぜ!」


「そうだそうだ! 回廊にいる連中も、いい匂いだけ漂ってくるもんだから、パニックになってますぜ!」


「いや、 地上の屋台で食えばいいだろ?」


 ラルフは麺の湯切りをしながら叫んだ。


「屋台なんて、もう品切れですよ!」


 冒険者の一人が叫び返す。

 するとラルフも、


「いや。こっちだって、そんなに多くの食料を持ってきてるわけじゃないからなぁ」


 しかし、その言葉は説得力を持たなかった。ラルフとサルヴァドルの前に並ぶ、出来立ての山のような豪華な料理を見れば、彼らの言い逃れは不可能だった。


「ちょっと待て! お前ら、まさか、匂いだけを辿ってここまで辿り着いたのか?! この迷路を?!」


 ヒューズは心底驚いていた。この複雑な迷宮を、匂いだけで踏破してきたという。その事実に、彼の冒険者としての経験すら揺さぶられる。


「ああ。もう……わかったわかった! 皆の分も作るから、何人くらい来るか、それだけ教えてよ!」


 ラルフは諦めのため息をついた。しかし、その諦めは、更なる事態の発展を招くことになる。


「いや、今に、全員、第二階層に押し寄せてきますぜ……」


 かくして、居酒屋領主館、分店は、未知のダンジョン第二階層で、予想外のオープンを迎えることになったのだった。

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― 新着の感想 ―
他の方がモンスターについて言ってるけど美食に飢えた怪物がそこら辺のモンスターにかなうとは思えないし進行方向に居たという理由だけでぶっ飛ばしながら進んだ説
嗅覚の鋭いモンスター居ないのかよ! 冒険者の方が先に到達ってモンスター自体がその辺りに少ないか 嗅覚で探知するモンスターが第1第2階層に居ねえって事じゃねえか
更新お疲れ様です。 >匂いにつられて迷路抜けて来ました! つまりこれは冒険者が対象なら『はぐれた人や救援対象を匂いで呼び寄せる』という、新たな救援スタイルを確立できる可能性が?……いやモンスターも「…
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