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居酒屋領主館【書籍化&コミカライズ進行中!!】  作者: ヤマザキゴウ


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159/293

159.祭り、再び

 本日未明、ロートシュタイン領沖合の小島。これまで長らく、ただの「居住不可能地域」として認識され、その存在すら忘れ去られようとしていた海上の岩島にて、衝撃的な事実が確認された。地下深くから異常な魔力の脈動が感知され、探索の末、誰もが想像だにしなかった"未登録ダンジョン"への入り口が発見されたのだ。


 この一報は、王国中央監察局からの至急伝令として、電光石火の如く各国へと届けられた。その内容は、衝撃を伴い、ロートシュタインを震源地とするメガトン級の爆発のように、瞬く間に各国に轟いた。


 本件の発見者は、以下の四名。

 ロートシュタイン領主 ラルフ・ドーソン公爵。

 自称:釣り師のヴラド氏[出自・身元不詳]。

 王国宮廷魔導士団所属 ヴィヴィアン・カスター上級魔導士。

 そして、共和国より来訪中の参事会議員 ティボー・ド・ランソン閣下


 伝令文は、発見者の身分がいかに高位であるかを誇示するように列記されていた。


 "ダンジョン内部は、高濃度の古代魔素と、断続的な時空干渉波が観測されているという。構造の一部は既知の建築様式に属さず、魔獣の出現、及び呪詛的罠の存在も否定できない。早急なる調査および防衛措置が求められる"

 

 と記されていた。


 "本件に関し、王国騎士団・学術院・魔導士連盟・賢者の塔・冒険者ギルドは連携を取り、臨時合同調査団の編成に着手されたし。また、各国との外交的配慮も併せて検討されることを要請する"


 この緊急伝令が各国に届いた時、まさにロートシュタイン祭からの帰路についていたはずの諸外国の要人たちは、何故か皆、ニコニコと上機嫌な顔で、元来た道をロートシュタインへと取って返してきた。街道では、屋台の店主たちが、「おかえり~! 待ってたよぉ!」と、短い別れを惜しむかのように、彼らを再び迎え入れている。その光景は、まるでごく自然なことのように、ロートシュタインの日常風景に溶け込んでいた。


 ロートシュタイン領全体も、この新ダンジョン発見の報に沸き立った。"前人未到"。その言葉は、冒険者たちにとって、全生涯を懸けるに値する最高のトロフィーだ。そして何より、それは「稼げる」という現実的な魅力に満ちていた。ダンジョンから得られる魔獣の素材やドロップ品は、この世界における貴重な資源だ。このロートシュタインが今日のように発展した根底にも、元々三つものダンジョンを有し、「冒険者の街」として名を馳せていた歴史がある。今では、美食の街としての方が有名になってしまったが、その根源的な魅力は今も健在だった。


 そして、領主であるラルフでさえ知らぬうちに、民間主導で、まるで祭りからの熱狂が冷めやらぬうちに新たな燃料を投下するかのように、

 "ダンジョン発見祭"

 なるものが開催されていた。


(どんだけ祭りに飢えてんだよ?! 昨日の今日ってレベルだぞ?!)


 ラルフは、すべてに対してツッコミを入れたい衝動に駆られた。彼の目には、街の異常な熱気が映し出される。


 街を歩けば、そこかしこで他国の貴族が酒に酔い潰れ、地面に大の字になっている。隣では、陽気なエルフの少女が、赤い顔をして「あーはっはっは!」と笑いながら、同じように酔い潰れている。

 屋台街は、(いや、もうこれオーバーツーリズムだろ?!)と、ラルフが頭を抱えてしまいそうになるほどの混雑ぶりだ。

 人々の熱気と喧騒が渦巻き、それぞれの屋台から食欲をそそる香りが漂ってくる。


「いらっしゃい! いらっしゃい! 真っ赤で美味しい、血のラーメンだよう!」


 ポンコツラーメンのパメラの、どこか危うげだが元気な呼び込みが聞こえてくる。彼女たちの屋台の前には、驚くほどの長蛇の列ができていた。それはそうだろう。彼女たちの屋台に掲げられた看板には、燦然と輝く"金獅子勲章"の文字が刻まれているのだ。その品質と美味さは、もはや王国公認である。


 そして、そのすぐ近く。


「はいよー。カレーパン三個ね。はい次の方ぁ、五つね、はいよー。次の方ぁ……、個数だけちゃっちゃと伝えなさいよ! こんだけ忙しいんだから、空気読みなさいよね!!」


 と、プリプリと怒りながら雑な接客をしているエリカのカレーパンも、何故か盛況を極めていた。彼女の高飛車な性格が、奔放で快活な魅力となって、多くのファンを惹きつけている。そして、彼女のカレーに魅了された「カレー信者」もまた、根強く存在しているのだ。


 またも、祭の日々に逆戻りだ。しかし、今回は領が主催するものではないため、ラルフはかなり気が楽だった。いや、正直なところ、することがない。ただ、楽観していられないのが、あの未発見のダンジョンだ。


 どうやら、今夜、ダンジョンの先遣調査隊についての重要な会議が、居酒屋領主館で行われるらしい。その知らせを聞いたラルフは、思わず天を仰ぎ、咆哮した。


「というか……、なんでそんな重大な会議を、居酒屋でやるんだぁぁぁぁぁぁぁあ?!!!」


 彼の叫び声は、喧騒に満ちた街中に虚しく響き渡る。しかし、街中の人々は、そんなラルフの奇行さえも、「あー、また領主さまが変なことしてるなぁ」と、生温かい優しい目で、にこやかに見過ごしていた。彼らにとっては、もはやラルフの奇行も、この街の日常の一部なのだ。

 おかしいのはもう重々承知。これが、ラルフが意図してか、意図せずしてか成し遂げてしまった、「美味しい革命」の成れの果てだった。もはや彼の理想とはかけ離れた、自由奔放で、ある意味では無秩序な、しかしどこか温かい、この街の「日常」がそこにあった。

 とりあえず、また今夜も居酒屋領主館は満員御礼になるだろう。ため息を一つ吐き出し、ラルフは今夜の宴に備え、食材の買い付けに市場へと向かった。彼の背中には、騒がしい街のざわめきと、新たな問題の予感がのしかかっていた。

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― 新着の感想 ―
離れたくないけど普段の仕事もあるから断腸の思いで血涙流しながら未練タラタラで離れたけど、そんな現地でメガトン級情報出たら嬉々としていすわるよなぁwww 人は大義名分を掲げた時が1番つよい
領主の館に最高の居酒屋を作ったお前が悪い(笑) 領主の館に偉いさんが集まるのはおかしくないのでね……
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