150.港にて
興奮と熱狂の渦が巻き起こったロートシュタイン・グランプリは、劇的な結末を迎えた。
ロートシュタイン・グランプリ結果
* 一位: ミハエル - ネクサス2
* 二位: レグ - ロードスター
* 三位: リック・デューゼンバーグ - マーク・ワン
波乱に満ちたレース後、出場者たちは健闘を称え合い、互いの功績を讃え合った。激戦を繰り広げたライバルたちではあるが、元々は魔導車を愛する者同士。すぐに魔導車談義に花を咲かせ、今度「走行会」なるものを開催すると盛り上がっていた。ラルフは、(また妙なイベントに駆り出されるのかなぁ)と、嬉しさ半分、面倒臭さ半分といった複雑な感情を抱きながら、その喧騒を背に港へと向かった。
港には、伝説の海の魔獣ア・ベイラを討伐した船体、ウル・ヨルン号が停泊している。その威風堂々たる佇まいを一目見ようと、多くの人々で賑わっていた。かつて討伐戦を共に戦った冒険者クラン"シャーク・ハンターズ"の乗組員たちは、高級な召し物を身につけ、客たちに武勇伝を聞かせたり、サインに応じたりと、まるでスーパースターのような扱いを受けている。
一方、共和国からの使者や帝国の大臣たちは、ウル・ヨルン号の驚異的な軍事力としてのポテンシャルに、冷や汗を流すばかりだった。
桟橋から、バリバリッ! ズガァァァ!と雷撃のような音が響き渡る。
「ふむ! たまらん! 気持ちイイ!」
爆式魔銛砲《バリスタランスMk-II》の試射をしているマティヤス・カーライル騎士爵が、恍惚とした表情で叫んでいる。
「カーライル騎士爵! 早く私にも撃たせて下さいよぉ!」
「まあ、待て待て! もう一発だけ……。どこからか魔獣でも現れてくれんかなぁ」
まるで子供のような言葉に、ラルフは苦笑する。確かに、何もない海上にぶっ放すだけではつまらなかったか? 的当てのようなものを設ければ良かったかもしれない、とラルフは思ったが、まあ追々考えてみようと頭の隅に置いた。
その時、海賊公社のメリッサ・ストーンが、ラルフの元へとやってきた。
「あのぅ、ラルフ様。ちょっとお願いというかぁ。わがままというかぁ、おねだりがあるのですがぁ」
彼女らしくない、もじもじとした態度にラルフは目を瞬かせた。
「なんだ? ……正直、予想はついてるけどな」
「そうですか! そうですか! なら、……そのぅ。私も、あれ欲しいなぁ、なんて」
メリッサは、ウル・ヨルン号を指差す。ア・ベイラ討伐戦では、海賊公社の彼女を招集し、操舵手を任せた。一度操船した船に愛着でも湧いてしまったのだろうか、とラルフは思った。
「いや。君たち、商船だからね? あんな過剰な武装、いる?」
ラルフの問いに、メリッサはまさかの発言を繰り出した。
「じゃあ! 私、シャーク・ハンターズに加入します!」
「おお! 来い来い! 姉さんがいてくれたら最強だぜ!」
シャーク・ハンターズの面々から歓迎の声が上がる。
「勘弁して下さいよぉ! 姉御ぉ!」
対照的に、海賊公社の面々からは困惑の声が上がった。
ラルフは「はぁ」と大きな溜息をついた。そして、
「わかったわかった。何か考えておくから……。あと、別に副業は禁止しないけど、本業に支障がないようにしてくれ」
そう告げると、メリッサの表情がぱぁ!と華やいだ。彼女もまた、さすがは船乗りと言ったところか、根っからの船マニアなのかもしれない。ということは、……とラルフはふと辺りを見渡した。中には、ウル・ヨルン号を見上げて「かっこいいなぁ」と呟いている者たちもいる。なるほど、船オタクがいるな。ならば、船の小型模型でも作ったら売れるか? ラルフは新たなビジネスの着想を得て、思わずニヤリと笑みをこぼした。
その時だった。
「ギャオオオオオオオ!」
雄叫びを上げて、ラルフのペットである赤いワイバーン、レッドフォードが上空から現れた。そして、ドンっ!と港の縁に、巨大なサメを落とした。
「おおおおおっ!」
「いぇー! サメだサメぇ!」
「ははぁ、レッドフォード様ぁ!」
魚好きたちが歓声を上げる。中には、レッドフォードに額づいて最大限の感謝の意を表明している貴族までいる。それでいいのか? とラルフは呆れ果てた。
かつてレッドフォードが退治したメガロドンには及ばないものの、かなり巨大なサメだ。その恩恵というか献上品に、港のお祭り騒ぎはさらにヒートアップしていった。




