表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
居酒屋領主館【書籍化&コミカライズ進行中!!】  作者: ヤマザキゴウ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

148/293

148.スターティング・グリッド

 暑い日差しが照りつけるロートシュタインの石畳に、八台の魔導車が並んでいた。

 街道から市民区、そして歴史ある水門を経て旧市場を縫う、市街特設コース。普段から賑わいの空気を纏うこの街が、今日はまた別の顔を見せていた。


 この世界初の公式魔導車レース。

 その名も――《ロートシュタイン・グランプリ》。


 市民は建物の窓から、広場の大型魔導スクリーンから、あるいは街角の屋台越しに、この非日常を見守っている。


「歴史が始まるその瞬間を、我々は見届けようとしています……!」


 実況のマルティが、会場全体に響くよう魔導拡声器で語りかける。


「魔導エンジンの轟きが、ここロートシュタインにこだまする! 栄えある第一回――《ロートシュタイン・グランプリ》、まもなく開幕ッ!」


 並ぶマシンに、熱風がうねった。

 街を震わせるような重低音とともに、各車の魔導炉が脈動を始める。


「本日は解説に、この街の主――ラルフ・ドーソン公爵閣下をお迎えしています!」


 ひときわ落ち着いた声が返る。


「どーもー。いやぁ、こんな日が来るとは思わなかったねぇ。市街を走らせてくれって言われた時は、マジかヤベーわ、見たいわぁ、と思ったよねぇ」


 肩の力が抜けたような声。だが、その裏には確かな熱があった。ロートシュタインの技術と、遊び心を愛する男の声だった。


「では早速、注目の出場者を一人ずつ見てまいりましょう!」


 第一グリッド、赤の小型魔導車――クーパー。


「まずは、王都からやってきた洗濯屋! ナード・ベルグ選手と赤のクーパー!」


「クーパーかぁ。あれはね、小回りは利くけど、直線でどれだけ伸びるかが課題なんだよね。まあ、運転してて楽しい車ではあるんだよ。ギュインって曲がるし、ふわっと加速するし」


 第二グリッド、純白の美しいフォルム、魔導車・シルフィー。


「続いて、辺境伯家のご令嬢! シンシア・シンプソン選手、純白のシルフィー!」


「うーん、シンシアさんって、正直あまり面識ないんだけどね……あのシルフィーはかなりイジってるなぁ。リアの魔導エアスポイラーが変わってる。浮力制御か、エアフローレンジの調整が入ってると思うよ」


 第三グリッド、青く輝くチーター。


「こちらは共和国から電撃参戦、議員のバッソ選手! チーターに乗って三日目!」


「買ったばっかりらしいねぇ。だから、完全にノーマル。でもねぇ、あのチーターは速いのよ。魔導パイプの回し方がちょっと特殊でさ、スピードだけなら侮れない。……ま、曲がれれば、の話だけどね!」


 第四グリッド、銀色のロードスター。


「次は地元代表! 居酒屋領主館のレグ選手、銀のロードスターで出走!」


「レグはウチの代表だからな! っていうか、僕より運転上手いよ。彼は普段、大型魔導車乗ってるからね。あのロードスターは僕が貸したんだけど、かなり速いよ」


 第五グリッド、漆黒のネクサス2。


「“ただのミハエル”と名乗っての参戦! その正体は第三王子……!? 漆黒のネクサス2で登場!」


「ミハエルはねぇ、今回、気合い入ってるよ。昨日も夜遅くまで街道でセッティング出しててさ……近くで野営メシ食べてた人達から、爆音で苦情入ったからね! 魔導核が吠えてたよ」

 観客がハハハっ! と笑い。ミハエルは顔を赤らめていた。


 第六グリッド、紺色のマーク・ワン。


「続いては貴族の重鎮、伯爵デューゼンバーグ卿! 紺色のマーク・ワンでの出走!」


「マーク・ワンはねぇ、ラグジュアリーカーではあるんだけど……パワーはあるよ。安定性も抜群。何より、乗り心地が最強! レースってなると未知数だけど。割と良いとこいくと思うんだよなぁ」


 第七グリッド、赤と白のエボ。


「西大陸の小国から来た無名の男! トミー・マッキノン選手! 赤と白のエボ!」


「トミーさんって、知らないんだけど、エボを買ったかぁ……あれはね、魔導車初の四輪駆動の実験車体なの。雪道仕様だったんだけど、うまく操れば、石畳でも舗装でも化けるよ。重心の跳ね返りがカギだねぇ」


 最終グリッド、黄色のセブンスター。


「最後に登場は――金髪の閃光、エルフのミュリエル選手! 黄色のセブンスター!」


「えっ?! ミュリエルも出るの?! いや、まあ、確かに、あいつ、最近稼いだらしいからなぁ……うーん、でも、なんか事故る気しかしない……。うーわ、あの音。セブンスターの魔導流路、絶対触ってると思うんだよね。派手だけど、まともに曲がるかどうかは……運任せかな?」


 すべての魔導車が唸りを上げる中、スターターが静かに歩み出る。


 風が止み、空気が張り詰めた。


 そして――


「第一回ロートシュタイン・グランプリ、スタートです!!」


 マルティの絶叫と共に、轟音が街を貫いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
極上のデモーニッシュな香りを秘めたガスの匂い、狂気そのものの乗り手たち。ロートシュタイン・グランプリが今走ろうとしている。 賭け事?カレー姫がいるんだぜ♪
極上のデモーニッシュな香りを秘めたガスの匂い、狂気そのものの乗り手たち。ロートシュタイン・グランプリが今走ろうとしている。 賭け事?カレー姫がいるんだぜ♪
事故る未来しか見えないドライバーが半数とか、危険過ぎるなあ…w 魔法があるから安全対策皆無っぽいのが熱い!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ