ロランの覚醒
アルマンは生唾を飲み込み咄嗟に言い訳を口にする。
「ロ、ロラン様の愛するシャルロット様があの悪女に倒され、私が仕返しに……」
「私の愛する? ジゼルがシャルロットを倒した? 」
ロランはアルマンの愚かさに驚く。白百合発言から何一つ察することができないアルマンからは、伯爵家を背負う人間としての責任やその苦労を全く感じることができない。それどころか甘やかされ、好き勝手に生きている薄っぺらい人間像が浮き彫りになる。羨ましくすら思える人生だ。そんな男の家門を消滅させたことに罪意識はなく、成り上がり貴族の象徴のような存在に呆れため息が出る。
「ハァ」
ロランは駆け引きも出来ない人間にもわかりやすい言葉を選び話しだす。
「……ところで、仕返しと言ったが、やられたらやり返すという意味なのか? それはお前の中の正義?」
「は、はい! 」
アルマンは背筋を伸ばし誇らしげにロランの問いに答える。ロランは天を仰ぎアルマンに視線を戻す。その動作は呆れ果てたと言わんばかりの動作だ。
「アルマン……意見が合うな 」
ロランは笑顔を浮かべた。アルマンも言い訳が通じたと安堵し、笑顔を浮かべた時、ロランは魔法を使いアルマンを拘束した。壁を背に大の字になり両手両足を壁に繋がれたのだ。
「!? ロ、ロラン様?な、なんで?」
パニックになっているアルマンの首を片手で掴みロランは冷酷な表情を浮かべ言った。
「そう、やられたらやり返す。アルマン、怖くないだろ? 私がお前にやり返すことは全てお前の目の前で行うのだから。だが、ジゼルは……無防備な状態で背後からお前に蹴り倒された。その恐怖、その痛み、愚かなお前に想像できるだろうか?」
そう言って手に力を込め、首を絞める。抵抗できないアルマンの顔色が赤黒く変化した時、ロランはその手をパッと離し歩きだした。咳き込むアルマンに背を向け五メートルほど離れた場所で立ち止まり、ロランは再びアルマンを見る。
その瞳は鋭く、ロランの纏う殺気に満ちた空気がアルマンを襲う。アルマンは恐怖に歯をカチカチと鳴らし泣きだした。
そんな情けないアルマンを見て、ロランは耐え難い状況に顔を歪める。
(目の前で見苦しく泣く愚かな男。こんな男に……最も大切な人が傷つけられた!!)
その現実はロランにとって拷問に思えるほどの苦痛。側にいればジゼルに近づくことも指一本触れることも、その視界に入れることもさせはしない。だが現実はこんな低俗な男から、一生消えない傷をつけられたのだ。
(こんな愚かな男に!!)
ロランは両手を握りしめる。叫びたくなるほどの後悔と屈辱に近い感情。深い海に引き摺り込まれ溺れてゆくような苦しさがロランに襲いかかる。
ことの発端はこの結婚、拒否した自分、執拗にジゼルを攻撃し続けるシャルロット、シャルロットに気に入られたいがためにジゼルを攻撃する貴族、世論に流され糾弾する多くの人、その結果、愚かなアルマンによってジゼルが傷つけられた。
ブルレックの王マチアスを警戒し、別邸の警備も万全にし、シャルロットを追い詰め考えられる脅威を排除しているにもかかわらず、何一つ能力の無い人間によって傷つけられたことがロランの後悔を一層深める。目の前の敵だけを見ていた自分の失態が、この結果を生んだ。それは大魔法使いとして、魔力のない娘の夫として万死に値するほどの後悔と屈辱。
(もっと早くに大切にしていれば、もっと早くに素直になっていれば、もっと早くに動いていれば、誰一人としてジゼルを傷つけることをさせなかった!)
後悔ばかりが浮かぶ。
(だが、ジゼルが生きているから後悔ができる。が、万が一死んでしまったら……)
『だから……お前は大切な人を守れなかった』
突然頭の中に誰かの声が聞こえ、瞼に焼きついていた血だらけのジゼルの姿が、心臓を刺され倒れている誰かの姿と重なった。
(なんだ!?……以前、同じようなことが……起きた?)
何度もフラッシュバックするように浮かび上がるその光景。素直になれなかった自分、そのせいで命よりも大切な人を奪われた記憶。走馬灯のように頭の中を駆け巡る遠い過去の記憶。あまりに苦しく忘れたいと願った出会いと別れ。
息もできぬほどの絶望と深い後悔がロランを呑み込んだ時、ロランの眉間に光が走った。
!?
ロランはわずかに震える指先で眉間に触れた。
『再び、我を呼び出すのだ。リシャール、いや、ロランよ!』
ダークネスドラゴンの声が聞こえた。
【この結婚が終わる時】作者ねここと申します。
この拙いお話を読んでくださる読者様。本当にありがとうございます。
心より感謝を申し上げます。
お元気でいらっしゃいますか?もう12月ですね。
この、『ロランの覚醒』文章が定まらず試行錯誤。Xでその過程をアップしましたが、
結局このような形となりました。変だったらすみません。まだまだ未熟者です。
私は読者様の解釈や想像力を誘導する技術がありませんので、描写がが多く本当にすみません。
そんなことをしていたら行ったり来たりで文字数が予定よりも少ないですが、まずは出来たところだけでもアップしようと、アップ優先を選びました。すみません。
その続きもできるだけ早くアップしたいと思います。
ジゼル編からは想像もつかない裏の世界。今ジゼル編原稿を見ていますが、
たくさんある言葉から心を打つ言葉を選び組み合わせ、まるでパズルのようです。
生きた言葉、血の通った言葉を探したい、日々そんなことを考えて書いています。
変わらず誤字脱字、行間、学びが乏しいです。すみません。いつもありがとうございます。
クリスマス頃にはジゼルとロランの甘いひとときの話が書けるよう頑張ります。
(ロラン目線ですのでまた違う印象になるかと思います)
いつも応援くださりありがとうございます。
続き、頑張って書きます。またよかったら読んでくださると嬉しいです。
大きな感謝を込めて
ねここ




