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【書籍化作業中】この結婚が終わる時  作者: ねここ
第二章 ロラン・ジュベール

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大魔法使いと魔力の無い娘



 ロランは倒れているシャルロットを見下げ、貴族達の言葉を聞いていた。ベルトランも同じようにし、聞いている。

 

 シャルロットと懇意にしていたロランの母ルィーズはリカルドのノートの一部を手に取り、ショックにブルブルと震え出し、父、リオネルがルィーズを抱きしめる。悪行が露見し倒れたふりをするシャルロット。その傍にいるマリアンヌの顔面は蒼白だ。

 


「……それで? どう思うんだ? あの時お前達に言ったジゼルの言葉をどう思った? お祖父様がジゼルにたぶらかされたと言った、ジュベールを侮辱するその言葉を妻が取り消せと訴えた時、自分のことは何を言われても甘んじて受け止めると……そう言った言葉を……」


 ロランは言葉に詰まった。血を流すジゼルの姿が目に焼きついて離れない。ロランの顔を見て泣き出したジゼルがどんな気持ちであの時間を耐えていたのか、それを思い出すだけでロランの胸は張り裂けそうになる。


 天井を仰ぎ、熱く溢れ出す気持ちを堪え唇を結ぶ。


 静かに息を吐きシャルロット派と呼ばれる貴族を見回した。

 重い沈黙、シャルロットの悪行が暴かれた今、加担していたことを後悔する人間、半信半疑の人間、おかした罪に涙を流す人間、様々な反応がある。


 けれど、ロランは誰一人として許す気はない。ジゼルは自分がどれほど嫌われているか、どれほど疎ましく思われているか知った上で、立ち向かった。


 その勇気はどれほどだったか、それを知った時、鳥肌が立つほど心が震えた。

 それを馬鹿にした人間を、馬鹿にした上で傷つけた人間を許せるはずがない。


 

「もう一度聞く。ここにいたお前達はジゼルのその言葉をどう受け止めた? 完全なアウェーで、好意的な人間が誰一人居ない中で、勇気を振り絞り、お祖父様以外誰一人ジゼルを認めないこのジュベール公爵家、ここから追い出されるかもしれないと覚悟し、言った妻の言葉を……ふ、震えていると……笑ったお前達を、そんなお前達を……………………」




「この私が笑って許すと思うのか!!!!」




 その言葉にベルトランは口を結び、ロランの両親は首を垂れる。アメリーはロランの迫力にガタガタと震え、周りにいるシャルロット派の令息や令嬢は恐怖に息を止める。


 ピンと張り詰めた空気は肌を刺すように冷たく、声も出せないほどの圧力が会場を覆う。ジゼルを愛するダークネスドラゴンは今にも貴族達に飛びかかろうと羽を広げる。


 ロランとダークネスドラゴン、一心一体の存在。この世界でただ一人魔力のない娘、ジゼルを守るためにここにいるのだ。

 

 パチン

 

 ロランは指を鳴らした。するとダークネスドラゴンはアメリー目掛け口を開ける。

 

「ご、ごめんなさ、ゆ、許してくださ……」

 アメリーはロランにひれ伏し命乞いをする。


「ロラン!  やめて!!」

 

 ロランの母ルィーズが飛び出しロランのローブを掴んだ。ロランは涙を流す母親の顔をチラッと見てまた視線をアメリーに戻す。


(ヤニックのアドバイス通りアメリーは生かす)


「……アメリーバリエ、バリエ伯爵はジュベールに好意的な家門。バリエ伯爵に免じてアメリー令嬢は殺さない。だがお前の瞳は何を見ても本当の色彩を見ることはできない。全てが真っ赤に見えるだろう。この赤はお前の罪。一生それを背負って生きて行くが良い」


 ロランはアメリーに向け魔法を使う。アメリーは両目を手で覆い発狂したように泣き出し、バリエ伯爵はアメリーに駆け寄りロランに頭を下げる。ルィーゼは複雑な表情を浮かべロランのローブを離した。ロランは徐にルィーゼの方に振り返り言った。

 

「ああ、そうだ。母上、ちょうど良い機会です。大魔法使いが魔力の無い娘と結婚する理由を教えましょう。こんな悪意から娘を守るためです。ジゼルは唯一ドラゴン王を誕生させ、世界を安定に導く人間。その人に危害を加えようとする人間から守るために私は圧倒的な力を手にしました。それが大魔法使いの私の使命」


 ロランはそう言って唇を結ぶルィーゼから離れ、ジゼルを取り囲んだ若い令息や令嬢の前に立った。

 皆ロランの姿に圧倒され息を呑む。ジゼルを取り囲んだ事を理由に殺されるかもしれない、恐怖に倒れる令嬢もいる。ロランは黙って彼らを見つめ、口を開いた。


「……お前達の判断一つで家門が消滅する。これをやりすぎだと思うか? 万が一ジゼルが死んでしまったら、この世界は五百年前と同じ歴史を繰り返す。その責任を取れるのか?  良いか、真実を見誤るとニコラ伯爵のようになると心に留めおけ」


 令息や令嬢は震えながらロランの言葉に頷く。ロランはさらに続ける。


「ジュベール公爵家、その一族。私が次期当主にふさわしくないのなら、ジゼルが私の妻に相応しくないと考えるのなら私はこの名を捨てても構わない。母上を始め誰一人彼女を認めなくともジゼルは私の妻だ。それでも今後も妻を排除しようとするならば、私は妻と共にこの国を去る」


 ロランはそう言いながら倒れているシャルロットを見て歩み寄った。



「シャルロット、失神する演技はやめろ。全ての幕は降りたのだ。人の心は筋書き通りにいかない。私はシャルロットを許す気は無い。だが()()()()でいる限り殺しはしない、が、この先私に捨てられた屈辱と、浅ましくも卑しい自らの行動を死ぬまで後悔するんだな。その苦痛をじっくりと味わうがいい」


 ロランの言葉を聞いたシャルロットはゆっくりと体を起こした。青ざめた顔、震える唇でロランに話しかける


「ロラン、全て、全て誤解です。私の悲しむ姿を見た周りの者が私に配慮しこのような筋書きを……」

「……ハァ」

 ロランは軽蔑の眼差しをシャルロットに向ける。


「……シャルロットの罪を告発する! ジゼルを陥れ国を混乱させたこと、リカルドを脅したこと、そして意図的に毒を飲み私を利用した事。この告発が王家との対立の火種となったとしても私は引かない。この先再びジゼルを貶めようとするならば、それ相応の覚悟をするんだな!」


「ロラン、違うの、罠に、マチアスの罠に……」


 ロランはざめざめと泣き出すシャルロットを一瞥し、その場から立ち去った。

 

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