*7* 一人と一匹と孫達、祖父の自宅改造計画①
サイラスの希望を聞いてから二日後。皆でしっかりとプランを練り、道具類や素材を購入して挑む早朝六時。
「よし、それじゃあ野郎ども、気合入れてやるぞー!!」
【がんばって さいらすに いえの かいてきさ しらしめます】
まず取りかかるのは床。石で出来たこの床は、今のところ汚れに強い以外の利点が何もない。ゴツゴツした石造りの小屋は、ゲームの中で見るからわくわくするものであって、実際に住むにはちょっと不便だ。
ファンタジー世界っぽくて嫌いじゃないけど、家具を置けないのは困る。なので勿体ないけど床は平らにさせてもらうが、そうするのは小屋の三分の二だけだ。煮炊きする場所はこれまで通り汚しても良いように残す。
「これが異世界の建築資材ですか……何と書いてあるのか、さっぱり読めませんね。ふふ、年甲斐もなくわくわくしてしまいます」
「だろ? 今日はサイラスに、いっぱいわくわくしてもらうからな」
「ふふ、それは楽しみですねぇ」
今回のDIYはサイラスの家をビフォーアフターするので、私にしてはかなりの金額を贅沢にぶっ込んだ。でも孫の一人として、手作り出来るところは手作りしたい。というかする。駄神のVTuber機材を買うくらいなら、絶対こっちの出費の方が万倍も良い。購入した素材はざっとこんな感じ。
【ホームセンター購入物】
カラーインスタント・モルタル
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ドラム式洗濯機空間有効活用・収納棚とハンガーレール付きスチールラック(黒,100x60x150cm)一台、木材・集成材幅910mm 長さ1820mm 厚さ18mmを適量(加工後スキルで増やす)、艶出し用ニス、ヤスリ、厚手の洗える置き畳マット(範囲分)、ミニ脚立(黒)一台、キャスター付き衣装ケース(大4)。
【百均購入物】
S字フック(大小・各10)、結束バンド100入、ワイヤーネット長方形(大4、正方形2)、黒板セット(大2)、A4サイズのファイル、ファイルケース、ファイルボックス(各5)、ブックスタンド(大4)、マグネット(中6個入り)、フック型カーテンクリップ・アンティーク色(6個入り×2)、レトロ調安全ピン(4個入り×2)、組立式蓋つき収納ボックス(大2)。
正直スチールラックが値段も性能も反則気味に強い。これはもう家具だ。でもこれに手を加えれば、サイラスの執筆環境がグッと上がる。今日のDIYはこいつを主役に周辺環境を整えていくつもりだ。
「じゃあまずは舟にカラーモルタル入れるから、忠太は水分調節、金太郎はモルタルを練って、私と輪太郎がコテで床塗装な。この工程は外が明るい時間に済ませるぞ〜」
【きんたろう ひまんけいき たんしゅくの れい はたして もらいます】
厳かにそうスマホに打ち込む忠太の前で、金太郎がビシッと敬礼する。その隣では金太郎を兄貴分として慕う輪太郎が真似をしていた。何だあれ可愛い。
ちなみにココは本日一羽で畑全体の警備という大役で、サイラスの仕事は孫達の働きを見て小説のネタを思いつくことだ。まぁこの作業でどんなジャンルが出来るのかは分からないけど。
手始めに使用するのは、お手軽ガーデンDIYで人気のインスタントモルタル。普通のモルタルよりも扱いやすく、本来灰色しかないモルタルと違って色粉を練り込んであるため、お洒落な仕上がりになる。乾燥時間も比較的短い。
そこに氷魔法が得意な我が相棒、水分調節番長の忠太が加われば怖いものなし。失敗を恐れず時短しながら作業が出来る。
今回使うカラーモルタルは温かみがあって、まぁまぁ汚れの目立ちにくいテラコッタカラー。要するにオレンジっぽい茶色。それをガシガシと量産して床にコテで塗る。輪太郎は流石、元祖ゴーレム。土の扱いに関してはこの場の誰より手慣れていて、もたつく私と違ってどんどん綺麗に塗っていく。
忠太は塗った端から徐々に水分を抜いて、私と輪太郎がうっかり触っても跡が残らないようにしてくれている。一応ここにサイラス達が住む時に苔を除去していたけど、苔跡が残る石達がモルタルに覆われて見えなくなっていくのは、ちょっと気分が良い。
小屋を改造するに当たってサイラスが希望したのは、皆が同じ視線の高さで囲める食卓。心根がどこまでも祖父。見た目と長年置かれていた立場は、若くして夫に先立たれた薄幸な未亡人だけど。
とはいえこの小屋に人数分の椅子を置く場所はない。それにそんなことをしたら肝心のサイラスの書物机も、本棚も置けなくなる。しかしそこで私は思いついた。前世のバイト先――居酒屋の小上りになった奥座敷を。この床の下塗りはその布石だ。
黙々と作業をしながら、時々やらかす失敗を輪太郎にリカバリーしてもらいつつ、床は着実に塗られていく。テコの原理でモルタルを練る金太郎も、転がらない身体を取り戻したことで、活き活きと真面目に働いている。
今のところは……だが。いつ余計な悪戯をするか分からないから気が抜けない。まぁ金太郎の奇行を気にしてばかりもいられないので、作業を進める。
モルタルは一定の高さまで塗ったら、忠太が入れておいてくれた水準器アプリを起動して、床が平らになっているかを確認して高さを出す。目標の高さは、椅子に座っている人の視線の高さ、大体110〜120に、座敷に座っているサイラスの視線の高さが合うくらい。
一般的な椅子の座面の高さは45cm前後くらいとされているので、モルタルは10cmくらいの厚さで塗り、残りの高さは後から作る正方形の木枠(底なし)で埋める。たぶん最終的に諸々込みで視線の高さは130前後になる予定。
出来合いの木枠をホームセンターで購入しなかったのは、私の持っているスキルにある製品耐久力微上昇と、一度作ったアイテムの複製☆8(一日二十四個まで。高レア品は不可)をあてにしてのことだ。恐らく市販品よりはいくらか頑丈だろう。切実にそうであってくれ。
孫組一丸となって黙々と作業をしていると、ペンと紙を手に椅子に座って見学していたサイラスが、そーっと背後から近づいてきたかと思うと、申し訳なさそうに小首を傾げて。
「あの、マリ……僕もご一緒させていただけませんか? その、若者が夢中で作業しているのを見ていたら、何かしてみたくて。駄目……ですかね?」
――と。
孫達もびっくりなあざと可愛いおねだりをしてきたのだった。




