*5* 一人と一匹、突撃相談&晩御飯!
好奇心で嵐を呼ぶお馬鹿を制圧してお仕置き後、もう一つ選べる項目は忠太とアイコンタクトで二に決定。そこから拠点をたたんでバタバタとスマホで転移。飛んだ先は最近では駆け込み寺兼、祖父の家になりつつある場所。
手入れされた畑を横切り、明かりの漏れる小屋のドアをノックすることもなく突入。孫とペットが戯れる室内で書物中だったサイラスは、驚いた様子ではあったものの、両手を広げて歓迎のハグで出迎えてくれた。
――で。
ΨΦΔΔ■ΣΨΦ ΔΔΦ//ΨΨΦ
「これどこかで読んだり、目にしたことないか?」
腕の中でズイッとスマホの画面をサイラスの眼前に突きつけると、超至近距離で見せられた彼は、律儀に視線を数往復させてから眉を下げた。
「うぅん……残念ながら僕もチュータと同じく中級精霊ですので、開示されているところしか読めませんね」
「じゃあさ、サイラスならこの読めない部分に何て当てはめる?」
私の言葉に一拍置いて「と、いいますと?」と小首を傾げるサイラス。言葉足らずだった部分を忠太が引き継いで【しょうせつかの してんで あてはめて ください】と補足してくれた。
すると合点がいったらしく「ははぁ、成程。そちらが本題でしたか」とサイラスが楽しげに笑う。彼は目蓋がないのに表情豊かだ。雰囲気がそう感じさせるのかもしれない。
「ん。私と忠太だと、どうしても駄神への逆信頼が邪魔をするんだよ」
【たんとうしゃ れいせいに みれない】
「ああ、確かにその気持は分かりますね。それでは早速当てはめてみましょうか……と言いたいところですが、まずはチュータが無事元に戻れたお祝いとして、食事にしませんか?」
「――あ、」
【きんたろう しょっくで わすれて ました】
「そうそう、そのキンタローはどうしたんですか? チュータが元に戻ったと思ったら、今度は彼がかなりふくよかになったようですが」
「好奇心で余計なことばっかりするから、ちょっと太ってもらった」
実際は手足の先が少し動かせるくらいに羊毛フェルトを足した。なので今の金太郎はほぼ球体だ。いくら素早さを売りにしている金太郎とはいえども、転がることくらいしか出来ない。しばらく元に戻してやらん。
立ち上がろうとしいるのかコロコロと転がっているが、忠太の【かわいさで どうじょう かう つもりなら むだですよ】の一言で転がるのを止めた。図星かよ……腹黒いマスコットゴーレムだな。
第一駄神からのこんな見え見えな罠にかかるなんて、クマのくせに野生の勘が足りてなさすぎる。ほとんど文字が読めないのに、これで一個スキルの枠が消費されただなんて最悪だ。金太郎でなければ許してない。忠太は賢いからそもそも引っかからないしな。
「それで話を戻すけど、食事っていったって食べるのは私と忠太だけだろ。サイラス達はつまらないんじゃないか? しかも今更だけど、冷静になって考えたらこんな時間だし……小説書いてたよな」
「いいえ、人の食事するところを見るのは楽しいですから。それでも気になるようでしたら、食事をしながらお話を聞かせて下さい。ちょうどネタに行き詰まっていたところです」
「分かった。それじゃあ飯を作るから、畑の芋とか野菜もらっても良い?」
「勿論です。元々ここの畑にあるものはマリとチュータのものですから」
にこにこしながらそう言ってくれるサイラスだが、その発言には同意しかねる。忠太も同じことを感じたのか、スマホに向かって高速フリック入力をしだした。肩で息をする忠太からスマホを引き取り、サイラスに見せる。
【でも わたしたちが るすの とき はたけ かんり してくれて いるのは あなたや りんたろうや ここ です このはたけは もう あなたのにわ ちいさい かみさまたちも そういってる】
「そういうことだから。輪太郎、ココ、どの野菜が美味そうか教えてくれ」
「おやおや、嬉しいことを言ってくれますね。ではわたしはその間キンタローにお説教をしながら、ザクロと一緒に待っていましょうか」
本当に嬉しそうに微笑む優しい祖父に金太郎達をまかせ、かなり元気に茂っている立派な畑に繰り出した。私の食材の先生はココ、忠太の先生は輪太郎だ。どちらも自分達の育てた作物に自信を持つ農家の面構えをしている。
「ココ、これもらっても良い?」
【りんたろう このおいも とても かたちが いいですね】
「あ、秋ナスがある。これは焼いて田楽にしようか」
とはいえ元々ポーション用に作った畑で採れるものといえば、異世界カレーの食材と、焼き芋に使うサツマイモと、浅漬け用のナスくらいだ。収穫出来る季節が全部秋までのものを植えておいて良かった。
なので今夜のご飯は当然、異世界カレー……にしようかと思ったけど、流石に最近このカレーを食べすぎているので、使う食材はほとんど変わらないんだし、味変してシチューにしてみるか。
こっちで流行らせるつもりなら使えないけど、今回は自分達で食べるだけだから、市販のルーをあとで買おう。それにシチューはたぶんこっちの世界にもある。全体的にこの世界、乳製品文化だし。
しかし異世界カレー、そのうち万病にも効くようになりそうだ。ただ駄神から与えられる精神的なものには効かないんだよな。この世界で鬱病にも効くような薬草とかってないんだろうか。あったらかなり助かるんだけど。
などと考え事をしながら収穫していたら、あっという間に借りていた籠が食材でいっぱいになっていた。二人で食べ切れるか心配な量だが、まぁ何とかなるかとサイラス達の待つ小屋に戻って調理に取りかかる。
久しぶりの暖炉跡での調理だが、お茶に使うお湯を沸かすのとは違い火力がいるため、現家主のサイラスに了承を取ってから、小屋に置いておく調理器具をスマホで購入した。
まずホームセンターのサイトでカセットコンロとボンベ、深めの小鍋、小さいフライパンを購入。ネットスーパーでバター、鶏モモ肉、田楽味噌、牛乳、塩コショウに砂糖。包丁と使い捨ての食器、まな板、ピーラー、水、ルーなんかは百均で充分。
食材は使い切りの量だけど、道具類を片付けておく蓋つきのボックスも購入した。これなら蓋が作業台にもなる。
「ほう、便利ですね。僕の使っている机よりも表面が滑らかです」
「あ……! そうだよ、あの作業机だと小さいよな? 買った本を置く場所もあんまりないし……気付かないでごめん。小説家なら机と本棚はいるよな。希望のサイズとかあるなら言ってくれ。作るから」
ここを同人誌生活の拠点にしてほしいと言った際に、机や椅子といった家具は入れていたけど、あくまでも必要最低限。活動の場が広がって執筆の量もこれまでよりずっと多いから、最初に贈った机では手狭だ。それに資料になる本や、ファンレター、プレゼントなんかの収納場所が全然足りない。
「ふむ……大変嬉しい申し出ですが、良いのですか?」
「当たり前だろ。こんなに世話になってるのに。食事の時に色々詰めよう。デザインとかも忠太と一緒に考えるから」
自分の想像力の欠如に自己嫌悪しつつそう言うと、サイラスは本当に嬉しそうに頷いた。その表情を横目に見ながら、材料を切っていく。剥いた皮は輪太郎とココが畑の片隅に埋めにいってくれた。ちなみに今日はシチューなので赤い薬草は抜きだ。
ジャガイモ、人参、玉ねぎの代用品の魔草の死骸は乱切りとくし切りに。見た目が禍々しいけど、切ってしまえばもう食材だ。バターで鶏肉を先に炒め、野菜(広域解釈)を投入。野菜が透き通ってきたら水を入れて、煮立ってきたらアクを取る。
火を止めて予熱でルーを溶かしている間にナスを焼いて田楽味噌をつけ、ナス田楽に。サツマイモは短冊切りにして、こちらはシンプルにバターと砂糖で炒めた。甘いとしょっぱい。異世界と前世。洋と和のコラボだ。
「よし、完成っと」
「どれも美味しそうです。マリは料理上手ですね」
「べ、別にこれくらい誰でも出来るから。あーそれにほら、仕上げに使ったのだって市販のルーだし。美味しいのは企業努力だって」
「それだけではないでしょう。野菜の切り方も丁寧です。チュータのために少し小さく切ってあげているんですね」
【です それに まりのごはんは やさしいあじ します】
「止めろってば、二人ともまた面白がってるだろ。もう良いから。それより特に何もないだろうけど、一応カレーとの差を見たいから鑑定しとこう」
――というわけで軽い気持ちでサラッと鑑定をしてみたら。
《以前入手した第*難関〝弱肉強食〟のオプション【悪食】の上位互換となる特種条件が解放されました》
オプションを実装しますか?
>Yes
>No
――何か新しいスキルが生えたっぽい。




