*1* 一人、自分のデザインを探る。
ハートマークが二つ、スマホのメッセージ画面に並ぶ。入力したのはベビ忠太。それを横で腕組みをしながら見ているのは、羊毛ベアゴーレムの金太郎だ。地面にお手々ナイナイ状態で伏している柘榴に視線をやると、一瞬ベビ忠太の方を見てから「みゅぃ」と鳴いた。
「ん、今日の忠太はハート二つ分ご機嫌なんだな」
見上げてくるベビ忠太にそう問いかけると、今度はキラキラした星のマークがついた。ということは正解ということだな。ご機嫌値を表すハートマーク、ご機嫌が悪い時はハートが割れたマークだ。
正解や肯定はキラキラ星で、同意が大きくなるだけ星が増える。否定は雷のマークだ。こちらも星のマークと同じく否定の数だけ増える。
他にも不調はドクロ、嫌いや嫌はムカッとマーク、ご機嫌とは別に好意としての好きは、キラキラしたハートマークだ。基本的に各種マークの最大値はどれも三だけど、星と雷だけは重要度が分かりやすいよう五にしている。このベビ忠太の感情パラメーター発案者は、うちで一番子守が上手な金太郎だった。
これならスマホへの興味が前より薄い上に、フリック入力が難しくなったベビ忠太でも、簡単な意思の疎通を図ることが出来る。
「それじゃあ、今日は昨日の続きをしよう。この作りかけの簪につけるなら、金太郎と私が集めた素材の中で、忠太はどれが良いと思う?」
ゆっくりと聞き取りやすい声で尋ねつつ、ベビ忠太の前にドングリに似た木の実の帽子を並べる。ベビ忠太は並べられた素材の間を歩きながら、一つ一つ匂いを嗅ぎ、その中から一際ふっくらした木の実の帽子を選んだ。形は両側にある突起のせいで猫っぽい。
「ん、これな。コロンとしてて可愛いよな」
こちらの言葉に小首を傾げたベビ忠太は、ギリギリ認証される小さな手で全体重をかけてタップ。画面のマークは星が二つ。そこそこの反応だ。
「だったら中に入れる魔石は猫目っぽい黄色にして、羽根飾りは緑のこっちで、簪に使う枝は……こっちのウネウネのにするのか? 分かった。そうなると丸カンはアンティークゴールドで、花座は蓮っぽいのにしよう。どう?」
今度は少し間を開けてから星が四つ。かなり良い反応。隣で金太郎も大きく頷いている。柘榴は……あんまり興味がなさそうだ。むしろ私達の感情に興味があるらしい。全員の顔を覗き込んでは「みゅ」と納得した様子で鳴く。
どうにも柘榴は身近にいる仲間の機嫌というか、心の調子を見るのが趣味らしい。ベビ忠太の機嫌がマークと合っているかどうか分かりにくい時は、最終的に柘榴が額の魔石を使って読んでくれている。
嘘発見器というと聞こえが悪いけど、以前より動きが幼い忠太の体調不良を探るには最適だ。
「じゃあデザインは決まりだな。金太郎、私が作業してる間は、忠太と柘榴が近付かないように見張っててくれ」
こちらの発言をしっかり理解した金太郎が、ベビ忠太と柘榴を見張る態勢に入った。枝にヤスリをかけ、レジンでコーティングしたパーツにドライバーで穴を開け、ヤットコで丸カンに通したアイテムを繋いでいく。
黙々と作業をしていたらポッ、ポッ、ポポポと、頭上でリズミカルにテントを叩く音がして。ベッドから立ち上がってテントの外を見れば、どんよりとした分厚い雲が空一面を覆っていた。
「あー、やっぱ降ってきたか。この分だと今日は一日雨だな」
今いるのはザリスの森だ。相変わらず鬱蒼としているから、駄神の加護であるこの大型テントを出す場所を探すのには苦労したけど、鬱蒼としている分、夕方くらいから涼しくなる十月でも比較的過ごしやすい。
今日は生憎の雨だけど、元々こっちに来た時は森暮らしだったから、天気が悪くなることくらい昨日のうちに予測済みだ。一日テントに籠って作業しても大丈夫なくらいは素材の蓄えもある。
駄神から妙な依頼をされ、忠太が縮んだこともあって始めたテント生活ももう三週間。普通のハツカネズミなら一回りくらい成長している期間だが、忠太はまだ元の姿に戻れてはいない。
けど守護ポイントも初日以降は段々減る速度が落ちたし、これまで働き詰めだった相棒の休暇だと思えるくらいには落ち着いた。
サイラスの助言のおかげで、私も前向きに℘₪℘₣■■₪₪₰℘と、₫√₱▼▲▲₪₣℘◆を貯めている。二日に一回は一緒に数値の確認をしてもらうついでに、向こうでサイラスとお喋りしながら夕飯も食べているから、孤独も感じない。
駄神の動画依頼もまちまちなので、依頼のない時は最近複製したものばかりになっていたショップの見直しを図り、新商品を作っている。よくよく考えたら、デザインを盗まれた時に入るボーナスが最近なかった。
ということは、向こうの市場で飽きられてきているということだ。こちらでの売上に翳りが見えないから、慢心していたと言わざるを得ない。そこでこれまで向こうで売れ筋の忠太任せだった細かな作風のアクセサリーから、自分なりの作風を作るべく研究している。
そこでショップ名〝眠りネズミ〟に立ち返って、木製パーツのアクセサリーに行き着いた。コンセプトは〝森で暮らすネズミの女の子が使いそうなアクセサリー〟だ。主に使用するのはウッドビーズやコットンパール、それから森で拾える癖がある枝や、ドングリみたいな木の実、変わった形の翼果や、鳥系の魔物が落とした羽根など。
ものによっては衛生面が気になるから煮沸や日光消毒をし、強度面も考えてレジンでコーティングはするが、本来の木目や形なんかはそのまま活かす。塗装は基本しない。色味がほしい時は自分で拾った魔石を使う。向こうで日常使いするだけなら効力なんかは無視して良いしな。
レア度はほとんどないが、向こうの世界では見ない形のものが多いので、物珍しさはあると思う。実際に出品したら一日経たずに売れた。駄神のオプションで新着に三十分載れるのも関係するけど、やっぱり新しい作品は目につきやすいのだろう。
一番最初に作った商品の名前を【小さな隠者の錫杖】という簪にしたせいか、初っ端に買ってくれたのは、サイトで交流があるコスプレイヤー兼お針子のカノンさんだった。身内票っぽい上にかなり局地的な流行り方をしそうではあるが、発送後すぐに【次のイベントで使います!】とメッセージがきたし、喜ばれているからまぁ良いかな――と。
次の瞬間見計らったみたいにスマホが震えて、転売ヤー達からスマホとパソコンを犠牲にしたボーナスが入る。それを横目に制作を続けようとしていたその時、雨足の強くなってきたテントの外から「すみません! 素材拾ってたら急に雨が降ってきちまって……ちょっと雨宿りさせてもらえませんか?」と、どこか聞き慣れた声がした。




