*11* 一人と一匹、ハローワールド!
「マリとチュータをそないに思い詰めさせてしもてごめんなぁ」
「そりゃあ付き合わされた挙げ句、目の前でこんなあからさまに落ち込まれたりしたら気に病むッスよね。自分達のことしか考えてなくて申し訳ない」
「い、いや、別にそういうんじゃないけど。忠太がちょっと落ち込んでるのはほら、あのー、責任感的なやつだから」
「そうなん? 責任感とかって感じとちゃうように見えるけど……」
「普通に落ち込んでるっぽいスけどね」
何とか胸ポケットから出てきてはいるものの、肩の上でラルーに支えられながら毛繕いされている姿は、確かにその通りなのでなんとも言えない。こうしている間にもポイントは減っていってるから無理もないのだけど。
もともと忠太は倹約家で、巨大化も人化も使用するポイントをかなり節約して使っているから、こんな蛇口の壊れた水道みたいに垂れ流し状態のことはまずないもんな……。
「まぁ……まぁまぁ。それよりも私達が異変を感じてる場所までもう少しだから。何がいるか分からないし気を引き締めといてくれ」
「任せといて! マリのくれた札があるから!」
「られるか。前も言ったけどエッダ、まず逃げるって約束だろ」
「ならオレの出番! マリのくれた笛があるッスからね!」
「デレク、その笛は別に万能じゃないから過信しすぎないでくれよ」
駄神の情報が記された地点は、エッダとデレクの二人も何度か行ったことがあるらしく、落ち込んでいた二人が正気を取り戻してくれたおかげで、スマホの地図に頼らずにザクザクと足早に森の中を進めている。
スマホの地図の通りに進めば、転生したばかりのころにマルカの町に初めて向かった日と同じ惨状になるところだった。グー◯ル……じゃなくて駄神マップは最短距離を教えてくれるけど、道の起伏や険しさは考えてないからな。
あとはやっぱり個人工房だとか他国出身だからと躱したところで、この世界の魔晶盤よりは私のスマホの方が圧倒的に便利すぎるから、あまり使っているところを見られると余計な説明の手間が増えるし。
ちなみに一応採取地の持ち主を変更したり購入したりする際は、事前に冒険者を森に向かわせてマッピングはしてもらい、工房の職人全員が地図の写しをもらうことになっているんだとか。
だからそれを頼りにさらに簡単に歩ける道を探して、工房や商会の壁に貼った地図にどんどん描き込んでいくのだそうだ。現場の人間のそういう情報は信憑性が高くて良い。作業の質を上げたいなら、楽が出来るところは楽が出来るように工夫するのが大事だ。苦労したところで時給が上がったりしないしな。
まぁそんな面倒なことはさて置き。さっきちらっとマップで確認したら、もう目的地までは目と鼻の先。
そのことに緊張しつつ歩く速度をさらに早めて、念の為いつでも忠太がスマホを触れるように画面を固定し、印の場所へと向かった――のだが。
「こらまたえらい派手な卵やなぁ!」
「しかも何かデカくないスか?」
「だな。おまけにこんな森の中で親もいない、巣らしきものもない場所に剥き出しか」
エッダとデレクがぽかんとした顔になるのも無理はない。自然環境下でこの色だったらまず間違いなく食われるような、どぎつい蛍光オレンジ、ショッキングピンク、目が覚めるブルーの三色。
「うーん、これは流石に食べられそうにあらへんねぇ」
「この色でその発言が出るとか、エッダは本当に逞しいな」
「食い気がヤバいだけじゃ?」
「やかましいわデレク。場を和ませる冗談やろ」
「いやでもコカトリスの卵は美味いぞ。目のつけどころは悪くない」
「「は?」」
さて。こんなに派手な卵なんて、前世でハロウィンに押され気味だったけど、最近ちょっと流行り始めたイースターの時期くらいだ。ウサギと卵の関係が謎で調べて微妙な気持ちになった記憶が蘇る。
小さければまだ可愛気もあるが、どれもダチョウの卵よりもうスリーサイズ上くらいの大きさ。これを産む大きさの個体って何だ? そもそも色が違いすぎて同じ種族のものかも分からないし、親がいるのかも分からない。これがかの有名な鶏が先か卵が先か現象か。
スマホを翳して鑑定を試みるも、当然のように【※※?※※#※◀※※】とか出て全然読めない。たまにはアップデートくらいしろよ駄神。何にせよ鳥か爬虫類か虫でも結構扱いが変わるんだが――と思っていたら、いきなりその中の蛍光オレンジの卵が一個が震え、表面にヒビが入った。
直後に肩から駆け下りてきた忠太が毛を膨らませ、スマホに【かみさま もうだめ でてきたとこで まほうつかう】と打ち込む。
画面で目減りしていく数字が見えないわけじゃないだろうに、一気に臨戦態勢に入る姿に頼もしさを感じつつ、あれに呑み込まれた小さな神様達のことが心に引っかかった。
「見た感じ、これ壊したら森の状態マシになるんちゃう?」
「あー……それかも。だったら躊躇しないで壊した方が良いッスね」
エッダとデレクはそう言いながら後ろに下がり、お互い攻撃用の札と魔物避けのホイッスルを構える。そんな相棒の動きに、ラルーは非戦闘員のレオンの尻尾を咥えて茂みに隠れた。
またさっきの卵の表面にヒビが走った。今度は一回目よりも深く長い。懸命に中から外に出ようともがいているのかもしれない。ヒビが入るごとに殻の欠片が飛び散る。痛いんだろうか。苦しいんだろうか。悲しいんだろうか。
こんな風に駄神の同僚に玩具にされて、物事の善悪の区別もつく前にここで生まれた直後に殺される。
初めてスマホから忠太が出てきてくれた時、困惑したけどいきなりこっちの世界に落ちてきて不安だったから、その温かさにほっとした。あの卵の中にいるのはかつての忠太と同じだって、ん――……卵?
睨みつける先にある卵の天辺の殻がいよいよ浮き上がる。瞬間パキッと音がして穴が開き、鋭い鉤爪の生えた手が伸びて卵の縁を掴んだのを見て。スマホから忠太を引き離して、スマホ本体を卵めがけて思いっきりぶん投げた。
「はぁーっ!?」
「ちょっ、気でも触れたんスか!?」
「ヂヂヂーッ!?」
オリハルコン並の強度を持つそれの前に、ヒビだらけの卵の殻など水に濡らした半紙同然。悲鳴じみた声を上げるエッダ達と忠太の視線を無視し、中心に大きく走ったヒビの縁に手をかけて一息に左右に割り、叫ぶ。
「おい、生きたかったらこっち見ろ! 私がお前の親だぞ!」
瞬間ベロンと生温かいものが頬に触れて。クリッとした金色の双眸が私の顔を映したその足元で、無傷のスマホが震えてメールを受信した。




