7 入社試験
入社試験を受けに来たはずが、気が付いたら練習グラウンドのマウンド上にいた。
でも、間違いない。これはチャンスだ。
小さく息を吐く。
借り物のグラブでボールを包むように持って、両手を腹の上で静止させる。
キャッチャーミットを見据える。
慣れ親しんだルーティン。
楓は小さく右足を上げて、左足に体重をかける。
少しだけ静止して、右足を二塁方向に少しだけ傾ける。
その反動を利用して、一気に腰から前に体重をかける。
上半身をマウンドにもぐりこむように沈ませて、左腕を地面に這わせる。
右足のつま先が地面に触れる感覚を得た瞬間――つまさき、足首、膝、腰、肩、肘、手首、指の関節、指先…体を構成する関節が、地面に近い順に回転する。
流れるような関節の連携動作。
もう何十万回、もしかすると何百万回と繰り返した動き。
体に染み付いたフォーム。
いつものフォームで放たれた白球は、いつもの軌道を描いて、いつもの速度でミットへ向かう。そして、いつものように、ホームベース直前で右打者のアウトロー方向へ鋭く落ちる。
ボールが変化する軌道に合わせて、ど真ん中に構えたキャッチャーミットが流れるように動く。
ワンバウンドすれすれの軌道を描いた白球は、谷口のミットを弾いて一塁方向へ転がっていった。
リクルートスーツの女子大生が放った鋭く曲がる変化球に、グラウンドの時間が一瞬止まる。
「One more!」
ホワイトランの叫び声が静寂を貫いた。
山なりにスペアのボールが投げられる。
楓はさっきとまったく同じフォームで同じボールを投げる。
今度は谷口が捕球した。
さらに「One more!」の声がかかり、谷口から楓に返球される。
これが20回続いた。
まだ暖かさが残る9月である。
リクルートスーツの下のシャツは、汗でびっしょりになっていた。
「あのう…さすがにそろそろ次の面接の方が…」
ホームベースにそろそろと歩み寄った面接担当者が、ホワイトランに告げる。
その横に立った本山が、英語でホワイトランに何か告げるのが、マウンド上の楓にもわかった。通訳を伴ってマウンドに歩み寄ると、ホワイトランは楓に告げた。
「再来週の日曜日、このグラウンドに来なさい。その時はユニフォームを着て。」




