Ep 2/9 千客万来の祝日 - スッコン -
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宿に入るとクルスさんがパタパタと階段を降りてきた。
「良かった、お友達と合流できたのね~♪」
クルスさんはリョースくんとケニーくんからシーツを受け取って、山のように折り重なったそれを抱えて裏庭に向かって歩き出した。
水分を吸ってかなり重くなっているはずなのに、クルスさんは平気な顔をしている……。
「あ、僕も干すのも手伝います」
「いいえ♪ それよりエドガーくんは、厨房の方をお願いしますね~♪」
「へ……厨房ですか?」
「ママー、まえみて、あるけー?」
不注意極まりない後ろ歩きだった。
「はーい、気を付けま~す♪」
「え、あの、それってどういうことですか……っ!?」
クルスさんはウフフといつもの笑い声を上げるだけで、そのまま裏の方に行ってしまった。
今日は祝日、酒場の方も昼過ぎに開くことになるので、忙しいのはわかるけれど……。
「俺とリョースはここでゆっくりしてるからよーっ、ドシャってやつ頼むぜ! サクサクの、ウスウスなんだろっ!? それ食いてぇっ、今すぐ作れ、作ってくれよぉっ、頼むよおめぇ!」
「俺は力があふれるアーモンドクッキーとやらが欲しいな。マジで話がホントなら、今週の迷宮実習に行く前に確保しておきてぇだろ」
「そういうこと、だぞー、エドガー。まー、あんしんしろー? ティアが、てつだってあげるからなー、でーじょぶだぜー。あ、それに、ざいりょうは、もう、ある!」
ケニーくんはティアからラングドシャの話を聞いたようだ。
そういえば前にケニーくんをここに呼ぶと約束したんだった。
「え、そういうことって、どういうこと……? ちょ、ちょっと、押さないでよティアッ!?」
僕はティアにグイグイと押し込まれて、丸白鳥亭の厨房へと運ばれていった。
話の流れがよくわからないけど、ケニーくんとリョースくんが僕の手作りお菓子を求めてくれている。
もちろんティアもだ。
笑顔いっぱいのティアを見つめて、僕は思わぬこの急展開に加わることにした。
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「こねこね……ねこねこ……たんたんっ♪ へへー、たのしいね~、エドガーッ♪ へへへ……」
「うん、そうだね。こんなに楽しそうに手伝ってくれる人、ティアだけかもしれないよ。……あ、でもラングドシャは、あまりこね過ぎないでね?」
「わかったー! でもー、なんでー?」
「その方がサクサクした食感になるみたい。ラングドシャはカリカリよりサクサクがいいでしょ?」
「へーー……じゃ、こんなもんだなーっ! どーんっ!!」
クッキーとラングドシャが食べたいというから、言われた通りに作っているけれど、これだといつもとあまり変わらない。
何か足した方がいいだろうかと、僕が考えに手を止めると、ティアはクッキーの生地を僕から横取りして、重労働だろうに楽しそうにまたこねだした。
「次はもっと手の込んだやつが作りたいね。チーズケーキとか……」
「チーズのケーキ……? チーズなのに、あまーいのか……?」
ティアは生地をこねながら不思議そうに僕の顔を見上げた。
チーズといえばパン生地と合わせた料理が定番で、この店でもマルゲリータを提供している。
「うん。意外な組み合わせだけど美味しいよ。今回は材料が足りないけど……」
「そうかー。じゃ、なになら、つくれるー? あたらしいの、たべたいなー……たべて、みたいなぁ……? じーー……」
手を動かしながら、丸い瞳が僕をチラチラと見ていた。
何を作ったらいいのだろう。今日は二人を待たせているから、手が込んでいて時間がかかるのは無理だ。簡単なのがいい。
「そういえば、スコーン好きだったよね、ティア」
「スッコン? あ、かめさんかー?」
「え、なんで亀……?」
「そかー。かめさんは、ちがったかー……」
ティアはなんというか、思考回路がダイナミックだ……。
あまりに話が飛んでいたので、最初はわけがわからなかった。
「あ。もしかして、スコーンと、スッポンを間違えてる……?」
「そう、それだーっ! エドガー、しゅごいなー、かめさん、つくれる」
「そんなの作れないよっ!? そもそも亀なんて作られても困るでしょ……!?」
「おーー、それもそうだなー?」
「あのね、スコーンはケーキの一種だよ。牛乳とバターを使ったお菓子。前に屋台で食べたでしょ?」
「おおおおおおおーっっ、あれかぁーっ! つくろう! つくりましょう! いっぱい、つくりまくるてぇですっ! ティア、なにすればいいかっ!?」
つま先立ちになったり戻したり、肩を揺すってティアはなんでもないお菓子に興奮した。
スコーンなんてどこにでもあるお菓子なのに……。
「いっぱいって、具体的にどれくらい?」
「いっぱいは、いーーっぱいっっ! いつもより、いっぱいつくろうっ! きょうのおきゃくさまは、おとこのこだぞー? いっぱい、いるぞー!?」
「それもそうか。ケニーくん、かなりの食いしん坊だし……。わかったよ、じゃあここにある材料で、あるだけ作ってみようか」
「んーー……おみせの、こむぎこも、つかちゃおう。ママには、いっとくぞー」
「い、いいのかな……」
「へーき。ママは、いいですよ~♪ っていう。ダメなときは、ダメですよ~♪ って、いうからなー」
「それって、親としてどうなのかな……」
「いーの。ティア、ママすき」
酒場宿という環境にありながら、真っ直ぐに育っている今のティアが答えだろう。
僕たちは足りない材料を少しだけ、厨房から拝借することにした。




