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Ep 1/9 シャボンの香りのする祝日 - リョーン -

・●


 一通りのすすぎが終わって、エドガーが白いシーツを絞っていると、そこに思いがけない顔ぶれが現れた。


「おいおいマジかよ、マジで洗濯なんてしてやがる……」

「えっ……」


 どこかで聞いた声とひねくれた口調に、エドガーは手を止めて斜め後ろを振り返った。


「おめーよーっ、あんなにつえーのによっ、何女みてーなことしてんだよぉっ!?」

「よっ、遊びに来てやったぜ。それとケニー、お前女性陣から大ひんしゅく買ってるぞ」


 そこにいたのは英雄科のリョースとケニーだ。

 リョースとケニーは英雄科の制服を身に付けて、腰に長剣を吊していた。

 ケニーの方はまだ傷が完全に癒えていないようで、頭に白い包帯を巻き付けている。


「何この包帯デブ。男の子が洗濯して何が悪いのさ」

「誰がデブだよっ俺はデブじゃねぇーっ、生まれ付き骨太な体格なんだよぉーっ!」


 いちいち態度が悪いから、身体的な特徴を反撃にあげつらわれるのだ。

 一方のエドガーはリョースとつるむケニーの意外な姿に、あっけに取られていたようだった。


「いやいい加減現実とか認めて、痩せろよ……」

「いやいやいやっ、少しも太ってねーしっ! 太ってねーのに痩せるとか体に毒だってのっ! これが俺の標準体型なんだよーっ!」


 太っていようと痩せていようと、それが本人にとって快適な体型ならば何も問題ないだろう。

 もう少し絞れば、ケニーは重戦士としてもっともっと伸びると思うがな……。


「そうかよ。……おい、エドガー、それ最後か? 帰りは半分持つぜ」

「あ、うん、ありがとうリョースくん。水を吸ったシーツが意外と重くて、凄く助かるよ」

「おいおめーっ、何俺が手伝わないこと前提で話進めてんだよーっ!?」


「んじゃ手伝えよ」

「おう! 天才菓子職人を手伝えるなら、やや太めの人として本望だぜ! おらよこせっ、リョースお前は半分な!?」


 デブはダメなのに、太めなのは認めるそうだ。

 境界線がわからんと突っ込んだら俺の負けなのだろう……。


 ケニーとリョースは一緒になって湿ったシーツを抱え、エドガーの手にあった残り一枚まで奪い取っていた。


「いやさ……今さらだけどよ、キャラ変わり過ぎだろ、お前……」

「あの、僕も持つよっ、だってこれって僕の仕事だから……」


「うるせーっ、黙って手伝わせろ!」

「いいやつなんだか、悪いやつなんだか、めんどくせーやつだなぁ……。ああそうか、これがツンデレってやつかもな」


「はぁっ!? 勝手なこと言ってんじゃねーぞ、てめーっ! ほら帰るぞ、エドガー!」

「う、うん……。それじゃ、皆さん、また……」


 エドガーたちは背中の洗濯友達に手を振って、丸白鳥亭への道を歩いていった。

 ケニーが自分とリョースへの壁を取り払って、自然に接してくれていることがお人良しのエドガーは嬉しかったようだ。


「そういや知ってるか、コイツの父ちゃんって、50年前に活躍した大英雄の一人なんだぜ。なんとあの学長と一緒に、魔王アルなんとかを倒したやつらしい」

「え、それマジかよ!? だからあんなに強かったのかよ、おめーっ!?」


 共通の話題といえばその辺りだろう。

 リョースの言葉をケニーはすぐに信じ込んで、初対面の頃からすると別人のように好意的な反応を見せてくれた。


「ううん、僕は実の子じゃないよ。クリフ爺ちゃんは僕を拾ってくれただけ……。僕、身寄りがなかったから」

「立派だよなぁ……。引退した後、子供を引き取って育てようだなんて、普通は考えねーよな……」

「おめー、孤児なのか……? っ……や、止めろよなそういう話っ! 勘違いすんなよっ、別にこれっぽっちも、おめーに同情なんてしてねーからなっ!」


 素直ではない性格にもほどがあるだろう……。

 ケニーはつばを飛ばしながらも、その目を同情にうるませていた。

 これには魔王アルなんとかも困惑だ……。


「マジでめんどくせぇやつだな……」

「あ、そろそろ店に着くよ。あの角を――」

「んなの知ってるっての。せっかくこっちが訪ねてやったのに、祝日に洗濯してるバカがいるって、宿のやつに聞かされたんだろが、この野郎ーっ!」


「いや、あの子はんな乱暴なこと言ってねーだろ……」


 角を曲がって丸白鳥亭の前にやってくると、軒先にティアがしゃがみ込んでいた。

 ぼんやりと往来を眺めながら、旅行者や冒険者を見分けて、客引きが成功しそうな相手を探していた。


「あっ、エドガーだ! おかえりぃぃーっ!」

「ただいま、ティア。洗濯終わったよ」


 その丸い瞳がエドガーを見つけると、すぐに小柄な少女がエドガーの胸にしがみついていた。

 女性にベタベタされるのが苦手なエドガーも、ティアは妹感覚なのか全く平気なようだ。

 ティアは胸に埋めた顔を上げると、人々を魅了する明るい天使の笑顔を浮かべた。


「あのなーあのなー、ティアなーっ、ケーニと、リョーンがなー、さがしてたからなー、おしえてあげたぞー!」

「ケーニじゃねぇっ! ケニーだっつってんだろおめーっ!?」

「俺は別にリョーンでもいいぜ。リョースってぶっちゃけ呼びにくいよなー、お前もそう思うだろ、ケーニ」


「ケニーじゃねぇ、ケーニだ!」


 なるほど。あまりに本名で呼んでもらえないので、頭がこんがらがってしまったようだな。

 しばらくの沈黙の後に、ケニーは己の間違いにようやく気づいた。


「あ、あれ……? あっ、じゃなくてっ、俺の名前はケニーだっつってんだろっ! お前らがケーニケーニって言うから、わけわかんなくなっちまったじゃねーかよっ!」

「まあどっちだっていいだろ」

「いいだろー?」


 エドガーにしがみついたまま、ティアはケニーに向けて首を傾げた。

 その仕草には、一瞬うなづきかかける破壊力がある。


「全然よくねーよっ! だぁぁーっ、どいつもこいつも俺をいじり倒しやがって! 特にリョースッ、おめーのせいで、俺の学校デビュー計画が台無しだろが!」


 まあ大方そんなことだと思っていた。

 新しい自分になるために、キャラを演じていたところを担任のレイテに目を付けられたのだろう。


「そりゃ最初から計画が狂ってたんじゃねーのか? そもそもイキッてても友達なんてできねーぜ」

「おぉぉー……よくわかんないけどなー、いいことゆーな~、リョーン」


 ティアとも合流して、エドガーは丸白鳥亭に入った。


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