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Ep 1/9 シャボンの香りのする祝日 - 女子力高めの14歳少年 -

前章のあらすじ


 王立学問所と、冒険者宿の丸白鳥亭での新生活が始まった。


 学問所英雄科ではまず最初に体力テストが執り行わる。

 その際にエドガーはケニーという名の、ぽっちゃり系のクラスメイトに難癖を付けられてしまった。


 だが前世人格のアルクトゥルスは自重という言葉を知らない。

 彼のやり過ぎのお節介により、ぶっちぎりのとんでもないスコアが叩き出され、ケニーはエドガーという意外性の塊に度肝を抜かれた。


 かくしてその翌日から、英雄科での訓練生活が始まった。

 優れた身体能力とは裏腹に、エドガーは実技訓練ではかんばしい成果を上げられなかったが、亡き老父の夢を少しでも叶えようと、彼なりに日々の訓練を積み重ねてゆく。


 ところがそんなある日、ソフィーとリョースと昼食を共にしていると、自称ソフィーの許婚のフランクが現れて、平民との友人関係に難癖を付けてくる。


 そのフランクの態度があまりに差別的で、ソフィーにも全く敬意を払わない傲慢さを見るに見かねて、エドガーはソフィーとの偽りの恋人関係を演じることになった。


 恋愛関係の証拠として、二人の唇が重ねられた。さらにはアルクトルゥスがフランクを煽りに煽り倒した。この女は俺のものだ、他を当たれ。

 これによりフランクは誇りを傷つけられ激高し、エドガーへとファイアーボールを放つ。


 だが肉体を乗っ取ったアルクトルゥスはたやすくそれを受け止め、跳ね返し、フランクを髪の毛までチリチリのローストに変えた。

 当然ながら、エドガーはフランクの激しい恨みを買った。


 ・


 それからまた変わらない訓練生活が過ぎ去り、入学初の週末がやってきた。

 ソフィーはエドガーの暮らす丸白鳥亭を訪ねて、その際に宿娘のティアと意気投合した。


 正式名ソフィーティアと宿娘ティアは名前がよく似ていて、それぞれの気質も合っている。

 エドガーもその輪に加わって、干し芋と一緒に明るい休日を過ごしてゆくと、ティアの願いによりはお菓子を作ることになった。


 三人は一緒に買い物をして、アーモンドクッキーとカステラを作った。

 しかしなんの手違いか、そのアーモンドクッキーは人を怪力に変える魔法の菓子となっていった。


 それはアルクトルゥスの魂を受け継ぎながら、全く魔法の才能を見せないエドガーの、エドガーらしい異質の才能だ。

 エドガーとソフィーは来週の迷宮実習を共にすることを約束して、ティアを交えた楽しい一日を終えた。


 それからまた日々が過ぎ去り、迷宮実習の日がやってきた。

 カテドラルと名付けられた学園の地下空間へと下り、初級迷宮の前にソフィーを含むパーティメンバーが集う。


 なんとそのメンバーの一人はぽっちゃり重戦士のケニー。そしてもう一人は、明るくコケティッシュな雰囲気を持ったスカウト職の少女ランだった。

 彼らは下級迷宮を下り、試行錯誤しながらも順調に攻略を進めてゆく。


 だがその迷宮には、自称許婚フランクと担任のレイテが仕組んだ罠が待ちかまえていた。

 魔法なしでは倒せない強敵、アイアンゴーレムが4体現れると、突然現れたフランクがソフィーを地上へとさらってしまったのだ。


 部屋に閉じ込められたエドガーは苦戦し、健闘はしたが、叩き付けられ意識を失うことになった。

 しかし幸運なことに、その極限状態がエドガーと前世人格のアルクトルゥスの邂逅を生んだ。


 精神世界でアルクトルゥスに発破されたエドガーは、再び立ち上がり、亡き老父の力業を模倣して、アイアンゴーレムを居合いで叩き斬る。そして見事機能停止させた。


 かくして迷宮の制限時間を迎え、彼らは無事に地上へと戻った。

 あれだけ温厚なエドガーがソフィーを悲しませたフランクに激しく怒り、その次期公爵のみぞおちに、本気の拳をねじり込んだ。


 ところがたまたまそこにツァルト先輩が通りがかった。

 彼の実家ワーグナー家は、フランクのリーベルト家と対立しており、フランクの醜態をこれ幸いと子供のようにはやし立てる。


 なんの因果か、エドガー以上にフランクが嫌いという彼の気まぐれにより、エドガーの立場はツァルトにより守られていた。


 だがそれはそれ、これはこれ。その後日、ツァルトは果敢にもエドガーへの闇討ちを謀る。

 彼は200万イェン分の先生方による数の暴力に出たが、英雄クリフの(力)技を獲得したエドガーは、全てを返り討ちにしていた。


 頑固な刀工を一週間拝み立てて作ってもらった銘剣も、エドガーの頑丈すぎる肉体の前に粉々に砕け散っていた……。

 それでもツァルトは諦めない。リベンジを誓って彼は逃げていった。


 がんばれツァルト、負けるなツァルト。いつかは勝てる。金と名家の力を信じるのだ。



 ・



―――――――――――――――――――

 三章 魂を喰らう者と百獣の王の再会

―――――――――――――――――――


Ep 1/9 シャボンの香りのする祝日 - 女子力高めの14歳少年 -


・●


 来週もソフィーとまた組める。それがエドガーは嬉しくてたまらないらしく、彼はこれまで以上に英雄科の授業にのめり込んでいった。

 ちなみに先週の時点でお試しの教練を一巡したこともあり、それ以降の実習は選択式となっていた。


 幼少より俺が少しずつ薬を盛って、最強の肉体に育て上げてやったというのに、投擲術や罠解除術などのスカウト系の科目を選んでしまうところが、いかにもエドガーらしい。

 宿屋や菓子屋に夢見るところからしてそうなのだが、エドガーは人を喜ばせたり、支えることを特に好むところがあった。


 いや、だが変化はあったようだ。

 あのアイアンゴーレム戦でほんの少しの自信を付けたのか、エドガーは剣の教練を来週のスケジュールに加えた。


 エドガーならばむしろケニーのように、剣よりウォーハンマーでも持った方がずっと向いていると思う。

 だが当の本人は、剣を極めることでクリフのジジィに近付けることに今さらになって気づいたようで、すっかりやる気になっていた。


 しかもどうやら、あの折れたままの長剣で教練に加わるつもりらしい。

 お前の肉体に付いてこれる剣など、世にそうそうあるわけがないというのに、エドガーは不器用にジジィの背中に憧れていた。


 さて前置きが長くなった。

 訓練に夢中になるエドガーを、ヒヤヒヤと後ろから見守る日々を過ごしてゆくと、今日という祝日がやってきた。


 当然、今日は学問所も休みだ。

 しかしその逆に、丸白鳥亭のようなサービス業からすれば、祝日は大切な書き入れ時でもある。


 人の良いエドガーが、朝から慌ただしく右往左往するクルスとティアを見て、手伝いを願い出ないはずがなかった。


「あらまっっ、偉いのねぇっエドガーちゃん! んふふっ、これはティアちゃんのお婿さん候補かしら?」


 朝食を済ませたエドガーはシーツの山を抱えて水路に向かった。

 そこでたった一人の男の子として、年齢様々な女性に取り囲まれながら、祝日だというのにせっせと洗濯をして過ごした。


「ち、違いますよ……。別に、そういう下心があってやっているわけではなくて、ただ……クルスさんたちの力になりたかっただけで……」

「その時点でいいやつ過ぎない……?」

「はぁっ、いいなぁ、ティアちゃん……。私もエドガーくんみたいに、やさしくてかわいくて洗濯もしてくれるお婿さんが欲しいなぁ……」


 洗濯というのは女の仕事だ。好き好んでやりたがる男はそうそういない。役割分担の文化の強い都市部ではなおのことだ。

 だというのにエドガーは華やかな女性たちに混じりながら、宿のシーツを一つ一つ丁寧に洗っている。


 とても俺にはまねできん……。

 これもエドガーに出来て、俺には出来ないことの一つだろう……。

 立派だ。だが誇らしいとは思わん。休日を女に混じって洗濯して過ごすなど、俺はお断りだ。


「うちの旦那とは大違いだよ! うちのは帰ってきてはギャーギャー嫁と子供に威張り散らすばかりさ!」

「そうそう、うちのもそんなもんだよっ! はぁぁっ……ティアちゃんは幸せ者だねぇ……」

「だ、だから、そういうのじゃないないですよーっ?! 僕はただ、洗濯が好きでやってるだけですから!」


 そこがまた俺からするとわからん……。

 洗濯が楽しいという感性がまるでわからん……。

 シャボンの香る洗濯石鹸でシーツを洗い、その香りに幸せを覚えるなど、余りに女々しい喜びだ。


 最果ての魔王と恐れられた男の来世が、なぜこうなってしまったのだ……。


「そうかい、だったらそういうことにしておいてあげるよ!」

「あ、もしかして……。エドガーくんって、男の子が好きな男の子だったりする?」

「えっ、ち、違いますよっ!? な、なんでそうなるんですかーっ!?」


 それは乙女の心を持つ男だと思われたからだろう……。

 シャボンの香りを胸一杯に吸って、清々しい祝日の青空を眺めるエドガーの姿は、はたから見ればそうも見えてしまう。


 故郷のモルジアのことを思い出し、クリフのジジィがもういないことに、エドガーは洗濯の手を止めた。

 しかしそれも一時のことで、すぐに丸白鳥亭という新しい心の拠り所が寂しさをかき消した。

 彼らの笑顔が頭に浮かぶと、エドガーは洗濯により力を入れていった。


 教会生まれの孤児という生い立ちを持つ以上、エドガーがアルクトルゥスとは正反対の、人との絆を重視する人格になることは、初めから決まっていたのかもしれない。


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