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EX-Ep 2/2 結局懲りない男 - 変質者とパンチ -

その翌日の夕方前、ティアは――


・●


 またあのおぢさんとやらが路地裏に現れたそうだ。

 ツァルトに折られた肩を抱いて、おぢさんは青い顔をしてティアに笑いかけた。


「お、おぢさんね、お、美味しいお菓子、買ったんだぁ……。うちに来て一緒に食べようよぉ、ティアちゃん……デュ、デュフフフフ……」


 懲りずにティアを食べ物で釣り、己の家に連れ込むのが狙いだ。

 成敗されたというのに、全くといって懲りていないようだった。


「んーー……でもなー、ふつーのはなー、ふつーだしなー……。ティアは、エドガーのおかし、たべたい……。でもね、エドガー、いそがしいの……」

「そんなこと言わないで、おいでよ? おいでよぉ? いっぱいあるんだよぉ?」


「んー、やっぱりー、いいっ! あのね、いまはー、おかし、がまんしてるの。がまんするとなー、エドガーのおかし、おいしくなるから!」

「でもぉ、ちょっとくらいならぁ……」


「うーうん、うれしいけどなー、やっぱりいい。こうみえてティアなー、しろぴよていの、かんばんむすめだ。ゆうがたはなー、とくになー、おきゃく――」

「うるせぇ! さっさとついて来い、このクソガキがっ!」


 ティアの目の前で、自称おぢさんとやらは悪党に豹変した。

 ティアの腕を腕力任せに掴み、力ずくで彼女を浚おうとした。


「いててっ、さ、さらわれるぅー? あ。でもー、さらうまえにー、いっしょうのおねがい、いいかー?」

「いいよぉ、ティアちゃんはもう逃げられないけどねぇ、ヒ、ヒヒヒヒ……ッ」


 その男は定番の誘拐道具、ズタ袋を用意していた。

 それをティアにかぶせようとしながら、ニタニタと彼女のお願いを待った。


「しぬまえに、おかし、ポケットのなー、なかの、おかし、たべたい……。だいじになー、ずっとなー、のこしておいたやつ、あるんだー。はぐっ……んんっ、ほわぁぁっ、んまぁぁぁいっ!!」

「ひひひひ……さああ、おぢさんの家に来ようねぇ……もう一生、パパとママには会えないかも――ンゲヒィィッッ?!!」


「ぱーんち。……あ、ぱーんち、っていうまえに、ぱーんちしてた……。ごめんね、おぢさん?」


 パティアが口にほおり込んだのは、あの力のアーモンドクッキーだった。

 小柄で腕力の欠片もなさそうなその腕が、おぢさんにコツンと軽くぶつかると、即死しかねない衝撃が肥満体型を吹っ飛ばし、硬いレンガの壁へと叩き付けた。


 話によるとピクピクと痙攣していたそうだ。

 死んではいないが、骨の何本かが折れていてもおかしくない。


「あ、つるるんだー! おーいっ、ここだよーっ!」

「おおっ、ティアくんではないかっ! ん、なんだこの薄汚いおっさんは……おお、なんて醜い顔だ……。こんな醜い顔は、生まれて初めて見る……可哀想に……」


 そこにツァルトのアホが現れた。

 まあ大方、エドガーを襲撃する下準備でもしていたのだろうな……。


「このまえ、つるるんが、せいばいー! した、おぢさんだぞー? なんでおぼえてない……?」

「なんと!?」


 つくづく人の顔を覚えようとしない男だった……。


「あのね、つるるん。ティアなー、おぢさんになー、さらわれるところだったんだ。びしょーじょ、だからかなー? すごいでしょー」

「……そうか。ならばティアくん、今日はもう帰りたまえ。私は少し、ゴミ掃除をしなければならなくなった」


「えー、せっかく、つるるんとあえたのにー?」

「下心無しで私と接してくれるのは、ティアくんくらいのものだ……。私も別れるのが寂しいよ……。だが、今日はママのところに帰りたまえ、いいかね?」


 ツァルトはティアにやさしく笑いかけて、ゴミの始末を決意した。

 名門の息子というのは、恵まれているようで人間関係が面倒なのだろうな。


「そかー……またねー、つるるん、あと、くちくさいおぢさん?」

「いや、彼とまた会うことはないと思うよ」


「そか。じゃあ、さようなら、だねー」

「ああ、さようならだ。永遠にね……」

「ひぃぃぃーっっ?!!」


 悪い人はつるるんに任せて、ティアはしろぴよ亭の軒先に戻り、大事な客引きの仕事を再開したそうだった。



 ・



 かくしてその夕方、エドガーは学問所からの近道にあたる裏通りに入った。

 ツァルトの襲撃を避けたいなら、そもそもこんな道を通らなければいいだろうに、ついつい便利で使ってしまうようだった。


「ん……? うっ、うわぁぁーっっ!?」


 裏通りに一本だけ伐り残された樫の木がある。

 その樹木の幹へと、ほぼ全裸にひんむかれた変態男が、逆さにくくり付けられていた……。


 その醜い腹には刃傷が走り、ペド野郎と記されている。

 道行く者は誰一人助けようともせず、ただ軽蔑の目だけを男に向けていた。


「た、たしゅけ……て……。もう、しましぇん……あの、そこの僕ちゃん? おぢさん、たしゅけてぇぇ……」

「ひ、ひぃぃっ、ご、ごご、ごめんなさいーっっ!」


 近付くのも怖かったので、エドガーは変態から逃げ出した。

 それがティアに手を出した誘拐未遂犯の末路で、ツァルトによる天誅だとは、このときのエドガーが知るよしもなかった。



 ・



「ティアがたすかったのはなー、エドガーの、クッキーの、おかげ! でもね、もう、ないの……だからな、エドガー、ごしんよーだいいちだぞ?」

「なんか混ざってないかな、それ……。うん、わかったよ、材料を用意しておいてくれたら、明日の夕方にでも……」


「ほんとかー!? やったー、やったー! ティアの、てのうえで、エドガーは、うごかされているのだ……」

「ティアは大げさだね……。あ、ケニーくんとソフィーの分も作っておこうかな……」


「ケーニ?」

「僕のクラスメイトだよ。僕のお菓子が好きになっちゃったんだって。ずっと食べたいって言ってるんだ……」


「おおーっ、ケーニ、わかってるなーっ! うち、つれてきていいよーっ!」

「わかった。今度ケニーくんも誘ってみるね」


 それは止めておいた方がいい……。

 俺にはケニーとティアが、つまらん菓子の取り合いを始める姿が見えるぞ……。

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