Ep 7/7 初めての迷宮と鋼と復讐者 3/9 - 元シーフギルド -
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あれっ……。
このおっきくて、ぽっちゃりを行き過ぎた後ろ姿、どこかで見覚えが――あっ!?
「なんだよ、やっと来――ゲェッ、エドガーッッ?!」
「ケニーくんっ!? ああよかった……ケニーくんなら緊張しないで済む……」
片方は重戦士のケニーくんだった。
英雄科支給の長剣ではなく、殴られたら痛いで済みそうもないウォーハンマーを杖にしていた。
「だからなんだよその態度っ!? 俺に慣れ慣れしくすんじゃねぇっ、俺とお前はっ、友達でもなんでもねーつってんだろが! ああちくしょぅっ、よりにもよって、お前かよっ!」
「ご、ごめん……。でも僕はケニーくんのこと、そんなに嫌いじゃないよ……?」
あれっきり、ケニーくんは僕たちに嫌がらせなんて一度もしていない。
妙にレイテ先生の目を気にするようだから、もしかしたらと僕たちは疑っている。真犯人はレイテ先生じゃないかって。
「なんですの、この失礼な方は……」
「ケニーくんは悪い人じゃないよ。ちょっとヘソは曲がってるけど、少し口が悪いだけだから……」
「俺をフォローすんじゃねぇーっ、お人好しかよ、てめぇっ!」
それともう一人は女の子だった。
僕たちのやり取りをクスクスッと笑って、いかにも付き合いやすそうに笑いかけてくれた。
「よかったー、他のメンバーまでこんな豚だったら、どうしようかと思っちゃった……。うちはラン、よろしくねー♪」
「おまっ……俺は豚じゃねぇっ! ちょっとぽっちゃりして見えるけど、これは全部筋肉なんだよぉーっ!」
その子は明るくてかわいくて細身で薄着で、明け透けな人だった。
胸はないけど、特注の装備なのか生地がとにかく薄くて、ボディラインがほぼ丸見えだ……。
「アハハッ、それ無理あるっしょ♪」
「ぼ、僕は信じるよ……。えっと、お腹の筋肉凄いね……」
「嫌みか、テメェッ! 俺は豚じゃねぇっ、断じて太ってなんかいねぇっ、体格が良くて骨太なんだよっ!」
ケニーくんとランさんとなら、初めての迷宮でもやっていけそうだ。
確かにケニーくんは少し怒りっぽいけど、だからといって暴力には出ない人だった。
いつもリョースくんがからかっても悔しそうに叫ぶだけだから、やっぱり悪い人じゃない。
「わたくしはソフィー、治癒魔法が得意で、他も一通り無難にこなせますの。今日はよろしくお願いします、ランさん、ケニーさん」
「うちは前衛系スカウトだよ。3年前までシーフギルドにいたから、サクッとやるのが得意かも……。なんてねっ、あはっ♪」
シーフギルドと言えば聞こえはいいけど、要するに犯罪で生計を立てるヤクザの集まりだ。
領主や国が潰しても潰しても、残党が新しい組織を結成するのでイタチごっこだと、爺ちゃん繋がりの軍人さんがぼやいていた。
「シーフギルドって、なんですの?」
「ソフィーは知らない方がいいよ……。付き合いにくくなるだけだから……」
「で、豚は?」
「豚じゃねぇっ、俺はケニーだっ! 得意武器はウォーハンマー、バリバリのファイターなんだよっ!」
ちょっとケニーくんがかわいそうになってきた。
もしかしたらいじられ気質なのかな……。
いちいち反応がいいから、リョースくんにもからかわれるんだと思う……。
あ、それより僕も自己紹介をしなきゃ。
「こちらはエドガー様ですの。えーっと……そうですね、とっても、その、んん……。そうっ、とっても硬い方ですの!」
「へー、硬いんだぁ~? ねぇ、どれくらい硬いのぉ~?」
ランさんは僕に興味を覚えてくれたみたいで、どうしてか僕の胸や下っ腹をグリグリと指で小突いてきた。
太ってはいないけど、僕はそんなにたくましい方じゃない。むしろ貧相だ。
「はい、斬りつけてきた相手の剣が折れるくらいですの♪」
「それマジでーっ!? ツンツン……ツンツンツン♪ あ、なんか触り心地いい……。あ、ここはどうかな」
「ひゃっ?! へ、へへ、変なところ触らないでよっ!?」
言葉にはとても出来ないところを前触れもなく触ってきたので、僕は顔を熱くしながらランさんから逃げた。
これって偶然? ただ手が滑っただけ……? ランさんって、もしかしてエッチな人じゃないよね……。
そんな僕たちのやり取りを見て、ケニーくんは不機嫌に唇を突きだして視線をそらしていた。
これから迷宮に挑むというのに、こんな流れになったら誰だって調子が狂う。
「ケニーくん、今日はよろしくね。ケニーくんみたいな実戦経験がある人と一緒になれて嬉しいよ」
「はぁ……。言っとくけどよ、俺はリョースみたいなお節介野郎じゃねーから、なれ合ってくんじゃねーぞ……」
「なんですの、この方……」
「わぁ……豚のくせに生意気なんだぁ~♪」
「だから豚じゃねーっ、これは筋肉だって何度も言ってんだろ!」
ソフィーは失礼な相手が嫌いで、ランさんはからかうのが好きな性格みたいだ。
またどうでもいい方向に話がループしていた……。
「筋肉はそんなにぷよんぷよんしてませんわ……」
「俺の身体なんだからっ、俺が筋肉って言ったら筋肉なんだよっっ!」
「いえ、言ってる意味がわかりませんの……」
するとそこに鐘の音色が鳴り響いた。
レイテ先生は言っていた。鐘が迷宮突入の合図だと。
「ぅ……。まだ心の準備が出来てないのに……」
続いて目の前の扉から、いや該当する全ての下級迷宮の扉から、ガチャンと施錠が解かれる重い金属音が鳴り響いた。
「時間だ! これより各員は迷宮に突入せよ、君たちの訓練と冒険がより良いものになることを祈っている!」
レイテ先生の張り上げた声に従って、僕たちは扉の向こう側に広がる別世界へと乗り込んだ。
爺ちゃんが成長を願ったたくましい男になるために、これから僕は英雄クリフと同じ世界に身を投じる。
よし、がんばろう……。
もう一人の僕の力になんて頼らずに、僕はこの下級迷宮を切り抜けてみせる……!
そしてソフィーの前でカッコイイところを見せて、僕を見直してもらうんだ!




