Ep 6/7 初めての迷宮と鋼と復讐者 1/9 - カテドラル -
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週が明けると、また実技修練の日々がエドガーを待っていた。
だがな、ソフィーとの約束がエドガーを少し変えたようだ。
少しでも立派な男になりたいという動機に、ソフィーにいいところを見せたいという少年らしい部分が加わって、ヤツはこれまで以上に教練へと打ち込んだ。
スカウト系が向いているという指摘は妥当なのかもしれん。
剣の方が負ける頑丈さと、使いこなせば大剣すら投擲できるその筋力は、エドガーという人格にはまるで一致していない資質なのだ。
それでもエドガーは一生懸命だった。時に体格に合わない剣を振り、また時に練習用の宝箱の罠に引っかかり、あるいは平然とした顔で基礎体力の教練をトップでぶっちぎった。
こうして全ての実習を乗り越えると、ついに金曜日だ。魔法科との合同の、迷宮での実習訓練の日がやって来た。
「移動する前に行っておくぞ、お前たち。金曜に迷宮実習を行うのは、お前たちが多少の傷を負っても、土日という療養期間を取れるからだ。ああ、別に心配して言っているわけではないぞ、お前たちの代わりはいくらでもいる。それよりもいいか? うちのクラスでは、魔法科のお坊ちゃまたちに怪我をさせたらペナルティだ! よく覚えておけよ!?」
移動前の教室にて、担任のレイテがせっかくのイベントが盛り下がるような言って、生徒たちの顰蹙を買ったりもした。
己は自己保身で精一杯の小者だと、恥をさらしているようなものだ。
リョースもさすがにもう付き合いかねるのか、うんざりとした目をレイテに向けるばかりだった。
とにかく早く出発してほしい。この日は午前の授業が全て座学で、うちのクラスの連中は誰もが退屈していた。
「はぁ……あの野郎、ケツの穴が小さくて参っちまうよな」
「げ、下品だよリョースくん……」
「なぁ、お前もそう思うだろ、ケーニ?」
「俺に気安く話しかけるなつってんだろっ! つーか、ケーニじゃなくてケニーだっての!」
「細けーなぁ」
「細かくねーよっ、かーちゃんが付けてくれた俺の名前だってのっ!」
移動中はうちのクズ担任に何度も睨まれた。
それにリョースはマイペースなやつだからな。ふとっちょのケニーのやつを、自分の友達側に引っ張り込もうとしていた。
「ケニーくん、レイテ先生が睨んでるよ……」
「うっ……。覚えとけよ、リョース! 俺はお前らの仲間じゃねーっ!」
さて移動中暇なので、少し解説する。冒険科はクラスの人数が少ないそうで、1クラス20名だ。
A~Eの5クラスがあり、今回はその一同が目的地に集まる。もちろん魔法科の連中もだ。
「静かにしろ、リョース! 担任の私まで品がないと思われるだろうが!」
「そっすね、すまんせん。……今さらだよな、そりゃ」
「だから俺に振るなつってんだろがっ!!」
道を進んでゆくと、通路が螺旋を描いて地下へと下っていった。
迷宮はこの学校の地下にあるそうだ。通称は聖堂だ。いざ踏み入ってみると、賢者アルクトゥルスとして少し感動した。
地下にこんな広い空間を築いて、そこで迷宮を管理しようというのだ。研究者として興味がそそられた。
「はーい、みんな~、注目! 魔法科のみんなは初めまして。私は英雄科で投擲術とかスカウト系の授業を受け持っている、ラムダ先生よ~♪ ラムちゃんって呼んでね~♪」
誰もが反応に困り、カテドラルが凍り付くのを感じた。
エドガーは彼女に気を許しているようだが、これはだいぶ頭が緩い方だと俺は思うぞ……。
「やだー、今の笑うところよ~?」
「笑えません。必要のないことを言うなら、解説を交代しますが?」
「やだやだ、レイテちゃんがやったらみんなもっとドン引きよー! あ、えっと、それでねー、この場所について、説明しちゃいまーすっ♪ お耳の準備はいいかなー?」
クズ教師のレイテが困り果てる顔を見れたので、まあソコソコ楽しめた。
この手合いには何を言ってもムダだ。マイペースゆえに、マイペース流にしか受け止めない。
「お返事がもらえなくて先生寂しい……。でね、迷宮はね、人が長く出入りしていない空間に現れるの。そして現れた迷宮は、誰かがその再深部までたどり着けば、姿を消すの。この作用を逆手に取って作り出されたのが、この場所なのよ~」
俺も学長より自慢された。自分たちは人為的に迷宮を生み出して、それを管理していると。
「例えるならそうね、タコツボよ。ラディッシュと一緒に酢で漬け込んだやつが、凄く美味しいのよね……」
「ラムダ先生、タコの話はいいので迷宮の話をして下さい……」
あまりに美味そうに言うので、今夜のおかずにしようと決めたやつもいるかもしれん。
地方によっては悪魔の魚と忌み嫌われるが、美味いもんは美味い。
「ごめんね☆」
「うは、見ろよエドガー、あのせんせーレイテのクズを手玉に取ってんぞ」
「う、うん……でも良い人だよ。やさしいし……」
「ほらあそこを見て。この地下空間にはー、1000を越える空っぽの部屋が存在しているの。迷宮というタコさんがー、あの扉の中に住み着くようにねー。人為的に、環境を整えて、扉ごとにクラス分けしたのが、この場所でーすっ♪ ここは迷宮の養殖場よ!」
エドガーの故郷のモルジアでも、長年使っていなかった古い納屋が迷宮に変わってしまって、地元の冒険者たちに重宝されることもあった。
目的地が近いというのは、何に付けても良いことだからな。
「今日はみんなに、一番簡単な迷宮に挑戦してもらいまーす♪ みんなーっ、できるかなーっ? はーいっ、って言ってね、みんなーっ、できるかなーっっ!?」
当然の話だが、誰一人として復唱する者はいなかった。
「先生悲しい……」
「ラムダ先生、ここは託児所ではありません。困惑する生徒の気持ちにもなって下さい。ではここからは私が変わる。君たちは今から事前に伝えられた番号の扉を探して下さい。時間になったらそこの鐘を鳴らします。扉をくぐって、迷宮に挑んで下さい。以上です、移動して下さい」
話を進めてくれるのは助かる。だがレイテのクズがこちらを見て、一瞬ではあるが不穏な表情を浮かべた。
それは残忍な笑みだ。何かを企んでいるように見えた。
ま、何をしてきたところで、力ずくで跳ね返すだけだがな。




