ナヤマンとナシコレン、偶然の出会い
美容室やどこかに行くと、偶然知り合いに出会う事もある。誰でもそんな経験が、あるのではないか。
「あれっ?ヌーンポット婦人じゃないですか!」
「あら?ナシコレンくんじゃない!久し振りね!」
ナシコレン様は、アントレン様の弟で、ハカサナイの当主だ。アントレン様が排爵し、正式に当主となり領を任されている。まぁ元々アントレン様は騎士で忙しかったし、殆ど変わらないらしいが。アントレン様が以前連れてきて、それからたまに来てくれる様になった。それにしてもヌーンポット?聞いた事あるような…でもナヤマンさんじゃないか。
「お二人は、お知り合いですか?」
「キクチさん…もしかして、知らないんですか?この方を…」
「ナヤマンさんじゃ、ないんですか?」
「ふふっ、それで良いのよ」
「全く…ヌーンポット婦人らしい…こちらはナヤマン・ヴァン・ヌーンポット様です。前国王の妹君で、現国王の伯母様、そしてタハラシ様のお母様ですよ」
「えーっ!」
タハラシ様が、ジーク様の従兄弟なのは知ってるけど、ナヤマンさんがそんな方だったなんて…。そしてその話が聞こえてた店内は、急にピリつく…。そりゃそうだ、いきなり王族の登場だからね…。
「それは…ナヤマン様、今まで失礼をしていた様ですいません…特にナナセさんなんかは…」
「良いのよ!今まで通りナヤマンさんでお願い!ナシコレンくんもそうして!皆さんも気にしないで!」
「それはありがとうございます…でもビックリしました…」
「僕もですか?ていうか、何故黙ってたんですか?」
「その方が楽で良いのよ。誰とも気さくにしゃべりたいわ。特に王女の頃なんて最悪だったんだから、友達も出来にくいし」
元王女って凄いな…。確かに良く見るとタハラシ様に似てるし、髪の色も近いな。でも凄く若く見えるし、タハラシ様みたいな、息子がいるとは思えない。それに…。
「でもここに来られ初めてから、二年近く経つから…タハラシ様より先に来られてますよね…全く気付かなかった…」
「そうね。私は噂を聞いてすぐ来たしね。タハちゃんにも黙ってたから」
「ブフォッ!タハちゃんて…ククッ、笑わせないで下さい…」
「ヌーン…いやナヤマンさん、ププッ、タハちゃんて…」
店内が笑いの渦に包まれた。他のお客様も笑っている。ナナセさんは大爆笑。オーパイさんや学生ですら。タハラシ様はイケメンだし、騎士の憧れでもある。実際カッコつけだしね。それが急にタハちゃんなんて言われたら…笑っちゃうよ…。
「そんなにタハちゃんが面白いの?」
「すっすいません…あのタハラシ様からは想像出来なくて…」
「いつも僕の兄と張り合ってますけど、それでも強くカッコ良い騎士の見本ですからね」
「そうなの?あんなに可愛いのに…小さい頃なんてね…」
そこから、タハラシ様の小さい頃の話を聞かされた…。
※※※
「アーッハッハ…もうダメ…死ぬ…ププッ」
「ヒィーッヒィーッ…お腹痛い…ナヤマンさん…勘弁して…ヒィーッ」
「そんなに面白いの?最近だって…」
店内は爆笑の渦に包まれた。そして最近の話も聞かされる…。
※※※
「ヒューッヒューッ…もう息が…本当に…死ぬ…」
「フーッフーッ、精神統一すれば…だめだっ…ブフォッアーッハッハ!」
店内が大爆笑の渦に包まれた。もう仕事にならない…。ナヤマンさんは何気なく喋るが、話の天才じゃないか?タハラシ様のエピソードも最強過ぎる!
「ナヤマンさん!」
「あら?ナナセちゃんなぁに?」
「カットが終わったら、私に時間を下さい!」
「良いけど何かしら?」
「後のお楽しみです!」
そしてカットが終わったら、ナナセさんはナヤマンさんを連れて、お店を出ていった。
「あー面白かった。こんな所で会うのも珍しかったけど、こんな展開は更に稀だね」
「本当ですよ。ナシコレン様が気付かなかったら、さっきの話は一つも聞けませんでしたから…ふふっ」
「本当にね!偶然て怖いね…ククッ」
その後、何故かナシコレン様は店内の皆に感謝され、握手を求められた。ナシコレン様はそれに堪え、気持ち良く帰られた。そしてナナセさんとナヤマンさんは…。
※※※
「嘘でしょ?」
「いえ本当です!」
「漫画にするの?」
「はい!プルトンさんも大爆笑のノリノリでしたよ!ナヤマンさんもノリノリで、二人で盛り上がって、すぐ決まりました!」
ナヤマンさんとプルトンさんの共著で『がんばれ!タハちゃん!』の制作が決まった。タハラシ様の面白エピソードが満載の、この世界初のギャグ漫画だ。プルトンさんの描く上手な漫画に、たまに出てくるナヤマンさんの下手な絵が魅力の作品だ。後に銀の翼と同じくらい大ヒットする事になる。その話はまた後日…。
※※※
ある日の営業終了後。今日はジーク様、タハラシ様、ヤッカム様が二階で仕事をしている。
「次はどの国だ?」
「来週、デリタム王国にナナセさんと行って来ます…ププッ」
「そうかナナセも行くのか」
「はい!私も軍の名前を付けなきゃ…ふふっ、いけませんから…ふふふっ…」
「なんだ…?どうした…」
「いっいえ、ブフォッ」
「わっ私も別に…ププッ」
「タハラシも変だと思わんか?」
「タハラシ…タハちゃん…ダメだっ…アハッアハハハッ!」
「もう無理っ、イーヒッヒッヒィーッ!」
もう無理だ。タハラシ様を見ると、笑ってしまう!許してくれ!
「タハちゃん?…そういえば昔、タハラシが伯母上にそう呼ばれてたような…」
「ヒィーッヒィーッ、ジーク様…それ、今も…呼ばれ…エーッヘッヘ!」
「ナナセさん…それ、フヒッ…言っちゃダメ…フハーッハッハ!」
「まさかタハラシ、今もそう呼ばれてるのか?」
「まっまさか、母上が…来たのか…ここに…」
「ずーっと前から…プクク…来てますよ…それに…ママですよね…ヒャーッハハハッ!」
「ナナセさん…だから言っちゃ…グフッ…ダメ…ブハハハッ!」
もうダメだ。タハラシ様には後で怒られよう。目一杯謝ろう!
「お前!まさか…」
「ジーク様!先に帰らせて頂きます!」
その後もナナセさんが、ナヤマンさんが来られた時のエピソードを話し、ジーク様とヤッカム様も含めて、また大爆笑。タハラシ様はナヤマンさんの元へ、急いで確認しに行った…。そこで全部聞き、絶望したそうだ…。但し、ナヤマンさんは、漫画化の事だけは秘密にしたそうだ。出来上がったら見せて驚かしてあげるんだってさ…。つまりタハラシ様の真の絶望は、まだ先って事だね…。可哀想だけど、漫画は楽しみだよね…。プククッ…。




