マイと元旦那、今と過去
今日はお店の定休日。ある人を迎える為、僕とマイさんとナナセさんはパラレルで待っていた。マイさんが声を掛けた、元旦那をね。
「ヤッホー、久しぶり~!」
彼は軽快に、裏口からやって来た。
「カズヤさん、お久しぶりです」
「おう!よろしくな!」
カズヤさん…。彼はマイさんの元旦那だ。ちょっと軽い性格ではあるけど、腕はピカイチで、お客様も多かったし、コンテスト等でも賞を取ったりしている。
「おいおい、そんなに睨まないでよマイ…ナナセちゃんも…敵では無いんだからさ…マイも、お前が声掛けてきたんだろ?頼むぜ…」
「私はまだ、信用してませんから!」
「あまりの軽さに呆れてただけよ…わかってたけどね…」
「よーし!取り合えず、さっそく近所の散歩と美容学校を見てくるぜ!異世界楽しみだな!じゃあマイ、案内頼む!」
楽観的だなぁ、相変わらず…。それが強みの一つでもあるんだろうけど。そして二人は出ていった…。
「お姉ちゃん大丈夫かなぁ…」
「でも、仲悪くなさそうだよね。離婚の原因は?」
「お姑さんと揉めたぐらいしか…仲は良さそうだったんだけど…余り詳しく聞けないっていうか…教えてくれないっていうか…」
「…そう…でも離婚して二年くらい経つだろうし、大丈夫じゃない?」
「そうだと良いですね…」
離婚にも色々あるからね…。変な勘繰りは止めておこう。
※※※
そして夕方…。まだ二人は帰ってこない…。そこへ…。
「きっキクチ!誰だあの男は!まっまさか…」
アントレン様が、店に飛び込んできた。そして後ろには、いつもの首脳陣メンバーが…。
「もしかして…マイさんと一緒にいる男性ですか?れなら元旦那さんの、カズヤさんですよ…」
「やっぱり…」
何故そんなに落ち込む…。離婚してるんだから、気にしなくても…。
「実はな…影からの報告で、街を探索していた様なんだが…腕を組んだりして、仲睦まじい雰囲気だと…」
「「えっ?」」
「ジークの言う通りよ。住民もそれでビックリしてたみたい…色んな所で元旦那を紹介してたみたいよ」
「まさかこのまま…今日は…」
「ヤッカム様!変な事を言わないで下さい!」
確かに昔は仲の良いカップルだったと思うけど…。いきなりそんな…ねぇ…。
「ただいまー!って皆さん勢揃いで…どうしたの?」
そこでマイさんとカズヤさんは、帰ってきた。
「丁度良かった。こちらが…これから一緒に美容学校で働くカズヤです。…元旦那でもありますけど…カズヤこの方々が、この国のトップ達よ…失礼無いようにね」
「何だよその言い方…改めて初めまして。カズヤです。これから精一杯働きますので、よろしくお願いします!」
※※※
その後は皆で簡単に自己紹介をした。ついでに美容学校の内容も、色々と話し決める事が出来た。
「じゃあ悪いけど、準備もあるから先に帰らせて貰うね!」
「カズヤさん、遅くまですいません」
「良いのよ、こき使えば」
そんなやり取りの後、カズヤさんは一足先に、帰っていった。アントレン様は終止無言だったけど…。
「良い人じゃない…仕事のアイデアも良いし、話しやすいし…何で別れたのよ」
「ディーテ様、私達にも色々とあるんですよ…」
ディーテ様が、いきなりぶっ込んできたけど、マイさんは軽く受け流す。どことなく寂しい表情だ…。
「それにしても、そんなに評判が高いか…」
「はい。カズヤはコミュニケーション能力が、高いですからね…街の人もすぐ受け入れてくれました。学生達にも、もう大人気で…ずっと練習を見させられました」
「昔からそうだっなぁ、カズヤさんは。コンテストや講習に行くと、いつも周りに人が集まってた。まぁマイさんもそうでしたけど」
「キクチもよ。皆それぞれタイプは違うけどね。キクチは人柄、私はやけに女性にモテたし、カズヤはセンスがずば抜けているから」
確かにそんな感じかもな…。カズヤさんの考えるデザインは凄かったしな…。
「まぁ二人はわかるが、カズヤはそんなに凄かったのか?」
「正直、僕達より頭二つは上ですね。もしかしたら技術力は、そこまで差は無いかもしれませんが…あの発想力やデザイン、スタイルのバランス感覚は天才と言っても過言じゃないと思います」
「私も同感ね。私達、コンテストであいつに勝った事無いもんね。同じヘアスタイルを作れって、言われれば勝てるかも知れないけど…ゼロからの勝負は全く自信無し」
「僕達が理詰めで考えて、一生懸命作っていくのに対して、カズヤさんは感覚だけで作っちゃうんです。さらに努力も怠らないし…因みにナナセさんもそのタイプですね」
「お前達がそこまで褒めるか…」
皆が驚き、これからを期待する。ナナセさんも驚いている様だ。元義兄さんが、そんなに凄いと思って無かったんだろうな…。
「でも、そんな人が良く向こうの美容室辞めさせて貰えたな。大丈夫なのか?」
確かにそれは僕も気になってた。そんな簡単に、辞めさせて貰えるとは思えない。
「…実はね…今は美容師してなかったの…」
「「えっ」」
僕とナナセさんは信じられない…。あの美容師が大好きなカズヤさんが、既に辞めていたなんて…。
「私と離婚した後、辞めたのよ…」
「なっなんで…お姉ちゃん…」
「…ふぅ…まぁいつかバレる事だしね…言うわ…」
そしてマイさんは語りだす…。
「まず私が結婚して美容師を辞めたのは、子供が欲しかったからなの…」
「知ってるよ…」
「簡単に言うけど、私達には子供が中々出来なかった…」
その告白に皆が黙る…。
「全然子供が出来ないから、病院へ行ったの。その時は…不妊治療って大変かな?ぐらいの感覚だったわ…でも調べたら…おまけが付いちゃってね…」
「何なの…お姉ちゃん…」
「…卵巣ガンが見付かったの…」
「「えっ」」
衝撃が走る…。
「こちらの世界の人は知らないかな…?まぁ要するに、病気ね…そのまま放置すれば、死ぬわ。…でも私は比較的初期の発見ですんだから…まだ良かったわ…でも生きる為には手術が必要で…子供が産めない体に…」
「おっお姉ちゃん!何で黙ってたの…!」
「…ゴメンね…でもその時の私は、手術でもう一生…子供が産めない体になる事が信じられなくて…親にもナナセにも心配させたくなかったし、怖くて言えなくて…カズヤにも黙ってて貰ってた…」
「バカッ!」
「本当にゴメンね。向こうのお義母さんも、本当に良い人で気にしないでって言ってくれたし、カズヤも気にするなって言ってくれた…」
「なら…何で…」
「私自身が自分を許せなかったのよ…気を使われる自分、優しくされる自分、何も出来ない自分…あの家にいる事が耐えられなくなったの…かなりギクシャクもしてきたしね…それで離婚をお願いしたの…それで離婚をした後、何を感じたかわからないけど…カズヤは美容師を辞めたわ…」
そんな事が…。皆、驚いている…。ディーテ様やナナセさんは涙を流し、男性陣はどうして良いかわからない…。そんな感じだ…。カズヤさんも何で…。
「私も色々考えたのよ…向こうにも跡継ぎ作って欲しいしね…養子なんて話もあったけど、でもその時はそんな事は考えられなかった…再発もするかもしれない…そんな女をあんな良い家族の枷にしたくない…結局、離婚が私にとっては一番の選択だと思ったわ…」
「お姉ちゃん…」
「でも安心して!定期検診にも行ってるし、再発も今は大丈夫。それにもう落ち込んでいないわ。過去の話よ。今でもカズヤは好きだけど、恋愛感情じゃなくて友情ね!今日なんて調子に乗って、腕組んだりしたし」
そこで皆も少しホッとする。病気は誰にでもあり得る話だし、乗り越えられるなら、それが一番だ。でも重い雰囲気だ。仕方無い。
「だからアントレン様もこんな女に求婚しないで、素敵な方を探して下さいね!大貴族で、私みたいな嫁が来るのを誰が望みます?ちゃんと子供の産める貴族を皆求めるでしょう。あなたが好きな女は、そこまでの価値はありません」
「バカヤロウ!」
ずっと黙ったいたアントレン様が激昂する。でも今の自分を軽んじた発言は、いけない。皆もそう思っただろう。
「ジーク!ちょっと付き合え!」
「何だ?」
ここから何が始まる…?




