美容コンテストの準備、新たな来訪者
僕達は最近、やっと少し落ち着いた日常を過ごしていた。でも、すぐに騒がしくなってくる。美容コンテストを行うからだ。薬剤の問題も完璧では無いが、解決されてきたしね。だから参加するオーパイさんと美容学生は、日々準備と練習に明け暮れている。話を聞いた服飾ギルドと雑貨屋マリサリも、無償で協力してくれている。モデルも多くの方が協力してくれるそうで、立候補もいるそうだ。特にユニクさんやギルドの面々は、今までと違う衣装のデザインに、興奮し張り切っている。本当に祭事が好きな世界だ。
「凄いね、学生は。色んなヘアスタイルのデザインを聞かされて、私達も刺激を受けたよ」
「ユニクさん達も、苦労してるんですね」
「そのイメージに負けず劣らずの、衣装を提供したいからね」
「それにしても…色んなヘアスタイルがあるもんだ」
ヘアスタイルは、組み合わせだ。ボブやレイヤーを、角度や長さで変えたり、部分カットで繋がりを変えたり、すきを入れて重さ軽さを変えたり、カラーやパーマで印象を変える。さらに人によって、髪質によって、骨格によって変える。それを徹底的に作り込む。そして全ての技術は、基本ベーシックだ。だから大事なのは、基本技術を繰返し練習する事、色々なものに触れセンスを磨く事、それをイメージしてデザインに興す事、そして最後に形にする事。どんなスタイルもこれだけだ。だから奥が深く、終わらない。
「そうね…服もそうだもんね。以外と上手くいかないときって、基本的な事を外してたりするもんね…」
「そうなんですよ。学生にもベーシックはほとんど教え終わってますしね。後は組み合わせ、そして修練あるのみってね」
美容師は終わりがない。どんな仕事もそうだろうが、常にファッションは流行があるし、流動的だ。一生新しい物を作り続けるから、勉強も一生だ。常に刺激を求めるし、与えなければいけない。皆にもこの世界で、頑張ってもらわなきゃね。
※※※
「師匠はこのバランスどう思いますか?」
「キクチ殿、このカラー変じゃないですか?」
「キクチさん、メイクのアドバイスを…」
「キクチさん…」
「キクチ先生…」
勘弁して欲しい…。連日これだ。マイさんも大変らしい。毎日誰かしらカットウィッグを持って、アドバイスを求めてくる。気が付いたら、服飾ギルドの方々や薬剤の研究者達まで…。僕だって忙しいのに…。
「私も大変よ…ハマナンさんが張り切って、会場設営し始めたし…ディーテ様も招待客選んでて…」
「えっ?ちょっと待ってマイさん…学校内でやるのでは?」
「…もう勝手に動き始めてるのよ…止められない…キクチくんもわかってるでしょ、この世界の人達を…」
「…下手なもの…見せられなさそうだね…」
「ええ…私達も…デモンストレーションでもしなきゃかな…?」
はぁ…。この世界はそう。気が付いたらいつも舞台に立っているんだよ…。
※※※
そんなまた忙しくなった日常の、ある日の営業終了後。ドアの開く音と鈴の音がする。またいつものように学生かと思っていたが、その日は違った…。
「すいません…キクチさんですか?」
「はい…そうですけど…」
いきなりやって来たのは、身なりが整っている二人の男女。見覚えはない…。
「私はダウタウーン公国の第二公女、ポンデリーン・ダウタウーンと申します。隣は護衛のクロワツ・ナイナインです」
「クロワツ・ナイナインです」
「どうも…キクチです…」
ダウタウーン公国…聞いた事はある。確かゲイジューツ皇国から、海を渡った島国のはず…。それが何故ここに…。しかも公女…。他のスタッフも不思議そうにしている…。
「それで…ご用件は?」
「単刀直入に聞きます…。キクチさんは日本人ですか?それとも元日本人ですか?」
「…えっ!」
どこでそれを…。それをこの世界で知っているのは、オーパイさんとオースリー王国の首脳陣位だ…。確かに各国にバレても、おかしくはないくらい活躍してしまってはいるけど…。
「答えなくても、皆さんの反応でわかりました…」
「はい…どこでそれを…」
「…先日、ゲーイジューツ皇国に訪問し…その際、新しい文化を目の辺りにしました」
「はい…」
「最初は新しい物に浮かれて、服を着替えたり、シャンプーやお化粧をして楽しんでたんです」
この世界の人には新鮮だもんね。でもそれがなんで…。
「その時、ふと違和感を感じたんです…心が、頭が…何故か…」
「それは何故…?」
「気にしない様にしてたんですけど…その後手に取った『銀の翼』という漫画を見た時に…甦ったのです…」
「甦った…?」
「はい…記憶が…甦りました。地球で生きてた頃の…」
記憶?地球の?ということは…
「転生者だ!転生です!」
「ナナセさん!?急に叫ばないでよ…で転生者?」
「きっとそうですよ!」
ナナセさんが興奮している。でもそうなのかもしれない…。
「転生…?というのですかこれは…とにかく私はそれで記憶を取り戻しました。すぐに調べたら、全てここから発信されている事がわかり、勢いそのままここに来てしまいました。迷惑も考えず、すいません」
「構いませんけど…それで何かわかりましたか?」
「同じ文化を知る人、私と同じ境遇の人がいると思ったら…懐かしくなって…話を聞きたくなって…でも」
「でも…?」
「キクチさん達を見ると…日本人そのままで…今まで見た事が無かったので、私とは違うと思いました。お店の外観から店内も、まるで異質ですし…」
確かに状況は違う…。僕達も同じ様な容姿をしている人は、見た事が無い。この世界の人は皆、髪色が多彩な欧米人という感じだ。ポンデリーン様もキレイなピンク色の髪をしている。
「キクチくん…言っても良いんじゃない?ヤバかったら店の加護で弾かれてるだろうし」
「そうだね…そうしようか…」
※※※
そうして僕達は、二人に今までの経緯を話す事にした。二人共信じられない、といった表情をしている。
「そっそんな事が…」
「信じられません。お嬢様の話も正直、半信半疑でしたから…でも」
「わかりました。二階に行きましょう」
二人を二階に上げ、文明を見せて上げた。さらに驚きが高まる。
「てっテレビが、こんなに薄く!あっこの漫画こんなに続いてるっ!これはケータイ?」
「お嬢様は本当に…嘘は付いていないのか…」
「クロワツ!だからそう言ってるでしょ!」
「すっすいません!」
その後は二人共大興奮だ。ポンデリーン様も、色々と地球文化を懐かしんだり、驚いたりしていた。
※※※
「まさかこの漫画が、あんな展開になっているとは…」
「これがテレビ…凄い物ですね…」
「理解して貰って良かったです。それと何回も言いますけど、周りに言いふらさないで下さいね。トラブルは困りますから」
「「はい」」
これで大人しく帰ってくれるのか、それとも…。でも転生者というポンデリーン様の話も、聞いてみたい…。
「…キクチさん!お願いがあります!」
これからポンデリーン様のお願いを聞かされる事になる。その後、詳しく話を聞いた僕達は、その願いを叶える事にする…。コンテストの準備で忙しいけど、そんな話を聞かされたら断れないよ…。むしろ手伝いたくなったしね。




