パラレルからの刺激、パラレルへの刺激
ヌーヌーラ共和国との会談後、すぐ国交も再開し交易も始まった。王都には、美容商品や真道具そして漫画を仕入れに多くの商人がやって来るそうだ。銀翼の騎士団の訓練場なんかは、観光スポットにもなっているらしい。アントレン様は有頂天らしく、タハラシ様は文句を言っていた。そしてお店にも…
「アントレンより、カッコ良く頼むぜ!ガハハッ!」
「わかりましたよ、タオシマ様」
ヌーヌーラ共和国の人も、髪をカットしに来る様になった。マダマダ様も仕入れのついでに来られたし、サッパーリ様に至ってはカットの後、サロンの街の教会で過ごす様になった。オースリー王国の教会に交渉し、研修として来ているそうだ。その話し合いの場で聖女のチノピン様と意気投合し、チノピン様もサロンの街で過ごす様になったそう。神官長のライソ様は頭を抱えたらしいが…。
「さっきサッパーリにも会ってきたが、大分若くなっててびっくりしたぜ」
「そうかもしれませんね。それがオシャレの力ですから」
「俺も大会で目立つ為にも、容姿を磨かないとな!銀翼の騎士団に奪われた人気を、取り戻す!」
タオシマ様も張り切っている。確かにサッパーリ様は40過ぎに見えてたけど、今では20代後半てところだしね。それからタオシマ様はモヒカンにし、かなり気に入ってくれた。日本では流行っていないけど、この世界なら最新ヘアーだしね。この後は、王都で服や鎧を買い、さらに銀翼の騎士団と一緒に訓練するらしい。それがヌーヌーラ共和国の為になるからと。でもオースリー王国も平気で他国に協力するけど、流石だよね。この世界の人間の気質なのだろうけど。平和が一番だから上手くいってほしい。
※※※
「キクチ少し相談なんだか…」
「何ですか?ヤッカム様」
今日はジーク様、タハラシ様、ヤッカム様がパラレルの二階で仕事をしていた。僕が仕事を終えて二階に上がると、いつもならDVDを見たりしているのに、今日は僕を待っていた様だ…。
「実はな…各地にキクチの真似事をする者が増えているのだ」
「へぇ~」
「何だ、あまり驚かないな」
「まぁ…ジーク様、当然と言えば当然ですからね」
それはそうだろう。それが商売として成功しているのだから、当たり前だろう。
「ここに美容学校もあるからな…どうしたものかと」
「良いですよ。独自にこの文化が作られているのですから。それに美容学校の生徒は、正式な認可証なりバッチなりを用意して、実際にお店を出したとしたら、政府公認マークや僕達から認められた証を看板に掲げましょう」
「そうだな…それは良い案だ!」
「ヤッカム様、何だかんだ言っても、僕達も人が足りませんからね。各地でカットの文化が広がるのは助かります。今は遥かに僕達の方が上でしょうけど、そのうち僕達より上手くて、オリジナルの美容師が出て来るかもしれません」
「それは流石に無いだろう…」
「可能性は十分ありますよ。僕達も切磋琢磨して行きたいですからね。ライバルがいないのも寂しいですよ」
「確かにな、私もアントレンや銀翼の騎士団に負けぬよう、修練を積むしな」
そうなんだよ。こっちではコンテストも無いしね。僕達も美容に関しては、参考にする事がまず無い。日本ではあるけど、この世界でも…。
「うむ。わかった。余りにも酷い商売をしてたら、指導するようにして、基本は見守る方向でいこう」
「ありがとうございます」
「それと他国からも、美容学校を見学させてくれと嘆願書が来ている。これはディーテが了承していた」
寛大な処置だ。これで世界に良い刺激を与えるだろう。でもこの世界で僕達は地球人としては刺激受けるけど、美容師としては刺激を受けないからなぁ。考えてみるか…。
※※※
「…という話なんだけどさ」
「確かにねぇ。基本は与えるだけだもんね」
翌日、営業前にマイさんと相談してみた。
「だからさ美容学生でコンテストしてみない?」
「良いわね。少し考えてはいたんだけどね」
「ウィッグでも良いし、モデルでも良いしさ」
「あの子達もカラーやパーマの技術は上がってるけど、この世界で薬剤使うとあの反応スピードでしょ…一人ではまだ無理だね…私達でも大変だから…」
確かに気が早かったか。もう少し先のイベントとして、考えてみるか。
「カットは…?少しは上達した?」
「かなりね…飲み込みが早いのは流石。この世界の特徴が活かされてるわ。水を得た魚ね。ワンレングスのボブなんかカットして貰っても良いかなと思ったよ…ブローも上手になってる」
「オーパイさんも同じだよ。待ってましたと言わんばかりの意気込みでね…まだカラーもパーマもまだまだなのに、先にカットが上手になってるよ。いつも僕を見ていたんだろうね、どう切ればどうなるかをかなり理解しているよ」
「同感だよ…うちの学生も理解していて、質問も的確だもん。切るだけならコンテストしてもねぇ…パーマとカラーがあった方が…でも難しすぎる…」
そんな会話をしていたら、話しかけられる。学生達だ。今日は実習日だったか…。
「「「やらして下さい!」」」
「聞いていたの?」
「声を掛けたのに、気付いて貰えなかったので…」
そんなに話し込んでたか…それだけ僕もマイさんも、美容師としての新しい刺激に飢えているのかもな。
※※※
それからも学生の意見も聞きつつ、話を進めた。
「じゃあ、カラーやパーマを皆で協力してやればどうですか?」
「別に構わないけど、手の内晒すの嫌じゃない?」
「まだそんなレベルでもないですよ」
「まぁそうかもね」
「じゃあ少し先になるだろうけど、コンテスト開催の予定でいこうか」
「「「やったー!」」」
「ヘアスタイル、衣装、メイク…それと皆の前で、時間決めてカットして貰うから」
「えっ?展示するとかじゃないんですか?」
「何言ってんの。それじゃ緊張感足りないでしょ。ねぇ、キクチくん」
「そうですね」
少し顔が青くなった様だけど、まあ大丈夫でしょう。そしてオーパイさんも参加する事になった。日程はまだ先だけど楽しみだ。この日の夜、学生寮では狂喜乱舞になり大変だったらしい。この国ではイベントが必ず盛り上がるしね。




