キクチとナナセ、美容学校視察
最近パラレルでは色々とあった。とうとうカラーをメニューとして採用したのだ。但し、ウィービングのみ。全体カラーをするには、まだ実力とスタッフが足りないしね。パーマもまだまだ考えられない。そしてそこをふまえて、美容学生にシャンプーをお願いする事にした。マイさんが薦めてくれたという事もある。それだけ人手が足りないのだ…。
「じゃあ、今日はお願いします」
「「「「「お願いします!」」」」」
という事で、定休日に学校へ行き、シャンプーチェックをする事になった。シャンプーを十五回も受けるのは流石にキツいので、半分はナナセさんにお願いした。因みに、学生にはこれから営業中シャンプーをして貰う事は伝えずに、ただシャンプーの授業を見に来ただけと伝えてある。
「じゃあキクチくん、ナナセよろしくね」
「はい。見させてもらいます」
「お姉ちゃん、任せて!」
それから順番にシャンプーを受ける。流石マイさんが教えただけはある。実習日にはパラレルでも練習したし、僕達も練習や質問に付き合った。熱意がしっかりと形になっている。本来日本だったら、学生にシャンプーを頼むなんて、まずあり得ない。だが、こちらの世界では取り組む姿勢と課程が、全く違うのでこれはありだ…。
※※※
「じゃあ、一人づつ感想や注意点を言ってくね」
「「「「「はい!」」」」」
そして僕とナナセさんは、丁寧に伝えた。場合によっては実践し、見せてあげた。誉めるところは誉めて、改善点はちゃんと教える。でもそんなに問題は無い。
「全員ちゃんと聞けたかな?何かあれば、また聞いて下さい。…で、これからなんだけど…週二日の実習日にはパラレルでも、お客様にシャンプーして貰います!」
「おめでとうございます!」
「「「「「……」」」」」
「あれっ?喜んでくれて良いのに、ねぇ店長?」
「うっうん…」
反応が鈍い…止まっている。嬉しいんだよね…。そうだよね…?そして一呼吸置いて…。
「「「「「やったー!」」」」」
良かった…。喜んでくれてる。それほど嬉しいのか…。あのミナラーさんも凄い笑顔で喜んでいる。皆、涙まで…。
「そんなに嬉しかった?」
「当たり前じゃないですか!僕達はここまで…うぅっ…」
「そうなんです。やっと…私は…」
「キクチ殿…我々は美容師として、お客様に早く接したいのです…でも店に行くと、掃除や雑用がメインでいつも心苦しく…あの忙しい店内での無力感…本当に悔しかったのです」
「ミナラーさん…皆そこまで考えてくれて、ありがとう」
「ありがとうございます!」
それは良かった。それならという事で、ついでに肩のマッサージとスカルプケアを教えた。手伝って貰いたいからね。そしてこちらの技術はまだまだ使えない。そう伝えると、皆が目の色を変えて練習する。週二日とはいえ、これは戦力に期待だな!
※※※
その後、学校内にある研究室で会議だ。僕、ナナセさん、マイさん、ディンドンさん、学者のコペニクさんとクラテスさんの六人で。
「これが出来上がった、カットウィッグですか…」
「良さそうじゃないですか!」
「俺も中々苦労したぜ、毛は魔獣の毛だ。正直今は黒と茶しか出来ない。使えそうな他の毛は、リスクが高すぎる。冒険者を死なす訳にもいかないしな」
「ディンドンさん、十分です!色は自分で染めれば良いですし、手触りも髪質も良さそうだ」
「学者さんにも大分苦労させたからな…魔道具で毛を少し変化させてある、しかも切っても魔力を込めれば伸ばす事が出来る。魔石の使い方と魔方陣は見事としか言えないぜ」
凄い…。一台で使い回せる…。僕のアシスタント時代にあればどれだけ良かったか…。今度買わせて貰おう。とうとうこちらの製品が日本を越えてきたかもね。
「ディンドンさん、コペニクさん、クラテスさん、これで質が上がったら、僕達の製品を越えますよ!」
「「「よしっ!」」」
シザーはもうある。という事はカットトレーニングもスタート出来る。このウィッグなら量産する必要もないし。ナナセさんも羨ましそうにしている。
※※※
「てことは、まだ薬剤は厳しいか…」
「すいませんキクチさん…脱色は良いんですけどね…パーマもカラーももう少し時間が…」
「染毛させる為の材料がどうしても…服とは違いますし、キクチさんの物と同じ様な素材が中々見付からなく…」
「良いんですよ。コペニクさん、クラテスさん。そんなにすぐ結果が出てしまったら、僕達の立つ瀬がありませんよ」
「そうです!焦らない方が良いですよ!」
「キクチくんの言う通りね、私も色々と見てるけど、中々ね…多分様々な物に魔力が働き過ぎてて、材料自体がカラーやパーマに向いてないみたい」
「今はそれを押さえる、研究もしてるんですけどね…」
今後も薬剤は研究を続ける。授業の合間に皆さんは研究をしてくれているので、本当に助かる。そんなこんなで多くの収穫を得て、美容学校から出ていく。
※※※
「少し営業も助かりそうですね!」
「そうだね。それにウィッグも欲しいしね」
「本当ですよ!今までどれだけ、カットウィッグにお金を掛けたことか!」
そんな会話をしながら、校門に差し掛かると、そこに…。
「あっサハラ様だ!こんにちは!」
「久しぶりですね。サハラ様」
「あわわっ、キクチとナナセではないかっ。久し振りじゃの」
あの一件以来、僕達はマイさん以外会ってはいなかった。まぁ最後は宴会だったけどね。
「お掃除ですか?」
「ああ、そうじゃ掃除じゃ!妾が掃くと最高にキレイにするからな!」
「そうですか…それとマイさんから聞きました。アカサタナ帝国に戻ったら、国を見て回るそうですね」
「…色々考えた結果じゃ」
「良かったですね!考える事が出来て!」
本当にそうだと思う。サハラ様はそれが必要だ。間違い無くね。
「妾は無知じゃからの…」
「サハラ様、私と店長はサハラ様の美容師姿見てみたいと思ってますよ!」
「そっそうなのかっ!?」
「さぁ僕はどうでしょうね。サハラ様がどんな姿で美容師になると告げてくるか、楽しみにしてますよ。がっかりさせないで下さいね」
「店長は厳しいなぁ」
「良いのじゃナナセ。…わかった、楽しみにしておれば良いのじゃ!」
そう言って、僕達は帰った。サハラ様は明後日にアカサタナ帝国に帰る。今後どうなるかは、誰もわからない。カナヤ様も楽しみにしている様だし、僕も期待したいとは思っている。
「定休日に、ごめんね。こんなに働かせて」
「楽しかったから良いですよ!」
「まあそうだけどさ…」
「これから楽になると思えば!」
ありがたいなあ、本当に。たまにはゆっくりとして貰いたいなぁ。
「たまには日本で一杯飲まない?」
「良いですね!もちろん奢りですよね!」
「そのつもりだけど…言われるとなんか…」
「はいはい!じゃあ行きましょー!」
そうして、日本でお酒を飲む。こんなのもたまには良いよね。




