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異世界美容室  作者: きゆたく
二年目、異世界隣国騒乱篇
46/136

※美容学生ミナラー、学生生活※


「お疲れー!」


「お疲れ様」


「ミナ、今日のインターンはどうだった?」



 服を脱ぎながらそんな話をしてくるのは、寮で同室のキーロンジー。学生は皆、キーと呼ぶ。私も同様にミナラーだが学生はミナと呼んでくれる。マイ先生が考案した、過去の自分達の立場を忘れる為に決めた事だ。今まで愛称で呼ばれる事も少なかったし、様付けで呼ばれる事が多かった者もいるので、皆とても気に入っている。



「とても興味深かった。魔族のお客様が来られて、ウィービングというカラー技術を見たよ。仕上がりがとても美しく、早く練習してみたい」


「えぇーズルい!私も見たかったな…」


「キーもパラレルで研修の時は、見る機会もあるだろう。一見の価値ありだ」


「楽しみだね!他の研修も勉強になるし、楽しいけど…やっぱりパラレルが一番だなぁ」



 私もそう思う。パラレルは凄過ぎる。他の研修先も元を辿れば全て、パラレルが根底にある。それは誰もが認めている事だ。何かが起これば、そこにパラレルありだ。それが今の国の現状であり、間違いの無い事実だ。



「良し!準備出来た!じゃあ、お風呂行こー!」


「そうだな」



※※※



 そして大浴場に向かう。昔はこんな事もあり得なかった。同じ仲間と仲良く風呂に入るだけだが、こんな物はこの国に無かった。私は影という仕事柄、水浴びを早く済ます程度だったしな。他の元貴族達も、一人で湯に入る事はあっても、皆で入る事など無かったはず。



「あっ、キーとミナ!お疲れ様ですわ」


「カーナ、お疲れー!」


「お疲れ様」



 体を洗い湯船に浸かると、声を掛けてきたのはオサカーナだ。今はカーナと呼ばれている。今は普通に話しているが、元々キーとカーナの実家は中が悪いらしく、本人達も同様に最初の頃は中があまり良くなかった。しかし、共に学び、共に食事し、共に風呂に入り、共に過ごすうちに、友になった。私もそうだ。影だった私にも、生死を分けた仲間や友がいる。でもこういう形の友もとても良い。立場に左右されず、ただ普通に付き合える…そんな関係だ。他の皆も似た様な感じだと思う。



「私がカーナと、裸の付き合いをする事になるなんて、誰が予想出来たんだろうね!」


「いないと思いますわ!でも…私達が貴族に戻ったら、お父様達に言って仲良くさせますわ!」


「あははっ!私はカーナと友達じゃなくなるなら、貴族に戻らなくていいや。それにもう、貴族に未練ないし」


「キー…ありがとうですわ!」


「私は元々貴族では無いからな、友達ではないのか…」



 私は元々貴族ではなくただの孤児で、前王に拾って貰った身だ。エルフとしても高い魔力を持つ私は、影として育てて貰った。影に未練が無いと言えば嘘だろう。王を支える事が、出来なくなったのだから。でも後悔はしていない。それだけ今の生活にやりがいを感じ、満足している。



「そんな意地悪言わないの!ミナも同じだよ!」


「私も!」


「ふふっありがとう。冗談だ」



 貴族達も、今までの貴族では出来ない勉強や仕事に、本気で取り組み、自分と向き合っている。燻っていた者もいるだろうし、オシャレに魅了された者もいる。元騎士に元文官。それに元侍女や、ただ政略結婚を待つ者もいた。でも今はそんな過去を誰も気にしていない。ひたすら美容師になる事、オシャレを勉強する事に真剣に取り組んでいるからだ。もう誰も貴族という事で驕る者はいないし、貴族に本気で戻りたいと思っている者も多分いない。美容師になったら、たまたま貴族籍も付いてくるぐらいの感覚だろう。



「そろそろ上がって夕飯に行こー!」


「そうですわね、お腹も大分空きました」


「そうだな」



※※※



 食堂に行くと他の皆も揃っていた。総勢15人だ。研修日は遅くまで手伝ったり、パラレルだと練習に参加させて貰ったりして、夕飯というよりは夜食に近い。皆が自主的にそうしている。早く美容師になりたいから勉強の為に等と言ってはいるが、本当は単純に楽しいからだと思う。店の人にもういいよと言われても、終わるまでは必ず手伝うし、練習もする。そこにいる人達の事も好きになっているから、役に立ちたい。中には雑貨屋のマリベルさんに、恋心を抱いている奴もいる。平民に恋い焦がれるなんて、昔では考えられない話だろう。



「お疲れー!」


「お疲れ様」


「おーお疲れ!」


「お疲れ様です!」



 皆簡単に挨拶し、夕飯という名の夜食を食べる。そして皆で今日あった事の報告会だ。お互いの情報を共有し、参考にする。実に効率的だ。通常の授業の日でも毎日反省会をする。たまにマイ先生や、キクチ殿も参加して、一緒に夕食を取る事もある。その時のアドバイスは、誰もが聞き入る。発想や考え方も違って、とても勉強になる。



「いいな、その新しいカラー俺もしてみたいな」


「うむ、私もかなり驚いたよ」


「とりあえず、今やってる塗布練習を合格しなきゃだね!」


「そうだなー。パーマのワインディングもあるしな!」


「そのワインディングの道具、今日ギルドで作り始めたよ!」


「えっ、てことはカットウィッグ完成したんだね!」


「一応ね、でもキクチさんのチェックをクリアしないとだけど」



 今日も色々な事が起きている。自分達の美容師としての道具も、この国で大分作られるようになった。まだまだキクチ殿からの提供物が多いから、まだまだ改善しなくてはいけない。…でも何だかんだ言って、結局頼りにしてしまうのだけど。



「うー…妾も参加したいのじゃ…」


「あれサハラちゃん、お疲れ様です!」


「お疲れなのじゃ…」


「サハラちゃんなら、次の候補生になれるよ!」



 サハラ様がいつものように羨ましがる。皆は気付いてない振りをしているが、本当はアカサタナ帝国の王妃という事を知っている。そしてここにいるのは罰だという事も。最初はどこの誰だ、となったが見た事のある者もいれば、噂も回ってきた。すぐにバレたのだ。当然私は知っていた。本人は気付いていないがな。



「あっ!」


「どうしたのサハラちゃん?」


「洗濯の途中だったのじゃ!さらばじゃ!」



 皆はサハラ様を認めている様に見える。多分私達を見て、本気で美容師になりたいと思っていると、私達は思っている。立場や種族が関係無く過ごし、同じ志を持つ者がいるこの環境に、サハラ様みたいな方が憧れない訳が無い。キクチ殿に本気で怒られ、今までの価値観を崩され、新しい生活に、新しい仕事。罰であったとしても、きっと凄く楽しく、やりがいを感じているのだろう。ただ同じ様に勉強出来ない、それが辛いと思う。ある意味最高の罰だ。王妃という立場を考えると、美容師にはなれないだろう。でも私を含め、ここにいる皆は、サハラ様に美容師になって欲しいと思っている。きっとキクチ殿もそう考えているのではないだろうか。



「フフッ、面白いな…」


「あっ!なに笑ってるの!?」


「ミナどうしたのですか?」


「いや…何でもない。サハラが面白くてな…」


「でもミナ最初よりよく笑う様になったよね!」


「キー!私もそう思いますわ!」


「俺も!最初スゲー怖かったもんな!」


「ははっそうだな!」



 私が少し笑っただけで…。良いじゃないか別に…。私だって笑う事はある。…でも以前より増えたのは間違い無いだろうな。この環境と仲間がそうさせたのかもしれないし、美容やオシャレに携わった事で変わったのかもしれない。そんな今の現状には本当に感謝している。これからも、もっと笑えるそんな生活を送りたいものだ…。皆と共に…。



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