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異世界美容室  作者: きゆたく
二年目、異世界隣国騒乱篇
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オースリー王国、ヌーヌーラ共和国と会談


 座っているヌーヌーラ共和国の三人が自己紹介を始めた。



「改めて自己紹介しましょう。私がヌーヌーラ共和国、ハンジョ商会のマダマダ・ハンジョです」



 最初に話していた人だ。僕を興味深そうに見ている。体つきは小さいが、堂々とした男性だ。歳は40過ぎくらいだろう。僕の美容商品にでも興味があるのか…。それとも知識か…。きっと商人として来ているな…。



「私がヌーヌーラ共和国ラルベリマルサーヌピヨン教の教主、サッパーリ・リカフノです」



 スラッとした女性が、少し嬉しそうに微笑んでいる。歳は40前後だろうな。落ち着いた雰囲気で敵意は感じない。でも国によって教会の仕組みが違うのかな。オースリー王国では、教会の人は貴族籍から抜けるらしいし。名前もリリーシュ様に変わってないから、そんな所で何か不満があるのかもしれない…。



「俺は騎士団団長のタオシマ・クルテキだ」



 この人は明確に敵意を向けてくる。歳はアントレン様と同じくらいで30歳前後だろうが、明らかに一回りは体格が大きくて強そうだ。間違いなく僕を睨み付けたし、アントレン様にも向けている気がする。そして一人を抜かして共通している事は、ダサい。昔のオースリー王国だ。髪はバサバサで服のセンスが変…。でも商人のマダマダ様だけは、オシャレだ…。きっとどこからか商品を入手しているな…。



「俺がオースリー王国の国王、ジークフリート・ヴァン・オースリーだ」


「同じく宰相のヤッカム・ポリンクララだ」


「僕は美容室パラレル店長のキクチです」


「では、早速説明してもらおうか…」



 紹介も終わり、本題が始まる。やっと理由が聞ける。



「ではまず私から説明させて下さい」



 商人のマダマダ様から話し始める…。



「まず皆さんがご存じの通り、私達ヌーヌーラ共和国の権力は別れています。なので戦争を望んでいない者も数多くいます」


「それはわかっている」


「特に私達商人はむしろ国交を回復させ、新たな外交をしたいと思っています」


「ふん、既に我が国の物を使っているようだが…」


「お互いに斥候は存在するのですから、そこは穏便に…そしてこれが、国交を回復したい最大の理由でもあります」



 商人らしい考えだ。お金を動かす為には、絶対に必要な商品のはずだ。でも騎士のタオシマ様はイラついている様に見える。



「私も同様です。せめて宗教としての交流だけでもと…神の名が変わった事にも驚きましたが、神の光や神の声を見聞きした話を聞いてますので…私達もこのままでは…」


「斥候はそんな所でも活躍しているか…」


「…はい。光を見た者も声を聞いた者もいるようです…その者達の話を聞くと私達も流石に…」



 僕の周りにも斥候はいたのだろうな…。確かにそれを見た者や、神を信じている者にしたら、今の現状はまずいだろう。違う名前の神を信じなければいけないのだから…。



「ですが…」


「ああ、俺は認めない…!ロシミ様の仇を取るまではな!アントレン!そしてキクチ!」



 ピリッとした、緊張感が走る。何で僕が…。アントレン様はわかるけど…。



「俺はわかるが、何故キクチに手を出す必要がある…」


「てめえらがやった事、理解してねぇのか!」



 全くわからないよ…。そして、またマダマダ様が説明を始める。



「私がこの本を購入したのが始まりです」


「それは…」


「『銀の翼』です…私は斥候や商人のルートを通して何回も大量購入しました…」



 そこには『銀の翼』があった。何故それが…まぁ密輸に関しては僕は関係無いから良いか。ていうか漫画を描いたのもマガジャさんだし。



「これが今、ヌーヌーラ共和国で大人気なのです…今までこんな事はありませんでした。子供も皆で回し読みし、大人も同様です」


「だから我が国でも製本が全然追い付かないのだな…密輸はまあ良いだろう…金を払っているならな。我が国の強さもわかるだろう。それに、うちも似た様な事をしている部分はある…どこの国もそうだ…」


「ありがとうございます。敗戦国としては、情けない話かもしれませんが、それ以上に面白かったのです。敗けを受け入れる程に…」


「だからこそ国交を再開するなら、今という事か…」



 そんなに人気があるのか…。マガジャさんは売れっ子だなあ。



「私達も『おしゃれ』に興味を持ち始めましたからね。銀の翼に出てくる人達があまりにも格好が良いので。シャンプー等も少しづつですが流通しています」


「商売人にしてみれば大チャンスだろうな…」


「そうですね。そして教会もそうでしょう」


「はい。私達も『おしゃれ』を神が求めているという噂を聞きました…真実であるなら、確認をする為にも国交が必要になります…」



 なるほど…。でも騎士なのか団長だけなのかわからないが、軍は納得してないのだろう。敗けをそこまで引きずっているのか…。



「で、この本の内容です…」


「何が悪いんだ?上手に描けているだろう?」


「ふざけんなっ!」



 タオシマ様が叫び、机を叩く。僕はビクッと驚いたが、他の人は冷静だ。ちょっと恥ずかしい。そして僕を見ながら、タオシマ様は話し始める…。



「この内容はどうなってんだ?事実とかなり違うが…!」


「どの辺が…?」



 とうとう僕の話す番が回ってきた様だ。



「この頃は銀翼の騎士団なんて、名乗ってなかっただろうが!アントレンなんて、なんだ王国の雷槍?ふざけんな!」


「そっそれは、ちょっと脚色した内容ですので…」


「それになんだ俺達は!こんなに汚ならしく描きやがって!てめえらもそんなに変わんなかったのに、なんだかやけにカッコ良く描かれてるしな!」



 それは僕のせいじゃないよ…。マガジャさんだよ…。そしてタオシマ様の不満は続く…。



「三巻まで見て、俺達騎士は怒りに震えた…でも耐えた。戦争に敗けたのは俺達だしな…内容は客観的に見れば面白いと思う…」 


「なら…問題ないんじゃ…」


「だが!これの続きで間違いなく、ロシミ様は殺されるだろう…。俺達はあの勇敢に戦ったロシミ様が、汚ならしく無惨に殺されるのだけは許さない!」



 タオシマ様は必死だ。後ろで控えている騎士達も涙を堪えている様だ。



「挙げ句の果てには、共和国内でも…てめえら騎士団の方が人気だよ…俺達はクソみたいな目で見られる…ここまで誇りを傷付けられるとはな…」


「それは大変申し訳無い事に…」



 国を守ってきたのに、非難の目で見られるなんて…かなり気の毒だ…。他の皆も少し同情している様だ。



「でも何で僕なんですか?作者じゃないですよ?」


「作者が『聖本の騎士』マガジャなのはわかっているが、この本の文化を作ったのはお前だろうが。マガジャが仮に死んでも終わらない。第二の描き手が現れる…だがお前を潰せば…この文化は終わる可能性がある」



 確かに…。でもナナセさんやマイさんもいるから、文化は終わらない。もしかしたら勢いは止まるかもしれないが…。



「お前がこの本をここで止めると言えば、俺達は手を引いても良いだろう。殺しまではしない。それにアントレンへの復讐も、考え直してやっても良い。だが闘いは避けられなさそうだがな」


「へっお前に俺が倒せるとは思えないがな!」


「何だと…」


「やるか…?」


「止めろっ!」



 アントレン様との小競り合いを、ジーク様が止める。それにしても数冊の漫画で、ここまで大事になるか?やっぱりこの世界は動きが早い…。



「どうだキクチ…どう考える」


「…うーん、そうですね…少しだけ考える時間を貰えませんか?」



 皆も納得し少し休憩に入る。軽くティータイムだ。ここで僕は考える。漫画文化を終わらせず、戦争を止める方法を…。ヌーヌーラ共和国にも文化は広めたいと、僕は思っている。それがリリーシュ様の願いでもあると思うから。とにかく向こうの騎士団さえ納得させれば…。でも闘いはどう転んでもしたそうだしな…。アントレン様も闘いたそうだし…。



※※※



 決めた。僕が思う最善の方法を…。この世界の人達にピッタリのやり方だろう…。多分ね…。



「決めました!」



 皆が僕の方を向き、話に耳を傾ける。



「…まず武闘大会を行いましょう!」


「武闘大会?」


「はい。今から簡単に説明します。まず五対五の計十人で闘います。一対一を五回行い、先に三勝した方の勝ちです」



 皆が興味津々で聞いている。良し!掴みは取れた!



「で、勝った方の言う事を聞く。オースリー王国が勝てば、ジーク様やヤッカム様のお好きな様にどうぞ。ヌーヌーラ共和国が勝てば、国交を回復するなり何でも良いです。僕とアントレン様の処分も任せます。他にも希望があるなら考えておいて下さい。ただし、殺しは無しです。僕も死にたくないですから。本気の戦争ならとことん奪い合うのでしょうけど、そこまでする必要は無いでしょうから」



 皆が頷いている。完全に僕のペースになっている。



「どのようにすれば…」


「剣と魔法を使わず身体のみの『格闘戦』の闘いを第一戦。魔法を使わず剣と身体の『剣闘戦』が第二戦。そして魔法も含めて全て行える『闘神戦』を第三戦から第五戦でどうですか?それと絶対に殺しは無しです。審判も付けて下さい。戦意や怪我等で戦闘不能を判断して欲しいですから。後は、治療が行える者をしっかりと付けて行いましょう。…こんな感じでお互いの誇りを掛けて、全力で闘いませんか?」


「…天才だ…」


「最高の方法じゃないか…」


「…こんなやり方が…」


「やってやるぜ!」



 良し!皆が納得した。エンターテイメントの様な文化が、発展してなくて助かる。これで問題はきっと解決するだろう。ちょっと僕の中二病が出たけどね。さてどうなる事か。因みに僕はオースリー王国が敗ける事は無いと信じている。多分ね…。




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