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異世界美容室  作者: きゆたく
二年目、異世界隣国騒乱篇
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漫画『銀の翼』、いざ発売


 マガジャさんの描いた漫画『銀の翼』は最高だった。漫画セットを渡してからの、成長率半端ない。元々センスあるとは思ったし、期待もしてた。でも前回は、僕が貸した漫画の延長線上にあった。でも今は完全オリジナルだと思う。まぁプロじゃないから確信は無いけど…。自伝を脚色したストーリーに、アクションシーンも魔法も凄く上手、戦争のシリアスな部分だけでなくギャグも入り、人物像も皆を少し誇張させ、騎士団もカッコ良い。とにかく最高。そしてちゃっかり作者名は聖本の騎士になっている。



「完璧じゃないですか…」


「凄い!続きはまだなんですか?」


「ありがとうございます!僕も中々の自信作でして…続きはまだ皆の話をまとめきれてなくて…その場の雰囲気とか、僕が見てない現場の状況をちゃんと描きたいので…」



 ここには約400枚の原稿がある。取材不足でここまで…。凄まじいスピードで描き上げてる。それでもまだ内容は、三分の一位らしい。



「本にして出しましょうよ!私買いたいです!」


「僕も欲しいなあ」


「紙はギルドが頑張ってくれたおかげでなんとかなるんですが、印刷が上手に出来ないみたいで…まぁ僕が同じ本を何冊も描く訳にもいきませんから…」



 確かにまだこの国では厳しいか…。僕達がコピーだけでもするべきかな…。そしてナナセさんが話し始める。



「うーん…魔法でなんとか出来ないんですか?」


「魔法ですか…魔法は印刷で使いませんからね…」


「例えば、まず原稿に手をかざして読み取る。それを別の紙に張り付けるんです。時間と人が足りないなら、魔道具と組み合わせて、インクとか必要ならそこに内蔵しておくとか。そんな感じで効率良く作業的に行えば、大量出版も出来ませんか?」


「…掌に魔力…魔方陣は…そしたら連続した…光属性の方が…いやインクにも魔力込めて…」


「あっ…あの…マガジャさん?」


「いっいけるかもしれません!すぐに戻ってギルドと確認取ります!では失礼します!」



 風の様に帰っていった。またナナセさんは革命を起こしたかもね。でも漫画が広まるのは良いよね。



※※※



 あっという間だった。あれから一週間で本を作り上げてきた。『銀の翼』の一巻と二巻の二冊。ナナセさんのおかげで成功したようだ。まだ印刷の魔道具は改良の余地があるが、ひとまずある程度の量を製本出来たみたいだ。今も作っているのだろう。



「無事なんとか出来ましたよ。僕も全財産つぎ込みましたからね、売れないと困りますよ」


「絶対売れますよ。でも一冊1500リルですか…儲けありますか?」


「私も安過ぎると思います!」


「良いんです。平民にも読んで欲しいですしね。気軽に子供にも買って貰いたいですから」


「あんた神や!漫画の神や!」



 ナナセさんが変なモードに入っているが…。でも開発費や、今まで掛けてきた労力とあまりにも釣り合わないと思う。



「それにキクチ殿やナナセ殿の国では、もっと安価ですよね。そして当たり前の様に、皆が読んでいる。だから僕は…そこに届く為に、最初から無茶していこうと思います」


「「神や…間違いなく神や…」」



 この心意気は神だろう。優しすぎるよ…。目一杯フォローさせて下さい!



※※※



 あれから漫画『銀の翼』は売れた。まずは王都から始まり、あっという間に国中で大人気になった。漫画という文化をあっさり受け入れ、新しい文化に心酔している。そして印刷が全然追い付かない。魔道具も改良中らしいが、改良されても多分追い付かないそうだ。身近な人は知っているが、謎の漫画家として『聖本の騎士』も大人気に。



「大変ですよ…製本は追い付かないし、続きは催促されるし…」


「マガジャさん…それが漫画家の宿命です!」


「本当だね。騎士の仕事は大丈夫なんですか?」


「かなり厳しいです…部隊長や団長はかなり融通を利かせてくれているんですが…そのうち辞めなくてはいけないかもしれませんね」


「そのうち新しい部隊でも作るんじゃないですか?銀翼の騎士団にいてもらわないと、団長が困るだろうし、私はそうなると思いますよ!」


「えっ何故ですか?」


「インペリアルガードが悔しがるから」


「「………」」



 確かに、と思った。銀翼の騎士団の漫画でこれだけ盛り上がってたら、インペリアルガード達が黙ってられないはずだ。



「それは十分考えられますね…タハラシ様もうちの団長も張り合うの大好きですから…だから、俺をもっとカッコ良く描けとか言ってくるのか…」


「まぁインペリアルガードの物語も、僕は読んでみたいけどね…」


「そのうちジーク様辺りから俺の物語も描いてみないか?とか言われますよきっと」


「「……」」



 僕達は素直に納得した。まあ取り合えず、銀の翼を最終巻まで描いてからの話だ。



※※※



 そしていつもの様に、僕の部屋で仕事をしに来たタハラシ様が、申し訳無さそうに僕に聞いてくる…。



「キクチ殿…私達に絵の上手な者を紹介して頂けないだろうか…」


「タハラシ様…」



 やっぱりインペリアルガードも動いていた。かなりあの漫画は悔しいらしい。よりカッコ良く描かれているせいか、自分達もカッコ良い物語を国民に見せたいらしい。毎日騎士団に自慢されるらしく、血の涙が渇れる事はないらしい…。アントレン様達はかなり攻めてるな…。



「…私含めて誰も絵が上手な者がおらず…自分達でも探してはいるのですが」


「マガジャさんに銀の翼が終わったら頼めば…」


「キクチ殿…私達に…あのアホ共に頭を下げれと言うのか!?」


「あっ、すいません…」


「店長!定食屋のプルトンさんが、絵が凄く上手ですよ。銀の翼の漫画を見て、簡単に地面に木の枝で描いてました。それと店長の好きな巨乳ちゃんですし」



 ナナセさん巨乳は関係無いじゃないか…。…まぁ嫌いじゃないけど。そしてタハラシ様は、慌てて出ていった。タハラシ様を見送り、ふと後ろに気配を感じて振り返ると…。



「キクチ、俺も実は…」



 ジーク様もか…。大方マガジャさんに断られたのだろう。もしくは銀の翼が完成してから、とでも言われたけど待てなかったか。まぁ何でも良い…。この間あんなに怒ったのに、この国は大丈夫なのかよ…。



※※※



 その後、プルトンさんは多少興味もあったらしく、試しに描いてみる事になった。出来上がったら、また僕達がチェックするらしい。因みに僕達は編集者ではない。王様の方は、描く人が見付からず苦戦中。でもこうやってマガジャさんに憧れて、漫画を描く人が増えると良いね。そして…。



「キクチ殿、三巻のチェックをお願いします」


「マガジャさん、もう僕達にチェックさせる必要は一切ないよ。もうそろそろ自分の作品に、誇りを持って欲しい。これからは僕達は出来上がった漫画を買って読む。それだけで良いんです」



 本音を言うと、面倒臭いっていうのもあるけど…。僕達にいつまでも頼られても困るしね。本人にも納得してもらった。そしてこれから大問題が表に出てくる…。僕達は少し考えが甘かったんだ…。



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