騎士マガジャ、漫画家誕生
「キクチ殿…これ読んでもらえないか…?」
営業終了後にわざわざやって来た彼は、銀翼の騎士団の一人マガジャさん。髪はアッシュブラウンのショートで、凄くイケメンな一般の騎士。因みに二つ名は無い。そんな彼が見せてくれたのは…。
「これっまさか!漫画ですか!?」
「本当だ!マガジャさん凄い!」
僕とナナセさんは、見て驚く。羊皮紙にインクで描かれた漫画だ…。枚数は二十枚ほど。表紙には銀翼の騎士団が描かれていて、題名は『銀の翼』。表紙をめくり、読んでいく…。
※※※
「マガジャさん…最高じゃないですか!」
「凄い!上手ですね!私もう続き読みたいです!」
「本当ですか?ありがとうございます!」
内容は何年か前の実際の戦争の話らしく、その時の騎士団の活躍を描いている。但し、既に銀翼の騎士団で皆オシャレに描かれている。少し盛った内容の、ファンタジーアクション漫画だ。
「少し、僕達をカッコ良く描いてますけどね」
「良いんですよ。漫画はそういう物です」
「主人公はマガジャさんなんですね」
「一応僕の成長を描いてみようかと…実際はそんなに活躍しませんけどね。少し希望も入ってます」
漫画はまだそこまで上手ではない。でも今まで貸した漫画を参考に、凄く良く描かれている。戦いのシーンなんか素晴らしいと思うし。そして何か引き込まれる…。きっとセンスや、才能があるんだと思う。もちろん努力もあるだろう。
「かなり苦労したんじゃないですか?」
「羊皮紙が結構高いですからね。これだけでも三ヶ月掛かりましたよ。でも描くのは楽しいですから」
「店長!」
「うん!」
そこでマガジャさんを少し待たせて、パソコンへ向かう。そして作業を終えて…。
「三日後また来てくれませんか?」
「三日後ですか?夕方くらいなら大丈夫だと思いますけど」
「それで良いです」
※※※
三日後、彼にはプレゼントをした。インターネットで色々と注文したのだ。
「こっこれは…」
「漫画家セットです!」
「ペン、インク、紙とかです。是非使って下さい」
ペンとかは本物だ。一応スクリーントーンやカッター、下敷きまで用意してある。ただ原稿用紙は勿体ないから、B5とA4のコピー用紙だけどね。
「こんなに沢山…」
「良いんですよ。この国で新しい文化の第一人者が生まれたんだから」
「何か足りなくなったら言って下さいね!店長が用意しますから」
「ナナセさん…そんな簡単に…まぁ用意するけど。でもギルドとかに見せて、作ってもらう方向も考えて見て下さい」
「わかりました!ありがとうございます!」
本当に嬉しい事だ。とうとうこの国でオリジナルが生まれる。今までは基本的に僕達の真似ばかりだ。魔道具やファッション、与えたものばかり…。まぁオシャレとは離れた文化ではあるけども…。
「他の皆の反応はどうなんですか?」
「いえ、まだお二人にしか見せてませんよ。まだ下手で恥ずかしかったので」
「マガジャさん見せた方が良いですよ!素晴らしいですから」
「せっかくですから二つ名も上げます!うーんと…『聖本の騎士』でどうですか?」
また簡単に二つ名付けて…。まぁマガジャさんがかなり喜んでいるから良いけどさ。そのままマガジャさんは受け取った道具と一緒に、帰っていった。
「凄いですね!まさか漫画家が誕生するなんて」
「そうだね。新しい文化が生まれる瞬間だよ」
※※※
その後マガジャさんは他の騎士に見せたらしく、評判もかなり良かったそう。ただ、自分を描いて欲しいと言う騎士の対応に困っていると言っていた。王都のギルドでも、道具の開発を試行錯誤している。中でも紙は、学者も協力し本気で取り組んでいるらしい。急激な漫画文化の発展だ。
「発展するのは良いけど、貸した漫画は一冊も帰ってこないけどね…」
「そうですね…店長の本棚少し寂しくなってますもんね…」
やがてマガジャさんの描いた漫画は、大人気になる。印刷して国民が見る日も近い。僕の漫画が返ってくるのは遠いけど…。しかしそのマガジャさんの漫画が広まった時に、また大きな問題が起こるのだが…それはもう少し先の話。




