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異世界美容室  作者: きゆたく
二年目、異世界隣国騒乱篇
35/136

※材料屋のサトウ、美容室訪問※


 俺はこの美容室に、週に最低でも一回は必ず行く。仕事だからね。そしていつものように、裏口から入っていく…。



「こんにちは、材料持って来ました」


「あっ、サトウさんこんにちは!」


「おっ、ナナセさん、ご苦労さん。材料と商品ここ置いとくね」


「ありがとうございます!」


「それとキクチ空いてるかな?忙しいようなら、夜電話するけどさ」


「はい!一応聞いてきます!」



 俺はここがどういう店かを知る、数少ない日本人の一人だろう。異世界美容室パラレルだ。外には出た事無いが、来ているお客様と窓から見える景色で理解している。最初は冗談だと思ったけどね。



「お疲れサトウ、何かあるの?」


「おおキクチ、急にカラー剤やパーマ剤の大量注文受けたからさ、もしやと思ってさ」


「ああ、始めるよ。まあ美容学校の研究用だけどさ。僕達もモデルからスタート予定」


「なるほどなぁ」


「今あんまり時間無いから、後で連絡する」


「了解。じゃその時に詳しい話、頼むわ」



 俺とキクチは美容学校の同級生だ。中も凄く良い。でも俺は美容師になって三年で辞めることになってしまった。それから俺は美容室の材料屋になった。また一から頑張り、キクチが店を始める少し前には、自分で会社を立ち上げる事も出来た。社員は俺一人だけどね。



「ご苦労様です!」


「よっ!頑張ってるね。オーパイさん」



 アシスタントには頑張ってもらいたいと特に思う。俺はスタイリストになる前に辞めてしまったからな…。理由は手荒れだ。美容学生時代は気にならなかったが、元々肌に合わない体質なのか、働きだしたらすぐ荒れ始めた。まずいと思った俺はシャンプーの回数やパーマやカラーの薬液、ゴム手袋など色々な事を気にして対策した。お店の先輩等も凄く気にしてくれて、とても助けられた。



「ここのスタッフもお互い助け合って良いよなぁ」


「そうですか?当たり前かと。師匠は優しいですし」



 確かにそう思うが、俺の場合はそれでもダメだった。どんなに協力を得ても越えられない壁がある。俺がアシスタントの頃の手や腕は、ステロイドの薬を塗ったりしても、常にゾンビのように爛れていた。皮膚は裂け、血も流れ、リンパ液も流れる。常に痒みとの戦いで、寝ている間にうっかり掻いてベッドが血塗れなんて事もあった。最終的には皮膚が再生する間もなく、常にジュクジュクで腕に包帯、そして全身の皮膚もおかしくなり始めた頃に諦めた。誰から見ても気味悪い状態だったんだ。アレルギーには、どんなに抗っても勝てなかったんだ…。



「良かったら、これ皆で使って」


「サトウさん、何ですかこれ?」


「ハンドクリームさ。特にオーパイさんはシャンプーも多いから、手が荒れる事もあるだろうしね」


「ありがとうございます!大事にします!」



 少しでも、頑張っている人の手助けが出来ればいい。俺みたいに夢半ばで辞める奴は、少ない方がいいからね。実際は簡単に辞める奴も凄く多い商売だ。でもこの美容室はそんな事にならないだろう。俺もこの一年大分儲けさせてもらってるしね。そんな事にならない手助けもしなくちゃ。



「じゃ、また来るね」


「はい!ご苦労様でした!」



 この美容室はキクチの物だ。でもこの美容室を作っているのは君達全員なんだ。離れずに頑張って欲しい。俺も結局、美容業から離れられなかったしね。辞める時、次どうしようかと悩んでいる俺に、今の仕事のアドバイスをしてくれたのは、キクチだ。そして今大分稼がせて貰ってるのもキクチのおかげだ。近々酒でも奢らせてもおうかな。パラレルとキクチに乾杯ってね!



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