教会のトップ達、公開説教
「まず私達が聞きたいのは、ラルベリマルサーヌピヨン様は、間違いなくリリーシュ様になったのだな?」
「はい。ありがとうって言ってましたから」
「ほらやっぱりキクチ様じゃないですか!」
あっヤバい。名前を変えた時の話は、国民には僕達の名前を伏せていたのに…忘れてた…。引っ掛けられた…。
「そうだな。まあキクチ様、悪く思わんでくれ」
「いいですけど…因みに名前を付けたのは僕じゃありませんからね」
「わかっています。ナナセ様が色々と名前等を沢山付けているのは、かなり有名ですからね」
確かにナナセさんは有名だったな。女神とまでいう人もいるし。
「ふんっ、俺はそもそも、その話を信じてはいないがな」
「カイーノ様はあの時の光を、見て何も感じなかったんですか?」
「どうせ新しい魔法の一つだろう。誤魔化されるか」
「まぁ僕は信じてもらわなくても、別に構いませんけどね」
イライラしてきた。アイツは何しに来たんだ。
「キクチ様はリリーシュ様と、いつでも話せるのですか?」
「いえ無理ですよ。この間、ここで声を聞いたのが二回目ですし…」
チノピン様は残念そう。信仰している神の声が聞けたら嬉しいだろうな。
「どうせ聞いたこともない癖に…ホラ話でも吹いたのだろう」
「そう思いたいならどうぞご自由に。て言うか皆さんは声を聞いた事は…?」
「「「……」」」
無いのか…。何か申し訳ない。うーんでもカイーノみたいな人に信仰されても、リリーシュ様は嫌なんじゃないか?もしかして信仰の仕方が悪いのかな…。
「すいません、ちょっと聞いても良いですか?」
「何でもどうぞ」
「普段リリーシュ様を信仰する上で、何をなさっているんですか?」
「えーとそうですね。私達は慎ましい生活を大事にして、毎日のお祈りをする事ですね。後は人々の為に癒しの力を使う事とか、布教活動ですかね」
「因みに、慎ましい生活とはどういうものですか?」
「色々と控えますね。食事や服装、所作など」
何か怪しいなぁ。
「生活は成り立つのですか?」
「私達の生活は、基本的にお布施で成り立っています。他にも怪我人や病人の治療をする事で、お金を頂いています」
だとしたら、おかしいよな。
「では何で太っている人がいるのですか?贅沢でもしてそうですけど」
「なっ何を突然!そんなっ事あるかっ!」
カイーノが慌てる。チノピン様とライソ様は黙る。アントレン様は笑いを堪えている。僕の感情はは少しづつ冷たくなっていく。
「何故アクセサリーを無駄に付けたりしているのですか?お布施はその為ですか?」
「きっ貴様っ!私達を、侮辱する気かっ!」
「いえ別に。ただ、気になっただけです。侮辱しているように聞こえたのなら、『あなた達』じゃなく『あなた』です」
「なんだとっ!」
「静かにしなさい、カイーノ様。話を聞きましょう」
ライソ様がカイーノをなだめる。チノピン様も不安そう。アントレン様はもう笑いを堪えるのに必死だ。
「これから僕が言うことは、正しいかわからないです…それでも聞いて貰えますか?」
「誰が貴様のっ…」
「カイーノ黙れっ!」
「聞かせて下さい。キクチ様」
ライソ様が少し大きめな声で、黙らせる。チノピン様も話を聞いてくれるようだ。
「僕はリリーシュ教、つまりあなた達の組織を全く信用出来ません」
「「「えっ」」」
「ですが、リリーシュ様は信じています」
三人供呆けている。周りの神官達もだ。
「お布施と言えば聞こえは良いが、実際はただお金を貰ってるだけ。普段は大した事もせず、たまに怪我人や病人を少し治療して膨大なお金を奪い取る…最低の組織です」
「そっそんなこと…!」
「違いません。明らかに私腹を肥やしている人達がいるのに、何もしていないような組織はクズです。聖書とかあるのか知りませんが、昔からの教えをそのまま受け継ぐだけの怠慢な考え方。少しでも国の発展に協力しろよと言いたい。神の名を盾にし、自分達を神格化させてやりたい事だけやる。本当に呆れる。無能。」
「そこまでひどくは…」
「いいえ、ひどいです。あなた達は戦争が起こったり、病人がいないと必要されません。もし文化が発展すれば、戦争等も起きず怪我人もでない。生活が向上すれば病人も出ない。本来そういう生活を求めているのに、そうなったら一番困るのあなた達ですよ?そういう世界を求めるのが宗教でしょう。人を治すのが気持ち良いですか?善意ではなく、自己満足ですか?優越感に浸りたいだけですか?そもそも良くわからない階級制度だし、あなた達が布教するより街の人達の真実の声の方が、よっぽど良い」
「「「……」」」
「要するにそんな人任せで、怠惰な生活をし、私腹を肥やす人達に、信仰されてもリリーシュ様は迷惑なんだよ!声なんか聞こえる訳ない!」
言い過ぎたかな。実際はそこまで酷くは無いと思うけど…それくらい言わなきゃ伝わらないよね。ちゃんと信仰している人も多くいるだろうしね。そして案の定、アントレン様は声を押さえるのに必死だ。他の騎士も堪えている。
「私達はそんなに駄目なのか…?」
「実際はそこまで酷くは無いかもしれませんが、僕にとってはその程度の組織という事です」
「私はどうすれば…聖女なのに…」
「ちゃんと理解する事です。昔の言葉は正しいのか、自分の行動は正しいのか。今のこの世界に何が必要で、何が求められているか。その上で自分達が、自分が何をすべきか考えて下さい」
「深いな…」
「リリーシュ教が、私腹を肥やす事、惰性で過ごす事、己を省みない事を許すのであれば、今のままで良いです。ただチノピン様は最初に『慎ましい』という言葉を出しました。だとすれば矛盾だらけです。もし自分達に都合良く解釈しているのであれば、考え直すべきです。聖書や教典みたいな物があるならば、しっかり見直して下さい」
※※※
その後も色々と話をさせて頂いた。チノピン様とライソ様も色々と話を出し考えられている。だがカイーノは言い訳ばかりで、終始不満そうだ。僕のイライラも最高潮だ。
「…そんな事言っても、今までのやり方もある。生活も考えなければ…」
「どうせカイーノ様は、僕の商売の利権を求めて今日は来られたのでしょ?」
「なっ何をっ!」
「私達が広めてやるからとか言って、安く仕入れて高く売るつもりだったんでしょ?あわよくば製造方法聞き出してとか、ですか?バカらしい」
図星っぽい。カイーノ一派の神官もそんな顔だ。アントレン様は笑いを堪えるのを既に止めている。他の騎士達も同様に笑っている。
「貴様っどこまで侮辱すればっ!」
その瞬間、カイーノ様の手を炎が包む。僕に魔法を放つ気だ!この場でやるか?
「ウグッ…」
しかし一瞬で、アントレン様がその手を押さえ込み、いつの間にか現れた影がナイフを首に当てる。チノピン様とライソ様も魔法を放てる態勢になっていた。つまりあっさりとカイーノは捕獲されてしまった。情けない。とはいえ、まさかここで攻撃に出るとは…少しビビりました…。
「キクチ煽りすぎだぜ」
「すいませんアントレン様。教会でこんな事するとは思っていませんでした…チノピン様とライソ様もすいません」
「カイーノ様にだけ言葉強めで言ってましたもんね」
「キクチ様もかなり苛つかれていた様で」
「はい…第一印象からずっと…何を狙っているかわからなくて…まぁすぐわかりましたけど。明らかにお金目当てっぽかったので」
明らかに自分の為に動いているからな、わかりやすかった。話も保身だけしかなかったし。
「俺も影も暇にしていたから良かったよ」
「アントレン様、勘弁して下さい!ずっと笑ってたじゃないですか!」
「まあな、リリーシュ教にあそこまで言うとはね、王に良い土産話ができたよ」
勘弁して下さい。面白がられても大変だ。
「これからはリリーシュ教も変わります。また相談しても良いですか?」
「私からも頼む。まだまだ時間が掛かるだろうしな」
「時間がある時は良いですけど…リリーシュ様が怒らないかな…」
その瞬間またあの優しい光が広がる…。
「キクチいつもありがとう…ライソ、チノピンも良く考えて頑張って下さいね…誇りを持って…」
そして元に戻る…。この場にいる皆が呆けている。カイーノでさえも。
「リリーシュ様が…おっお声をっ…」
「私の名前をっ…お呼びにっ…!」
「私にも聞こえたぞっ…!」
「こんな日が…くっ来るなんて…」
皆がいつものように喜んでる。リリーシュ様も最初に出てきてくれれば、もっと説明も上手くいったのに。結構、高みの見物してた気がする。楽しんでたんじゃないか?いつか顔を見てみたいものだ。ちゃんと話せる日が来ると良いな…。
※※※
「本当にキクチ様のお陰です!これからは聖女として一からやり直しますね。せっかく髪も切ってもらったし」
「私もリリーシュ教の在り方を考え直すよ。リリーシュ様にも頑張れと言って頂いた。スカルプケアも信仰の一つだと思うしな」
教会を出た後は、お店でカットやスカルプケアをして下さった。今回はお布施ということでサービスにした。二人供本当に喜んでくれた。
「頑張って下さいね。これからのリリーシュ教に期待しています」
リリーシュ教の人達は満足して帰って行かれた。これから膿をまず出しきるのだろう。人聖という役職はどうなるのだろうか。これから階級等も変わっていくだろう。そして今回は危ない目に合った。アントレン様達のお陰で助かったが、いつも護衛がいるわけではないし、気を付けなくてはいけない…。因みにナナセさんにはまだバレていない。知られたら…凄く怒られそうだしね…。




